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ショートストーリーズ 僕とキミの15センチ

[著]井上 堅二ほか  [絵]竹岡 美穂ほか

それは、明日起こるかもしれない、あなたの「if」の物語―。「僕とキミの15センチ」をテーマに、総勢二〇名の作家が参加した珠玉のショートストーリー集。Web小説投稿サイト『カクヨム』に掲載された作品に、『バカとテストと召喚獣』の井上堅二や『“文学少女”シリーズ』の野村美月、そして『東雲侑子シリーズ』の森橋ビンゴによる「あの作品×僕とキミの15センチ」のスペシャル書き下ろしショートストーリーを加えた全二〇篇収録!(「BOOK」データベースより)

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 ファミ通文庫19周年記念として「カクヨム」に掲載された"15センチ"をお題にしたファミ通文庫作家のオリジナル短編+公募作1編+「東雲侑子」「バカテス」「文学少女」の番外短編3編を集めたアンソロジー。番外短編3つ以外はすべて「カクヨム」の企画ページから読めるので、気になる作品があったらチェックしてみると良いかも。

 バカテスの短編目的で買ったんですけど、ラブコメありホラーありSFありの「全部盛り」なお祭り感がめちゃくちゃ楽しい。アンソロジーってだいたいひとつふたつは合わない作品があるんだけど、どれも凄く面白かった!ファミ通文庫は割とこの手のアンソロジー企画定期的にやってる印象なので、20周年となる来年も楽しみ。

  〜以下、タイトルクリックでカクヨムの第一話に飛びます。〜

記憶喪失の少年が目を覚ますと、目の前の少女との殺し合いを強要されていた。記憶に残っている物語の展開を思い出しながら事態に対処していこうとするが……。
文庫表紙のイラストから青春ラブコメアンソロみたいなのを想像して読むといきなりデスゲームの皮をかぶったSF的ななにかにぶん殴られる構成が最高に良い。「僕」と「私」の対話によって淡々と語られる物語と、少しずつ自らの存在が足元から揺らいで行くような展開が楽しかった。

15センチの距離で見つめ合う幼馴染のふたり。いつのまにかそれはどちらが先に離れるかという「いつもの勝負」になっていて……。
なんでもかんでも「勝負」になっちゃうケンカップルは好きですか!(大好きです!) 軽口を言い合ったり、お互いの羞恥を煽ってみたりという軽妙なテンポの掛け合いから、最後にド直球で責めてくるのがズルい。短くて爽やかな青春短編。

家の蔵の中には「コダマサマ」と呼ばれるミニ神社がある。コダマサマへのお供えを持って行った康太は、好奇心からお社の中を覗いてしまい……。
短い時間を濃密に生きる「コダマサマ」たちと不登校になってしまっていた少年の、数カ月間の短い交流。可愛いくてちょっぴり切ない、明日を生きる元気が湧いてくるような物語でした。可愛かった……。

付き合っている先輩と縁日デートに向かう途中、先輩の運転する車に「ぶつかってきた」不思議な少年。現場で拾ったスマホの中身を確認してみると……。
初めて恋に落ちた少年の色ボケ全開の日記が最高に頭悪くて、そこから段々「ちょっと不思議」なお話になっていく展開が楽しい。割と先が読める展開だったけどその王道ド直球ぶりが良かった。最後の「僕の天使」で思わずニッコリ。

クラスであぶれ者になった僕と出雲さん。クラスの中心となる生徒達の楽しそうな姿を横目に、彼女は“地面から十五センチだけ浮いた程度の物語”を所望する……。
もうこのタイトルだけで勝ってる感すごい。求めるのは退屈な日常からちょっとだけ乖離した非日常。クラスの輪の中に入り損ねた彼らがそれをdisりつつ、ちょっとだけ勇気を出してその“非日常”に飛び込もうとする姿に胸が熱くなりました。そしてその非日常感を「地面から十五センチだけ浮いた程度の物語」って言いかえるセンスがめちゃくちゃ好き。それにしてもちょっとしか出てこないけどカーストのてっぺんである花咲さんからは本物の強者の気配がしますね……勝てる気がしない。

展覧会をきっかけに惹かれあっていく華道家元の娘・彩華と書道教室の息子・涼介。涼介への恋心を自覚する彩華だが、彼は茶道教室の娘・花鈴と付き合っていた……。
「カクヨム」コンテストの最優秀作品。両親のせいで恋愛に懐疑的だった繊細な少女がひとりの少年と出会って変わっていく、爽やかなラブコメ……だとおもっていたら途中からうっかり彩華さんが間違った方向にふっきれてドロドロの三角関係に一直線。魔性の女みを上げていく彩華さんvs女の嫉妬全開の花鈴さんvs板挟みにされる涼介という、ひどい泥沼が展開されていきました。3Pルートには流石に入らなかった(でももうこれ3Pエンドだろと思ってた)けど、最後の涼介一人称からそこはかとなく漂う未練感がまた、最後まですっきりしなくて大変良かったです。

