家庭の事情で路頭に迷いかけた阿久津零は叔母・薫子からの誘いを受け、彼女が経営するVtuber事務所【CRE8】から「蛇道枢」としてデビュー。ところが、女性Vtuberばかりが所属する【CRE8】の箱推しファンに取って初の男性Vである蛇道は邪魔者でしかなかった!?毎日のように炎上やアンチコメに晒される彼のもとに何故か同期の女性Vtuber・羊坂芽衣からコラボ依頼が舞い込んで……。
「炎上」と「ネットの闇」に切り込む男性Vtuberもの
女性だらけのVtuber事務所からデビューして百合の間に挟まる男として炎上する主人公と、そんな彼をコラボに誘った同期女性Vtuberの二人を中心とした炎上騒動とその顛末のお話。割りとコメディっぽい作品がおおい(気がする)従来のVtuber系の作品とはうってかわって真っ向から炎上というインターネットの闇に切り込んでいく展開がとにかくしんどいのですが、とても面白かったです。男性Vtuberまじでなんでそんなすぐ燃えてしまうの?どちらもVtuber黎明期をモチーフにしていると聞くので現在はそんなことないとは思うのですが……逆に言うと黎明期はそんなに燃えてたってことなのか……?蛇道と芽衣のコラボが炎上→開催中止になって、それに関する根拠のない憶測がファン達の間で語られていくうちにすっかり既成事実として誤認されていくのが本当に誰の得にもならなくてキツすぎるし、しかもその勘違いを煽るような人物まで現れて、炎上がふたりを擁する【CRE8】にまで飛び火。ますます騒ぎが大きくなっていく。ふたりを攻撃する人々の多くがあくまで芽衣を守りたいという「善意」から行動していることに背筋が寒くなる思いでしたし、自分の事を心から応援してくれているはずのファンの言葉だからこそ傷ついて、精神的に追い詰められていく芽衣の姿に胸が痛くなった。そして彼女が炎上に巻き込まれて憔悴していく姿は、自身の炎上ではびくともしなかった蛇道の気持ちをも蝕んでいく。色々と考えさせられる展開だったし、どんどん悪い方に向かっていく炎上騒動の行方がしんどかったです。
気持ちを通わせた二人が理不尽な炎上に立ち向かう展開がアツい
肉親の悪意によって理不尽に将来を奪われた零と、肉親の心無い発言によって心に大きな傷を追った有栖。対象的な性格でありながら同じような過去を持つ二人が「蛇道枢」「羊坂芽衣」としてめぐり逢い、様々な紆余曲折を経てお互いに影響を与え合っていく。芽衣がVtuberデビューした理由とその強い意志に触れて、自らも「自分のやりたいこと」を見出していく蛇道の姿が印象的でした。そして、覚悟を決めたふたりがアウェーの地で理不尽な炎上に立ち向かっていく後半の展開がとても熱い。特に序盤からずっと陰鬱な展開が続いてきただけに、過激派と化した芽衣の厄介ファン達に蛇道が物申していく展開が気持ち良いのなんの。そんな騒動の結果、ふたりのカップリング厨+主人公のガチ恋ファン(性別問わず)が大量に出来てしまったのはもう仕方ないですよね。ていうか女性Vに絡むだけで即炎上するような初手の状態、もう公式カップリングみたいなお相手が出来ないと動きづらいみたいなのもあるよなぁ。エピローグの念願のコラボ配信で初々しく絡むふたりの姿が本当に微笑ましくて……これがてぇてぇという感情か……。
1冊で綺麗に終わってる物語ではあるのですが、同じ事務所のVtuberとか芽衣しか出てきてないから他のメンバーも見たいし、巻末の設定資料で炎上を煽った個人勢Vtuberまで変な性癖に開眼してるのには笑ってしまったし、なによりカップリングとして成立してしまった二人のその後がもっと読みたいしので続きも書籍化してくれるといいなあと思いました。カクヨムの方でちょっとだけ続きを読んだんですが、芽衣がネットストーカーと戦う短編「インターネットセクハラってめんどくせえ!」が超面白かったです。自分の厄介ガチ恋勢と水面下でバトルしてる蛇道、笑えないけど微笑ましすぎ。