イヴ・ザ・ロストワン | 今日もだらだら、読書日記。

イヴ・ザ・ロストワン

[著]山田 桜丸 [原作]C's Ware

内調の新人・桐野杏子は着任早々ワールドトレードビルセンターで爆発事故に巻き込まれる。その時、一緒に事故にあった女性が殺害され、彼女はその事件を追う事になるのだが…。一方、ワールドトレードセンターを爆破した男は“アドニス”となる人物から脅迫を受け、“SNAKE”として動くことを余儀なくされる…。
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桜庭一樹先生、直木賞受賞おめでとうございます!!

というわけで、急遽今月は「積んでいる桜庭作品を読もう月間」と決定してみたわけですが(といってもたった3冊しかつんでないんですけどね!)1冊目は桜庭さんがファミ通文庫からデビューする前、「山田桜丸」名義でゲームシナリオを担当された作品“イヴ・ザ・ロストワン”のノベライズ作品です。実は「EVEシリーズ」は一通りプレイ済、桜庭さんのノベライズ版もこの1冊以外すべて読んでいる私なのですが、「ロストワン」のノベライズだけは絶版になっていた関係で長らく手元になく、こうして漸く手に取ることが出来た、のです、が……これは正直ノベライズと呼んでいいのか……あまりにも出来が酷い。前半は特に「小説版」とは、とても呼べない。

まず、姿無き爆弾魔“SNAKE”の正体が明かされ、エルディアに舞台が移るまでの過程が、ダイジェストで必要最低限にしか語られていません。その為、この作品は絶対に原作ゲームをプレイした人以外にはオススメすることが出来ません。多分、前知識を全く持たずに読んだら何が何だかわからない上、“SNAKE”の正体だけ明かされてしまうという状態に陥るでしょう。この状態では原作ゲームをやってもちっとも楽しめやしない……本当にこれは、ゲームを既にクリアした人のための副読本扱いしてしまってよさそうです。

ただし、登場人物達がエルディアに舞台を移した後の展開は中々面白いです。ゲームをクリアしていればという前提条件が必要となりますが…。特に杏子とSNAKEの視点でのみ語られてきたストーリーに第三の人物である「プリシア編」を追加したのは上手かったと思います。というか、原作ゲームで「???」だった部分がかなりプリシア編で明かされたりするので、原作ゲームの展開が意味不明だったという人は読むと良いのではないかと。結構面白い事実が浮かび上がって来るし、<EVE>の眠りを護りながら、彼女の目覚めを待ち続けるプリシアの心理描写は流石という感じ。

また、SNAKEの行動の理由が明かされたのも良かったですね。結局原作のゲームだと正体が明かされるまでの杏子編ではあまりにも存在感がアレだし、最後の行動の理由も意味不明だし……とある意味謎に包まれていたSNAKEの心理描写が結構あったのは嬉しかったです。ただ、杏子がSNAKEの中の人に惚れてるっぽい描写は素で引いた。それはさすがに強引過ぎるよ!!!

ただ、残念だったのはなんでこれ、ゲーム内で補完してくれなかったんだ!ってことなんですが……プリシア編がED後でもいいので追加シナリオとして追加されたら、ここまでロストワンが糞ゲー扱いされることも無かったんじゃないかと言う予感が。

ロストワンというゲームは、「EVE burst error」という名作PCゲームの続編として作られ、大変に評判がよろしくなかったアドベンチャーゲームです。むしろ糞ゲーとして名前が知れ渡っているゲーム。実際改めてプレイするといろいろトンデモ設定があって、確かに「ミステリー」や「サスペンス」としては全く成立していないような気がします。ただ、その辺が気にならなければそれなりに面白いゲームだと思います。パソコンを通して語りかけてくる脅迫者「アドニス」の薄気味の悪さはかなり衝撃的ですし、プリシア&真弥子の一瞬の邂逅も好き。そしてエルディア編で訪れる終末的な描写はかなり圧巻のものがありました。その辺は凄くツッコミどころ満載な設定をさて置いても楽しんでプレイできたと思います。

実は私、EVEシリーズの中では一番この作品をやりこんでいたりするのですが。
今から考えると、新人賞をとった作家さんが書いてくる設定はめちゃくちゃだけど魅力はある、「B級ライトノベル的」なアドベンチャーだったかと。

…いや、なんていうか、凄く、「burst error」という名作の続編として作られたことで物凄く損した作品だと思うんですよね、これ。面白くないわけじゃないんだけど「burst error」と面白さのツボが全く違うので、前作ファンが怒り狂うのも理解は出来るんです。出来が悪いことを否定する気も毛頭無いし。

