ページ 8 | 今日もだらだら、読書日記。

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Vのガワの裏ガワ2

 

「マネージャー、やっていただけませんか?」
高校生神絵師の千景は、クラスメイトの少女・果澪のVTuber 「雫凪ミオ」を仲間たちと制作し、見事大人気個人VTuberにした。それからも順調に活動は続け……夏休みの直前。果澪から「さらに活動を広げていくにあたって、マネージャーを雇うか、事務所に所属したいと思ってる」と相談される。話し合いの末、千景は果澪のために、VTuber事務所『Bloom』を運営している知人に話を聞きに行ってみることに。ところがそこで「お前には期間限定で『金剛ナナセ』のマネージャー業をやってほしい」と、まったく別のVTuberを託され……!? 千景にとってはそのお願いを受け入れる理由などなかったのだが――千景の選んだものとは?

様々な紆余曲折の末、個人勢ではトップクラスの人気Vtuberに上り詰めた「雫凪ミオ」。夏休みを前にしたある日、千景は果澪から雫凪ミオの活動を広げるためにマネージャーか事務所への所属を検討していると相談を受ける。知人が小さなVtuber事務所『Bloom』を経営していることを思い出した千景は、話を聞きに行くが……何故か『Bloom』に所属する唯一のVtuber「金剛ナナセ」のマネージャー業を依頼されてしまい!?

1巻を踏まえて更に掘り下げられる少年少女達の関係性が良い

Vtuberという華やかな世界を舞台に、Vtuberの「中の人」とそれを支えるクリエイター達のぶつかり合い、そ裏で展開される等身大の高校生男女の人間関係が魅力的な物語のシリーズ第2巻。1巻が綺麗に終わってたからどう続けていくのかと思ったけど、今回は新キャラクター・金剛ナナセこと世良夕莉を中心にしつつ、前巻で登場した少女たちの思惑も濃密に交錯する物語となっていました。生真面目で面倒くさく気高い後輩系ヒロイン・世良ちゃん可愛かったんですがこれ次巻以降どう続けていくんだろう。今後もヒロイン増えていくパターンなのか……!?

元はといえば校内で最悪の出会い方をした相手。雫凪ミオのために請け負った金剛ナナセのマネージャー業……と割り切って接していたはずが彼女を少しずつただの仕事相手だとは思えなくなっていく千景。その一方で、千景には知らされていない「ウラ」もあって……目標とされた数字に向かって順調にチャンネル登録者数を伸ばしていく金剛ナナセの姿が頼もしい一方でどこか不穏さが拭えない、アンバランスな空気がとてもよかった。そして、そんな千景を心配しつつ胸の内に秘めた思いが強くなっていく果澪・桐沙の姿が印象的でした。

どうして『Bloom』にはひとりしかVtuberが所属していないのか。どこかよそよそしい世良と事務所の社長・花峰の関係性。挫折しかけた世良を救ったのはクリエイターの「アトリエ」ではなくて臨時マネージャーだった「亜鳥先輩」で……。前巻に引き続き、絶望に沈みそうになる少女達に必死に手を伸ばす千景が最高にかっこよかったです!

そして「雫凪ミオ」と彼女を巡るクリエイターたちの物語は1巻でまとまっているのだけど、1巻を踏まえた上で果澪にも桐沙にも仁愛にもしっかり物語の続きが……人間としての掘り下げがあってそこも満足感高かった。1巻はちょっと桐沙が空回りしてるくらいで恋愛要素は殆どなく、あくまでVtuberとそれを取り巻く裏側……クリエイター達の想いのぶつかり合いが主軸に添えられていたけど、2巻では千景を見守るうちに彼への恋愛感情が芽生えていく果澪の姿がとても丁寧に描かれていて、更に生まれたばかりのその感情を現在の友情を壊したくないゆえに持て余す姿が印象的でした。

あと、なにげに大人たちに振り回される千景……という構図がなんとなく印象強かったな。娘の世話をよその高校生男児に任せっきりな仁愛の父、色んな意味で不器用そうな果澪父。頼れる大人だと思っていた花峰も世良との距離感を掴みかねていて……出番こそ多くありませんが、子どもたちを庇護する存在になりきれない不完全な大人たちの姿が頼りなくて、どこか憎めない。

恋愛モノ方面に舵取ってきたなあ

困っている友人を見過ごせない千景の性格、そんな彼のありかたを是としながらもどこか複雑な感情を抱く少女たち……高校生男女の感情のぶつかり合いと水面下で育っていく恋愛模様は最高に楽しかったのですが、これは完全に個人的な趣向の話になるんですが、1巻は恋愛要素の少ない「クリエイターの青春モノ」として楽しんでいたので、こちらの方向に行ってしまうのか〜と少し残念な気持ちも。

とはいえ、雫凪ミオの新衣装の話で桐沙とワイワイやってるところとかはめちゃくちゃ楽しいし、新衣装にアトリエ先生のヘキが詰め込まれるのにはニヤニヤするし、なにより今回の世良の数字への固執と劣等感から来る拗らせぶり(有名絵師に仕事でファンアート描いて貰うことでバズを狙うのは嫌なのに自分のキャラデザとモデリングはガチガチの有名絵師を選ぶという設定、拗らせててめちゃくちゃ好き)みたいなのめちゃくちゃわかるやつだし、自己肯定感の低い世良とそんな彼女に自信を持って羽ばたいて欲しい事務所の社長・花峰の複雑な関係とかも良かったし……クリエイターものとしての要素が決してなかったわけじゃない、むしろ天才肌すぎて共感しづらかった果澪の話よりもあるある感高くて濃厚になってた部分もありました。この辺今後どのくらいの配分で続けていくのかは本当に気になります。このくらいの比重で続いてくれると良いなあ。