入学以来入り浸っている大学図書館で、なんとなく気になる存在であった彼女。ある日、彼女の方から声をかけてきて……。
近づいたり離れたり、もどかしい距離感がくすぐったいラブコメ。自意識過剰ではと警戒したり、女子慣れしてない&図書室慣れしてない感丸出しの主人公と、図書館大好きな女性・高坂さんがとてもかわいい。「15センチ」の中でひとつの物語が生まれたことを予感させるお話でした。

数カ月ごとに、実家のケーキ屋で5号(直径15?)のショートケーキをホールで買っていく少女。彼女が有名な走り幅跳びの選手であり、記録更新の度にケーキを買いに来ていると知って……。
幸せそうにケーキを買っていくゆっきーが本当に可愛いし、そんな彼女の姿に魅せられて、家業のケーキ作りを頑張り始める主人公がさらに可愛い。どこまでもケーキの様にふわふわで甘くて可愛いお話でした。

隣の席に座る、かなりミステリアスな美少女。彼女とのやりとりは、いつも何かがズレていて……。
いつも15センチほど目線がズレていたり、何故か自分のことを必要以上に知った風な口を利く美少女・十六夜さんと「僕」のすれ違いまくりの会話劇が楽しかった。「15」という数字にまつわるズレが沢山登場するのだけど、"十五文字分くらいズレている"なんか完全にWeb小説媒体だからこそのお遊びという感じがして好き。テンポよく会話が進み、最後はちょっと良い感じの雰囲気になって終わる、楽しいお話でした。

五軒先に住む幼馴染の少女の専属理容師をしていた俺。いつものようにカットをしていた最中、彼女が出来たことを伝えると……。
幼馴染なふたりの可愛くて甘酸っぱい恋物語。告白されたので流されるようにOKしたけど付き合えば付き合うほど幼馴染のあの娘と比べてしまって……隣にいるのが当たり前すぎて意識したことのなかった相手が、改めて自分の中で大きくなっていく様子が微笑ましかったです。また、付き合うことになった女の子がまたさばさばしてて可愛いんだよなあ。彼女の実際の気持ちは語られないままだけど、こういう流れになって笑顔で送り出してあげられるのほんとイイ女だなと思った。

クラスメイトの女子の写真を、スマホの中に大切に保存していた主人公。本人に見つかり、「盗撮」と疑われてしまって……。
全然下心なんかないよ盗撮じゃないよって弁明してる筈なのに読んでるこっちがくすぐったくなってしまうような直球の告白をしちゃってる主人公と、それを聞いて満更ではなく頬を真っ赤にしながらぷんぷん怒ってる女の子の姿が目に浮かぶような独白×2がとてもかわいい。もうなんかこっちも赤くなりながら「ご馳走様でした!!!!!」っていうしかないんですけど!?本当にかわいい。

商店街の片隅に存在する釣り堀「恵比寿屋」。そこに集まるお互いの事情も本名も知らない常連たちが、ある日、なんとなくお互いの事情を話す流れになって……。
仕事や家族から逃げてきたり、特に理由はないけどそこにいたり、いろんな事情でそこに来ている常連たちのお互いの事を知らないけれど確かにそこに存在した絆があったかくてたのしい。それにしてもラストそのどんでん返しは反則ですよ!!!(好き)

重箱職人をしている実家には、四段目の『与の重』を作った上で土蔵に封印するという奇妙な決まりがあった。土蔵の掃除を申し付けられた主人公が重箱の中を覗いてみると……。
家業を継ぐのを嫌がっていた主人公がご先祖様と出会い、彼女の描いた蒔絵の虜になる。二重の意味で彼の人生をひっくり返してしまうような出会いと、そこから始まる時をかける物語にきゅんとなった。それにしても最後、アイスキャンディの棒だけでは飽き足らずしっかりとハッピーエンドを自力で用意しているご先祖様のちゃっかり感には思わずにんまりしてしまう。

文芸部に所属するキモヲタの前に突然現れたのは、同じ学校に通う現役女子高生声優。彼女の「役作り」に協力することになって舞い上がったのもつかの間……。
オタクが憧れの声優と出会って素顔の彼女に惚れてしまう、素敵なボーイミーツガールだとおもったらめちゃくちゃ現実突き付けてくるしその後の展開がめちゃくちゃ気持ち悪くて最高にズルい。いやでもそこまで完膚無くフられたんだからもう開き直るしかないよな!!!最高にキモヲタみあふれる要望を気持ち悪がりながらもちゃんと受けてくれる先輩、声優の鏡すぎる。

中間試験の勉強中、自室に現れた小さなオジサン。自らを幸運の妖精と呼ぶオジサンを最初は気味悪がっていたけど……。
都市伝説上の存在「小さいオジサン」が現れ、難しいお年頃の父子の絆を取り持つお話。サイズはファンタジーだけど口を開くと普通にオヤジギャグ連発な小さいオジサンに少しずつ心を許していく主人公の女子高生の姿が微笑ましかったです。

アパートの自分の部屋の隣の部屋から、いつも物音がする。正体不明の隣人の正体を、何故か大学の同じゼミの女の子と見張ることに……。
主人公とヒロインのくっつきかたが強引すぎて解せぬという気持ちに凄いんだけど、○○からの圧力じゃ仕方ないな!?個人的にはもう少しこう短編とはいえなにかあと3本くらいはフラグが欲しかった気がします。しかしこの謎ときもすこしふしぎもうっちゃってトップスピードで主人公とヒロインをくっつけて去るスピード感、結構好き。

