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ヒトの時代は終わったけれど、それでもお腹は減りますか?

 

荒廃した24世紀の東京は合成食糧や電子ドラッグが巷に溢れ、荒くれ者たちが鎬を削る…それでも、やっぱりお腹は減るんです。日々の戦いに疲れたら、奇蹟の食堂―“伽藍堂”へ!厨房を受け持つのは「食の博物館」の異名を持ち、天使の微笑みをたたえる少女ウカ。狩人兼給仕を担うのは、無法者に睨みを利かせる、こわもて奔放娘リコ。二人は今日も未知なる食材求めて、てんやわんやの大騒ぎ。「おいしい!」の笑顔のためならば、人を喰らうドラゴンから、食べたら即死の毒キノコ、はたまた棄てられた戦車まで!?なんでもおいしく、そして仲良くいただきます!リコとウカの風味絶佳な日常を皆さんどうぞ召し上がれ。

終末世界の東京で食堂を営む女の子二人のちょっと不思議な食材探求の日々。戦車やドラゴンなどちょっと変わった食材にじわじわお腹が減ってくる飯テロ具合と、殺伐とした世界観でありながら「それでも同じ食卓を囲めばみんな仲良し」という展開にほっこりしました。主役二人の百……仲良し具合も大変可愛い。

飯テロ…とまではいかないけど、好奇心を掻き立てられる未知の食物達

人間が霊長類の頂点から滑り落りた24世紀の東京。危険な生物たちと無法者が跋扈する地上の「休戦地帯」として存在する食堂《伽藍堂》は、メイド服を着て厨房に立つ料理人の少女・ウカと狩人兼給仕を担当する少女・リコの二人で切り盛りされている。未知なる食材を求めて市場にやってきたふたりを待ち受けるのは、旧時代に廃棄されたはずの──!?

戦車を食材として食べる」という衝撃的な展開から始まる本作。どうなっているんです!?と思いながら読みすすめると気がつけば美味しそうに見えてくる、不思議な物語でした。「お腹が減る」「飯テロ」というよりは「ちょっと食べたくなってしまう」という力が強い。主人公のひとり・ウカが作る料理の数々はどれも思わず食べたくなってしまうような料理ばかりなんですが、それ以外の食べ物にもつい興味を惹かれてしまうモノが多かったです。

個人的に気になったのは途中でジャンクの代表格として出てきたオイルバー。アメリカ産の高カロリーゲロ甘チョコバーを更にギドギドにしたような感じなのでしょうか。ひとくちでキツくなってしまいそうだけどひとくち齧ってみたい。

色鮮やかに描き出される世界の姿が印象的

人間をほぼ不死の身体にし、同時に人類を霊長類の頂点から引きずり下ろした元凶でもある薬品「PAC」。肥大化したインターネットとそれに魅せられた人々。危険な進化を遂げ、人類を脅かし始めた大自然。それを受けて一部の人類は地球を棄てて宇宙に上がり/地下に潜る。物語を読みすすめるごとに明かされていく、物語の裏に根付く「世界が荒廃するまでのものがたり」が印象的でした。

食べ物の話もそうだけど、「架空の未来」が強い質感を持って描かれていて、物語世界の空気感をありありと感じることが出来ました。だからこそトンデモ食材でも違和感がないんだよね。

(身も蓋もないけど)良い百合でした

目新しい食材に目のないウカの「食材調達」に毎度振り回されるリコ。ふたりの遠慮のない掛け合い、なんだかんだでウカの「お願い」に弱いリコが毎回無茶な狩りに挑む羽目になってしまう姿がなんとも微笑ましい。また、殺伐とした地上世界にありながら、たとえ普段は敵対しあっていても「それでも同じ食卓を囲めばみんな仲良し」になってしまう、幸せいっぱいの食事シーンに毎回ほっこりとさせられる。

そんなか、ウカが突然意識を失ってしまう。彼女の正体を聞き、彼女にとっての自分の存在はなんだったのかと不安になってしまうリコ。そんな彼女の縋るような想いに応える、目を覚ましたウカの言葉に思わず胸が熱くなりました。そのへんは色々とネタバレなのでアレなのですが、彼女の正体を知った上でその言葉を聞くと、もうね!

メインはあくまで食材探求で、まえがきで描かれたような《伽藍堂》の普段の様子はあまり描かれなかったのが少しだけ残念だったのですが、各章のラストに挿入されるリコとウカの食事の場面を見ると「細かいことは良いんだよ!!!」ってなるから仕方ないんだよね。とても良い百合でした。