ただ、いっそ全くの別のシリーズとして作られてれば、あるいは…とか思ってしまう、今日この頃。



ところで、他に感想書いてる人がいないのかーと思って検索したら、「雲上四季」の秋山さんが感想書かれてるじゃないですか。

……と、とりあえず「ZERO」「TFA」「バーストエラープラス」のノベライズは面白いんですよっ!?3作品とも原作の前後を描いた番外編なので過度な原作知識は必要とされませんし、それぞれ女性キャラの心理描写に焦点を当てる事で「桜庭一樹」さんらしい作品になっていたかと思います。「ZERO」は1年ほど前に読み返してるんだけど、時間軸の関係で「主人公二人が直接出会わない」のを前提に、間接的に二人を協力させて1つの事件を解決させるっていう手法が絶妙で面白かった。

できればロストワンのノベライズは見なかったことに!



【2月27日 追記】
後天性無気力症候群さんの記事を見たらやらずにはいられなかった。
反省などしていない。(カバーのサイズがまるで合ってないけど)


最初期の傑作…間違っては居ない…よね?(黒歴史的な意味で)
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コメント

  1. 極楽トンボ より:

    まさか、今になって「イザ・ザ・ロストワン」の名前を目にしようとは思いませんでした……アレには非常に思い出深いものがあります。イルカのお風呂とか当時、いちいち唖然とさせられました(苦笑
    うららさんじゃないけど、今の広い心で遊んだらもっと楽しめるかもですね。当時は若かったから……(遠い目)。

    しかし、プリシア編の補完になっているんですか。それはちょっと気になりますね。とりあえず確保しておこうかな。

  2. うらら より:

    こんにちは?、コメントありがとうございます!
    イルカのお風呂とかボタン1つで殺人ウィルスが…のくだりは相当滅茶苦茶やってる印象でしたよね。個人的にはSNAKEの正体にも噴きました。存在感が薄すぎて捜査線に浮上すらしない真犯人w

    プリシア編の補完…というかエルディア移動以降の展開は結構面白かったので是非読んでみて下さい。思わぬ人物が関わってきたり、意外な事実が明らかになるので原作をプレイしていれば楽しめると思います。前半が非常に苦痛ですが…。

    ちなみに私の場合、あのシリーズで一番最初にやったのがPS版「EVE ZERO」で、あれの終わり方がロストワンと比べても笑えないくらいに酷かったもので、広い心で受け止められたのかもしれません。あれ本当に酷かった。

  3. 極楽トンボ より:

    ブックオフとかで地道に探せばたぶん見つかるんでしょうが、めんどいんでamazonで買ってしまいました。届くのが楽しみです。

    EVE ZEROは、買うには買って途中までは進めていたんですが、どうにも興が乗らず頓挫したままになってるんですよね。
    そうですか、アレも相当なものなんだ……氷室恭子がお気に入りだったんで出てこないことがわかっているためにどうにもテンションがあがらなかったのが一因ですが、もしかして放置して正解だったのかも?

  4. うらら より:

    ZEROのPS版は、真犯人が勝ち逃げする上に犯人側のシナリオが全く収録されていないので正直「ロストワン」よりもずっと酷い出来だと思います…。ただ、その後追加された真犯人シナリオとアナザーエンドの出来はかなり気に入っているので、お持ちなのがPC版かドリキャス版なら是非オススメしたいところですが…ちなみに氷室恭子は出てきませんが、その母親が出てきます。

    ちなみにPS版のエンディングがあまりにも酷くて、真犯人シナリオ見たさにPC版手に入れてそのままシリーズにどっぷりハマってしまったのは何を隠そう私ですw多分このハマり方は希少なんだろうなあ…。

  5. 秋山真琴 より:

     取り上げていただきありがとうございます。気づくの遅れて申し訳ございません。
    『EVE』シリーズはまったく触れてなく、この小説から入ってみたのですが今ひとつで敬遠してしまっていました。が、このエントリを読んでちょっと、以降のノベライズは読んでみようかなと思いました。桜庭一樹は『EVE』シリーズのノベライズさえ読んでしまえば、全作を読んでいることになるので、もう少しがんばってみようと思います。ありがとうございました。

  6. うらら より:

    こんにちは、コメントありがとうございます!
    小説版「ロストワン」は原作ファンから見ても正直酷い出来だったので、確かにこれ最初に読んだら他のシリーズも手をつけ辛そう…とおもって思わず言及リンク&トラックバックさせて貰っちゃいました。ファンの中でも評価分かれる作品ですし、「砂糖菓子」を始めとした最近の作品と比べるとどうしてもパンチが弱いのは否めないのですが個人的には結構楽しめたシリーズだったので是非読んでみて下さい?。