「彼女は絵本を書きはじめる」 森橋ビンゴ
人気作家として活躍を続ける彼女と同居している主人公。仕事の傍ら、彼女は子供向けの絵本を書き始めて……。
『東雲侑子は短編小説をあいしている』シリーズの後日談。原作読んでないので解らない部分も多かったんだけど、ヒロインから主人公への暖かい気持ちがあふれ出るような絵本の内容にとてもほっこりしました。

「僕とキミらと15センチにまつわる話」 井上堅二
大学入学前のある日、早くも高校の同窓会に誘われた二人。ところが待っていたのはいつもの異端審問会で、お互いの"彼女"との「15センチ」にまつわるエピソードを暴露する羽目に……。
『バカとテストと召喚獣』の後日談。高校を卒業してもあまりにも通常営業な彼らのやりとりと、めちゃくちゃ強引に「15cm」という共通お題を力技で突破していく感じ凄くいつものバカテスでした……。しかし、明久が大学に合格してることよりも、姫路さんとのバカップルぶりがあまりにもリア充すぎてこれはFFF団も15センチを振り回すしかない。ていうかイチャイチャするために同じインカレサークルに入る明久と姫路さんis何……めちゃくちゃ合コン帰りに酒の勢いで一線超えそう(偏見)。

「"文学少女"後日譚 つれない編集者(ミューズ)に捧げるスペシャリテ」 野村美月
作家と編集者という形で再び出会いを果たした心葉と遠子。編集者としての立場から以前のように心葉の物語を『食べる』のを躊躇う遠子に、心葉はとある悪戯を思いつく……。
『文学少女』シリーズの後日談。仕事上の関係をタテに取りなかなか素直になってくれない遠子を振り向かせようと彼女を強引な手口で振り回して「ごはん」責めにしちゃう、大人になったコノハくんのやり口が大変好みでズルいです!!!短編集のシメにふさわしい、甘いデザートのような短編でしたごちそうさまでした。

ラノベのプロ!2 初週実売1100部の打ち切り作家

[著]望 公太  [絵]しらび

「俺と、結婚してくれ」アシスタントで幼馴染みの結麻に、長年の秘めたる想いを告白した神陽太。もう二度とただの幼馴染み同士には戻れない。陽太の踏み出した一歩は二人の関係を決定的に変えていく―変わり始めた関係の気恥ずかしさに悶える陽太だが…一方で“業界の不条理さ”から後輩・小太郎を救う特訓を始めて!?残業代なしで多忙を極める、ラノベ作家青春ラブコメ! (「BOOK」データベースより)

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甘ぁぁああああい!!!!!!!!

 1巻から幼馴染大勝利ラノベだったけど1巻ラストの展開(=告白)を経て、お互いの関係の変化に迷い戸惑いつつも顔を合わせればもはや無自覚でイチャイチャしはじめる二人のやりとりがくすぐったすぎ!!!少女向けラノベもびっくりの圧倒的な糖度に震えました。早く結婚してほしい。でも新作執筆の為にわざわざ自分からギャルのコスプレしてくれるのもう結婚済といっても良いのでは???

 そんな幼馴染カップルのイチャイチャを交えつつ、第二巻ではようやく発売された陽太の弟子・小太郎のデビュー作を巡ってシビアな話が展開されます。デビュー作を人気イラストレーターに頼んだお陰で発売が伸びまくり、話題作としてガッツリ部数増やされて、そのやっと発売された本も肝心の挿絵が間に合わず……って、もう読者から見てもわかりやすい打ち切りコースじゃないですかー!!

 1巻打ち切りを喰らってからの迷走劇がとてもつらい。「打ち切り」の悲しさをしった小太郎が陽太の作家としてのスタイルを学ぼうとするんだけど、もうほんと小太郎みたいな閃きと勢いで生きてるタイプは真似したからって堅実な陽太タイプになれるわけじゃないんだよ……書きたくないものを無理やり書く羽目になり、気持ちはついていかず、日々疲弊していく姿に心が折れる。

 そんな彼女が生み出し、「死なせて」しまった物語の「再起」を賭けて、小太郎と陽太のふたりが職業作家生命を掛けて挑んだ編集とのギリギリの駆け引きが熱かったです。しかし、作家も編集も「この本を売りたい」と思ってプロデュースした結果がこれ……というのが、そこまでの道に誰の悪意も存在しないのがやるせない(無能編集だなと言う気持ちはあまりにも揺らがないけど)(イラストレーターにもきっと悪意はないんだ……たぶん……)。

 好きなことを職業にすることの難しさ、読者に届かなければ書くことすら許されない世界で、様々な形で生き抜いていく作家達の物語が熱かったです。綺麗に2巻で終わったような、でもまだ掘り下げの余地はあるようなという終わり方だったのでちょっぴり3巻が出ることを期待してしまいます。

 それにしても、作中一番刺さったのこの台詞だったとおもう。とてもつらい。

 売れていない作品は、つまらないから売れてないわけではない。
 読まれてすらいないから売れていないのだ。

腐男子先生!!!!!

[著]瀧 ことは  [絵]結城 あみの

ごく普段の腐女子・早乙女朱葉のスペースに同人誌を買いに来たのは、ごく普通の腐男子・桐生和人。ただひとつ、ごく普通と違ったのは、二人は高校の教え子と教師だったのです―。イケメン生物教師の真の姿がもっさり残念メガネ男子かつ同じ沼の狢…だと…!?そう、これは―教え子を神(絵師)と讃えるイケメン腐男子先生と、とある腐女子の物語。こんな先生に教えられたい!?共感しすぎるオタクラブコメ登場!!!!!(「BOOK」データベースより)

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 朱葉の同人誌を買いに来た一見冴えない腐男子は、イケメンと評判の生物教師だった!?それ以来、自分のファンだという桐生先生との交流が始まって……?というお話。「小説家になろう」を原作とした書籍化作品。(→原作はこちら

 面白かった…!!同人の修羅場でテンパる話とかオタクものの定番のお話も盛り込みつつ、SNSやソシャゲや応援上映など最新のトレンドネタをぶっこみつつ、大人のオタクと未成年オタクの資金力の差とかでガヤガヤしたり、ワイワイ盛り上がっていくのがすごく楽しい。特にオタネタの鮮度の速さは原作Web小説ならではですね。「好きなものには末永く課金したい」は金言。

 ふたりの距離感が重くなく軽くもなりすぎず、ラブコメ以上ラブコメ未満という感じでとても好き。学校という空間でいつも一緒にいられる反面、生徒と教師という体面を保つためには色々と関係を取り繕う必要があり、そこにひとかけらの禁断感と、素直に近寄れないもどかしさが生まれていくのが良かった。そしてラブコメっぽい展開になっても先生の面倒くさいオタクぶりが障害になっていくのにニヤニヤする。

 特に個人的に大好きなのが、ライブのチケットを譲渡するのに主人公がわざと本人の目の前でツイッターでの募集をかけ、そこに先生の取引垢(プライベート垢ではない)が初対面を装いチケットの譲渡を持ちかけるというシーン。あくまで先生が個人垢を晒さないこと、目の前で喋っているのにわざと一回SNSを介するところとか平安時代の恋文のやりとりのような軽妙さ、様式美を感じて。桐生が一オタクとしての自分(本音)と教師としての自分(建前)を使い分けてくる感じ、最高に良かったです。

 それでこの後この関係のままゆる〜く続くのかラブコメ方向に行くのか大変気になってて書籍化してない部分を読むか悩んでるんですけど書籍化されてからじっくり読みたい気もして大変悩みます。書籍化部分も未収録のネタとかあるみたいなのでそのうち読みたい。なおpixivコミックではじまってるコミカライズも大変良かったので気になる方はそちらからでもどうぞ。

「けどその代わり、今度から原稿は手伝わせないように」
 返す刀のその言葉に、朱葉はちょっと気まずい顔で笑って。
「や、やっぱ、だめでした……?」
 勝手に一方的に仲間だと思って、やりすぎたかな、と顔色をうかがうように聞いてみれば。桐生は自分の顔を覆うようにして。
「新刊は本の形で読みたいの……」

 ところでこれがわかりすぎて困る……(面倒くさいオタク全開)

Chaos;Child -Children’s Revive-

[著]梅原 英司  [絵]ささき むつみ [原作]MAGES./Chiyo st.inc 

2015年秋。東京・渋谷を震撼させていた連続猟奇殺人事件「ニュージェネレーションの狂気の再来」は、宮代拓留という少年の逮捕をもって収束したが、様々な後遺症を孕みつつ渋谷の街と人々に色濃い影を落とすこととなった。山添うき。香月華。有村雛絵。久野里澪。南沢泉理。尾上世莉架。事件の最中を拓留と共に過ごした彼女たちは、事件から半年が過ぎた今、何を思い、そして何を見出したのか―。衝撃の展開と結末で話題をよんだ名作ゲーム『Chaos;Child』の「その後」を、原作シナリオライター・梅原英司が描きだす完全新作がここに登場! (「BOOK」データベースより)

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 夏に公開される劇場版アニメ「SILENT SKY」で明かされる真実を踏まえた物語となっているため、アニメ版のみを視聴したかたはご注意ください(いくつか重大なネタバレを踏みます)

 シナリオライター本人が描く「カオスチャイルド」の後日談。ゲーム版の最終エンディングである「SILENT SKY」は宮代拓留と尾上世莉架ふたりの物語として描かれていて、他の事に関しては簡潔にしか語られないのですが、これは取り残された彼女たちが新しい一歩を踏み出すまでの物語です。

 これまで在った日常は過去のものとなり、彼女たちは事件の真相を胸の内に秘めたまま、世間との軋轢や、様々なことに直面していかなくてはならない。周囲に理解してもらえなかったり、ひとりあるきする事件や犯人に関する誤解、真相を伝えられないもどかしさが時にしんどくもあるんだけど、それでも自分で一生懸命考えて、自分の足で歩き出そうとする姿が胸に熱い。

 特に有村雛絵の立ち位置がめちゃくちゃ好きだったんですが、今まで否応なしに相手の本心を読んでしまっていた彼女がその能力を失い、戸惑いながらも体当たりで少しずつ人間関係を再構築していく姿や、拓留へ感じていた名前のつけられない感情に戸惑う場面とか、何もかもの憂さを吹き飛ばすような最後の演説とか、本当に可愛かった。親友の華が新聞部以外の友達を作る事にヤキモチを焼きながらも影に日向に応援したり、自らが思考の迷路にはまり込んだその時に、自分が助けた華を通して自分自身の言葉に助けられるの、本当に良い。

 というか、その際に雛絵が“偉人の言葉”として呟いた自分自身の言葉こそが、この物語の全てを貫くテーマだったのかなあと。これまで以上にお互いを大切に想い合いながら、だからこそ離れていく彼女たちの姿が印象的でした。

「良かったに決まってるじゃん。かの偉人は言いました」
 切り出したのは雛絵だった。いつもの飄々とした口調だった。
「『大切だからこそ、しかし我々は離れなければならない。大切なものに甘えて、その大切さをまさに自分たちの手で貶めてしまう前に』。私たちを誰だと思っていやがる。私たちが共有している経験の強さを舐めるなよ」

異世界取材記 〜ライトノベルができるまで〜

[著]田口 仙年堂  [絵]東西

中堅ラノベ作家の俺は、編集からのオーダーである「無双とハーレム」を体験するため、KADOKAWAが用意したルートを使って異世界へ取材にやってきた。ガイドの獣人アミューさん、そして、「魔法理論」を勉強するため、わざわざ異世界転移してきたらしいラノベ作家志望のJKと、いざ取材旅行へ出発!だが、孤高無双の勇者は中二病こじらせた二刀流の少年だし、ハーレム三昧の魔王の正体は後輩の売れっ子ラノベ作家!?この取材、どう転ぶかわから…(編集)先生、宣伝足りねーよ!!こうだろ→しがないラノベ作家が取材がてら異世界を救う!?創作と現実が交錯するサクセスファンタジー開幕だ!!(「BOOK」データベースより)

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 「異世界ラノベを書くためにライトノベル作家が取材で異世界に行く」のが普通の世界。コワモテの編集者に勧められて『無双』と『ハーレム』の取材をしに異世界にやってきたラノベ作家。現地のガイド・アミューさんや異世界で助けたラノベ作家志望のJKを連れ、“勇者”や“魔王”の取材に向かうが!?というお話。

 カクヨムで途中まで読んでいた連載なんですけど色んな意味でしょっぱなから破壊力が高いので気になるひとはとりあえず読むといいとおもいます。序章のラスト2行ズルいとおもうんですよほんとズルいんですよ設定の勝利だよね……!!

 世界観設定だけでも割と大勝利なのに、異世界転移モノのお約束を弄ったネタだけでなく、そこかしこから顔をだすラノベキャラ・ラノベ作家・編集のパロネタ/メタネタが全開でめちゃくちゃ楽しい。先輩作家のあの人やらこの人やら割と隠れてないし、勇者はキ○トさんだし魔王はどうみてもどっかの美少女作家だし!

 取材だけのつもりがだんだん異世界の事情に巻き込まれていく一行が、だんだんシリアスな展開になりつつもしっかりと取材魂だけは忘れてないのにニヤリとする。良い意味で「やりたい放題」な物語でありながら、最後はしっかり熱いバトルで〆てくるのが最高にずるかったです。

 それにしても元ネタの作家の人が浮かんでしまう時点で、最終決戦が仲良し作家同士がお互いをベタ褒めしながらペンで殴り合っているようにしか見えないのでなんだこの……なんだ……私はどんな顔してこれ読めばよかったんだ……。キノシタのあの絶妙なクズっぷりと絶妙に屈折したせんせーへの愛憎感が私物凄く好きなんですけど……なんなんですかね……困りますね……。最終決戦のシリアスなバトルシーンでそこかしこで「召喚(サモン)」が飛び交ってるの絶対意趣返しだと思いました(某ラジオ参照)。


 キノシタのCvは下野紘を希望します(気が早い)

どうでもいい 世界なんて 2 -クオリディア・コード-

[著]渡航(Speakeasy)  [絵]saitom

正体不明の敵<アンノウン>によって、世界が崩壊した近未来。今も<アンノウン>との戦争を続ける防衛都市・千葉に暮らす千種霞は、本来の戦闘科としての仕事ではない、出向先の生産科で残業に明け暮れていた。そんな中、生産科の科長・朝顔は、事実上の支配階級である戦闘科に反旗を翻し、首席選挙に立候補しようと目論むが、そのことが戦闘科にばれ、窮地に立たされる。起死回生を狙うため、霞が考えたとんでもない作戦とは!? TVアニメも好評だった『クオリディア・コード』の「千葉編」前日譚、完全書き下ろし小説第2弾!(公式サイトより)

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 千葉首席の座を勝ち取り戦闘科偏重の空気を覆すため、代表選に出ることを決意した釣瓶朝顔。生産科に出向中の霞をはじめ生産科の面々は彼女の活動を後押しするが、それを良く思わない戦闘科から釘を刺されてしまう。圧倒的な戦闘科優位を覆すため、霞はとある作戦を提案するが……?「クオリディア・コード」の前日譚、千葉完結編。

 露骨に霞の中の繋がりの人ネタな「理由あってアイドル作戦」やらやたらと連発される作者繋がりの「勝ったな!!ガハハ」とかこれでもかとぶちこまれるメタネタの数々がテンポよくて楽しい。生産科が一丸となって彼女の選挙活動を盛り上げていく姿がアツかった。それにしても「恋ダンス」とか恐らく米大統領選を匂わせる話とかネタの鮮度が高すぎるんですけどこれ本来の発売日去年の年末じゃなかったっけ!?ものすごくギリギリ進行の気配を感じる……。

 その一方で、前巻からばらまかれていた不穏な伏線がしっかり水面下で根付いていて、時折感じさせる薄ら寒さとそれが芽吹いてからの人間模様は流石だなあと。1巻も殆どバトルおまけみたいな扱いでしたが2巻は完全に人間vs人間の戦いだったなあ。そして、人間同士の心理戦に不確定な<世界>の要素が加わって繰り広げられる心理戦が熱い。選挙活動のシーンとか割と真剣に「政治」やってるのが印象的でした。

 今回明かされた霞の<世界>の真の力とその代償についてはちょっとアニメでも見たかった気がしなくもないっていうかその設定正直美味しいんですけど今ここで明かされるんですかー!!!アニメでの壱弥の「本気を出せ」発言とかどういう気持で受け流してたんでしょうね……。思っていた以上に強力でそれ故に使い所が難しい能力を、自分(達)の思惑の為なら躊躇せず使う霞は本当にかっこよかった。

 霞と明日葉、互いが互いに手を伸ばし合うようにして得たそれぞれの<世界>。二人の立場から見た夢見の世界の風景が、対称になってるのがすごく好きです。

 いろんなことがあったけど、最終的に色々立場も変わったけど、それでもいつも通りの何気ない応酬で終わる物語が、これからも続いていく千種兄妹の物語を感じさせるようで良かったです。ノベライズの方もそうなんだけど、本当に渡先生の描く千種兄妹は何気ないやりとりが偉い甘くてズルい。後は予定されているのは円盤特典小説とダッシュエックス文庫のノベライズの最終巻のみとなりましたが、また機会があれば違った姿の彼らが見られたら良いなあと思います。

 それにしても、終盤の漆原パイセンのかっこよさは異常。このニンジャスレイヤー原先輩、絶対卒業年度になっても内地行かないで3話の電車のアクロバティック脱線とか手伝ってくれてたに違いない。

ロクでなし魔術講師と禁忌教典7

[著]羊太郎  [絵]三嶋 くろね

「久しぶりね、グレン。会えて嬉しいわ」「はっ…俺はテメェにだけは会いたくなかったがな…ッ!」迫る『社交舞踏会』に学院が沸く中、グレンの前に因縁浅からぬかつての上司―宮廷魔導士団特務分室の室長、イヴ=イグナイトが現れる。『社交舞踏会』に乗じた天の智慧研究会による『ルミア暗殺計画』を聞かされたグレンは、舞踏会を中止しようとするのだが…。イヴは逆にルミアを餌にした非道な作戦を提案してきて―。ルミア護衛のため、グレンは半強制的にダンス・コンペでルミアのパートナーとして優勝を目指すことに!特務分室VS天の智慧研究会、最後に微笑むのは―。 (「BOOK」データベースより)

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 天の智慧研究会の過激派がルミアの暗殺を目論んでいるという情報を掴んだグレンの古巣・特務分室がグレンに協力を要請してくる。ところが、その内容はグレンとルミアに学園で開催される『社交舞踏会』に出場させるという囮作戦だった。ルミアにも誰にも計画の全容を話せないまま、舞踏会の当日がやってくるが…?

 久しぶりの「天の智慧研究会」との対決回で、アルベルト&リィエル以外の特務分室の面々が本格登場。一応メインはグレンの元上司であるイヴなんだけど、個人的にはバーナードおじさんが好きです。良いおっさんだな!!

 たとえ廃嫡されても「普通の女の子」ではいられないルミアがこのままで良いのかと葛藤しながらも、だからこそこれだけは譲れないと舞踏会で見せる輝きが、最高に可愛くて物悲しい。そんな彼女の決意に対して全力で応えるシスティーナとのダンス対決が熱かったです。今回のルミアは戦闘ではない部分でどうしようもなく強くてかっこよかったけど、同時のその強さが今にも折れそうな脆いもののようにも思えてしまって、今後の展開がどうなるのか心配になる。グレンがいれば大丈夫だとは思うのですが……しかしこれはいろいろな意味で恋愛方面はルミアに行くのかシスティーナに行くのか読めないな。

 終盤のバトルシーンで、現役時代を彷彿させるグレンとアルベルトの言葉にしなくても分かり合うツーカーな相棒ぶりとコンビネーションバッチリなのに事ある毎に言い合いしてる感じ最高に燃える!!んですけど、あとがきの「それ本人が言っちゃっていいの!?」感すごい。恋愛面ではルミア、バトル展開的にはアルベルトの一人勝ちってかんじで色んな意味で新キャラのイヴは不憫な感じ拭えなかった。というか、グレン争奪戦にまざってきそうな気配だけどグレンの好感度最低のところからのスタートだし、割とバックグラウンドとか積極的に出して好感度を上げていく作戦なのかもしれないけどそれ以上に今回の無能感高かったし、今のところ噛ませ犬の予感しかしないのがちょっとアレだなあ……。

クオリディア・コード

[著]渡航(Speakeasy)  [絵]松竜、wingheart

約30年前、突如として地球に襲来した謎の異生物アンノウン。人類は総力戦で対抗、辛くも勝利を収めるが、現在も散発的な侵攻に苦しめられていた。東京、神奈川、千葉の各防衛都市では、固有能力“世界”を身につけた少年少女が、アンノウンと戦い続けていた。傲岸不遜な東京首席・朱雀壱弥と次席の宇多良カナリア。天然だが規格外の豪腕を誇る神奈川首席・天河舞姫と次席の凛堂ほたる。常にマイペースな千葉首席・千種明日葉とその兄・霞。戦いが日常となった世界で時に反発し、時に協力し合いながら過ごす朱雀たちだが、この世界には大きな秘密が隠されていた…。TVアニメ放送中の「クオリディア・コード」完全ノベライズ、第一巻!! (「BOOK」データベースより)

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 渡航が描く、TVアニメ「クオリディア・コード」本編のノベライズ。第一巻ではアニメ4話までの物語を収録。アニメだけでは分かりづらい部分の補足や、各キャラクターの心の動きがわかるのが嬉しかった。全シリーズ読破の上で読むと二度三度美味しい、まさにプロジェクトの集大成といえる物語。DVD付属のシナリオブックを読む限り、シナリオ段階ではあったけど尺の都合等で削られた部分も少し織り交ぜられているようです。

 千葉組のもはや愛の営みと言って良いんじゃないのってくらいのイッチャイチャな戦闘描写が凄い好きなんですけど、まさに阿吽の呼吸で敵を屠っていく二人の姿を見ているとランキング二百位台の霞が千葉次席になるのはもう当然のことなんだなあと思わせてしまうこの説得力が凄い。明日葉は強いけど、その強さは兄とふたりでひとつの強さなんだよなあ。というか、要所要所で千種兄妹はイチャイチャしすぎで最高でした。神奈川組以上に戦場でイチャついてた!いいぞもっとやれ!

 千種兄妹も最高に良いんだけど男二人のケンカップル模様が大好きな私としては霞と壱弥の関係も色々見逃せないというか、随所で巻き起こる軽口の応酬がいちいち本当に好き。しかし、改めて文字にされると本当に霞も壱弥もお互いが大好きだよねといいますか、壱弥が独断専行したときにそれを見越して準備してる霞の破壊力が高すぎるし、水着回で小型アンノウンを狙撃したときの口にせずとも伝わってる具合、本当は仲いいよねこの人達……。

 時折挟まれる各キャラクターのモノローグが沁みる。壱弥はまだプレ小説での例の事件を引きずっていて、カナリアの存在でかろうじて自分を保ってるだけなんだよなあ……。そしてぱっと見で対称的に思える霞のモノローグをしっかり読むと、びっくりするほど壱弥と根本が同じなんだよなあ……。そしてカナリアのモノローグが本当にプレ小説から変わってないんだよなあ……。

 カナリアが傷ついたことをきっかけに壱弥がやっと周囲を頼ろうとして、信じようとして、そしてカナリアのアレなんだよなあ……と改めて壱弥視点からの心象描写ありで物語を読むとやるせない。

 あとがきによると「1巻」とのことなので恐らく2巻3巻があるのではないかと思われるのでとても楽しみなのですが、正直プレ小説千葉編の2巻もあるし「俺ガイル」の12巻も……でそろそろ渡先生の仕事量が心配になるレベル。どれも続きが読みたいだけに悩ましいよなあ……。ぶっちゃけ2巻は橘先生かさがら先生にバトンタッチでも良いようなきがするんだけど、どうなるんだろう。

自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う

[著]昼熊  [絵]加藤 いつわ

交通事故に巻き込まれた「俺」は、目が覚めると見知らぬ湖の近くに立っていた。体は動かず、声も出せず、わけもわからぬ状況に混乱し叫び出すと予想だにしない言葉が―!?「あたりがでたらもういっぽん」ど、どうやら俺は自動販売機になってしまったらしい…!選択できる行動は自動販売機の機能“のみ”。自力で動くこともできず、会話もまともにできない状況で異世界のダンジョンを生き抜くことはできるのか!?(「BOOK」データベースより)

     個人的お気に入り度数

 自動販売機マニアが異世界に「自動販売機」として転生。ダンジョンの中で佇んでいたところを金髪の少女・ラッミスと出会う。異世界のダンジョンの中にある街で「ハッコン」と名付けられ第二の人生を始めた彼を様々な問題が待ち受けていて……「小説家になろう」で連載されている小説の書籍化。

 自分では動くことも喋ることも自由にできない(移動は基本的に相方のラッミス頼り)中、自動販売機に登録されている限定された言葉を使い、異世界には存在しない自販機商品の使い方をあの手この手で教え、街の人たちと仲良くなったりトラブルを解決していくのが面白かったです。

 自動販売機に並べることが出来るのは主人公が生前に買ったことのある商品のみ。商品の陳列や生命維持には「ポイント」が使用され、そのポイントは商品を購入することで追加される。趣味と実益と生命維持を兼ねて商品を売っていくんだけど、名が売れるにしたがってポイントが増えて置ける商品の範囲が広がっていく。「自販機マニア」なだけあって出せる商品の種類が幅広く、次に何が出てくるかわからない。エロ本や○ンドームが出てきたのには思わず笑ってしまった。

 商品を並べるための縛りの多さとか少しずつ商売の規模が拡大していくところとか、全体的にファンタジー世界を舞台にした経営シミュレーションゲームを見ているような感覚で、とてもワクワクしました。続巻の予定も立っているみたいなので、そちらも楽しみにしてます。

 なろう版プロローグの、行き倒れてるおっさん達を華麗に救って商品買わせるラッセルとハッコンのシーンが個人的に好きだったのでそこが新キャラ幼女とのシーンにさしかわってしまっていてちょっと残念なのですが、やはり商業に載せる場合オッサンよりょぅじょなのか。ラッミスとヒュールミが普通にめちゃくちゃ可愛いから正直テコ入れするなら男子キャラ方向にテコ入れしてほしかったのに。それにしてもあとがきが重い。

クズと金貨のクオリディア

[著]さがら総、渡航(Speakeasy)  [絵]仙人掌

底辺高校生・久佐丘晴磨と、天使のような後輩・千種夜羽。同じ階層にいられるはずのなかった二人は、とある偶然をきっかけに接近してしまう。異常気象、異常現象、異常行動…少しずつ歯車が狂いだしていく二人の日常と奇妙な都市伝説。曰く「ランダム十字路」―真夜中、突き当たったT字路で誤った道を選ぶと、二度と帰ってこられない。行方不明の女子をなりゆきで一緒に追うなか、晴磨と夜羽の思惑は大きくすれ違い…!?レーベルを越えて広がる新世代プロジェクト第一弾!これはふたつの視点から紡がれる、終わりゆく世界とめくるめく青春の物語―。(「BOOK」データベースより)

     個人的お気に入り度数

 友達いない底辺高校生・久佐丘晴磨はとあるきっかけから後輩の美少女・千種夜羽と出会う。半ば脅されるような形で行方不明になった彼女の“友人”を一緒に探す羽目に。見え隠れする“同業者”の姿と、「ランダム十字路」なる都市伝説の噂。事態は二人の想像もしなかった方向に転がっていって……!?

 プロジェクト・クオリディアのアニメ・小説世界の更に前日譚となる物語。旧世界が<アンノウン>の襲撃によって終わりを迎えるまでの姿が物語の幕間幕間で示唆されつつも、そんなことは全部うっちゃってサイコパス美少女とやれやれ系男子高校生の奇妙な関係性を描く物語です。

 わたりん節全開な晴磨のとりとめのない一人称と、さがら総が描くどこまでもクレイジーでサイコパスな夜羽の一人称がキャッチボールという名の相互壁打ち(決してお互いにボールを獲り合ってはいない)やってる感じが、めちゃくちゃ読んでて疲れるけどクセになる。最初から最後まで一貫して噛み合わず、思考はどこまでもあらぬ方向に脱線しながら、それでもつかず離れず寄り添うように進んでいく展開が面白い。

 夜羽側の家庭の事情やこんな性格になった一端もそれとなく明かされるのですが、晴磨がそういった事情に絆されるわけでもなく、「お前はクソ女だ」という思いが最初から変わることはなく。それでも「一目惚れだ」って言ってしまうのが本当に凄い。最初から最後までどこかすれ違っていて、それなのにラストは本当にびっくりするほどラブラブで……唐突に終わる世界と、晴磨と夜羽ふたりだけのとびきり甘くて閉じたセカイが同時に描かれていくのが印象的でした。その後ふたりがどうなったのかどうとでも解釈できる、アニメのCパートのような終わり方が最高に好き。

 「千種」「朱雀」「天河」「凛堂」とその後のクオリディアの中心となるメンバーと同じ名字が登場して、明確な示唆はされないんだけど彼らの“親世代”の物語になるのかな(特に朱雀に関しては壱弥が『父親が生徒会長だった』といってるのでほぼ間違いないとは思うけど)。晴磨と夜羽の物語には全く関係ない、各章の扉から描かれる旧世界の終わりの姿が、クオリディア・コードの3作品とアニメ4話までを踏まえると明確な形を見せてくるのが色々想像できて楽しかった。関連作品を知らずに読んだら全く違う感想になったと思うので、最後に読んでしまったのが少しもったいなかった気がする。

 それにしても、カナリアの名字だけが登場しないのは意図的なモノを感じてしまう。明かされない彼女の『夢』といい、何か秘密がありそうだしなあ。



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