ただ、クライマックスでマネージャーとしての契約時に「アトリエとして金剛ナナセのファンアートを描かない」と宣言した千景が世良のためだけに金剛ナナセを描く……と、大事な所に千景の創作者としての立ち位置を入れ込んでくる展開がめちゃくちゃ好きなんですが、そのファンアート描かない話が序盤で出たっきり終盤まで特に蒸し返されないので、なんかあと一歩盛り上がらなくて、もっと盛り上げてほしかったのに!!!という気持ちが凄い。ファンアート描かない話ふってきた時点でこれ絶対終盤でファンアート描くやつだ〜〜!!!!!と期待しすぎた部分はかなりあったのですが、中盤の積み上げがないせいで問題解決のために都合よくファンアート出してきた感あったなというか。

果澪の感情の動きがめちゃくちゃ繊細に描写されていただけにどうしてこっちにももう少し割いてほしかったみたいなこと思っちゃいました……この展開、好きすぎるだけに……!!!!!

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堕天の狗神 -SLASHDOG- 1 ハイスクールD×D Universe

 

イッセーを支える、「刃狗」チーム誕生を描く『D×D』前日譚!
高校生・幾瀬鳶雄は、幼馴染たちの行方不明事件をきっかけに「ウツセミ」と呼ばれる化物に襲われる。彼の元に現れた美少女・夏梅やヴァーリ、漆黒の狗『刃』と共に、幼馴染を取り戻すため、戦いに身を投じていく!

謎の沈没事故によって修学旅行中に行方不明となり、全員死亡と見做された同級生達。そこには幼馴染の少女・東城紗枝の名前も含まれていた。風邪で修学旅行を欠席したおかげで数少ない生存者となった幾瀬鳶雄は新しい学校でどこか空虚な日々を送っていたが、行方不明になったはずの同級生から襲撃を受ける。彼らはウツセミと呼ばれる異形と化していて……。

ゼロ年代ラノベの血脈を受け継いで新生した現代学園異能バトル!

著者の過去作である「SLASH/DOG」を代表作である「ハイスクールD×D」の世界とリンクさせ、前日譚スピンオフとして仕立て直した作品。ハイスクールD×Dの方はソシャゲやアニメでざっくり触れた程度の知識なのですが、特にあちらの作品の知識が無くても楽しめる&それとなく匂わされてくる設定で向こうの展開が気になってくる……という塩梅でとても楽しく読むことができました。平成初期からのラノベオタクとしての感想はゼロ年代の暗黒系学園伝奇異能バトルラノベの血脈を受け継いだ現代学園異能バトルだーー!!!ヒャッハーーー!!!!!という感じです(迸る過去への執着)

それぞれの理由で修学旅行を回避し、『四凶』と呼ばれる異能─セイクリッド・ギア─を発現させた元同級生の仲間たち。彼ら彼女ら、そして自らの影から生まれた刃を持つ狗のセイクリッド・ギアと共に異形と化した同級生たち・そして彼らを操る黒幕と戦うことになった鳶雄。しかしその狗は『四凶』とは少し違うもののようで……。四凶、五大宗家、セイクリッド・ギア、魔術と異能、天使と悪魔、霊獣、そこはかとなく匂わされる姫島家という古き異能の「血」の繋がり……もう中二心をくすぐる単語が大量に飛び交う物語にゼロ年代の現代異能バトル大好き心が刺激されてニヤニヤがとまりませんでした。漢字にカタカナのルビは基本装備。しかし、これだけ中二設定が飛び交いまくっているのに少年ヴァーリが残念な中二病患者みたいな扱い受けてるの結構かわいそうだな!?

生まれた時から強大な力を持ってしまった鳶雄が祖母からの深い愛情を受けて育って、自分の能力を知っても決して驕らず、困っている人を見過ごせない・他人の痛みがわかる「良い子」として育っていくというのがとても良かったし、気難しいメンバーを餌付け……もとい豊かな食生活によって懐柔していくの良かったです。おばあちゃん自体は作品に一切出てこないのだけど、要所要所で彼女からの深い愛情を感じる事ができるのにほっこりする。しかしだからこそ、彼女の遺した「最期の言葉」と、そこを起点に覚醒していく鳶雄の異形の姿にはゾクっとしてしまった。

幼馴染ヒロインの紗枝、同じ立場の異能力者として共に戦う夏梅、魔法を使って戦うミステリアスなお姉さんポジション・ラヴィニア……と魅力的なヒロインがたくさん登場するのですが個人的には乱暴者かとおもいきや予想外に情に厚く良いやつそうな鮫島、ハイスクールD×Dアニメとファンリビの未実装ボイスでお噂はかねがね…!!なヴァーリくんが大変気になります。魅力的なヒロインを前に押し出しつつ魅力的な男子がいっぱいでてくる現代異能バトルは最高×最強なので……あとファンリビユーザー的にはラストに登場した神父が最高に気になる。

原題・派生作品も気になる

これと同じ世界観なのだとおもうと改めて「ハイスクールD×D」本編が気になってくるわけですが、とりあえずこちらが3巻まで出ていて4巻が準備中の状態とのことなので、頑張って続きも読んでいきたいです。1巻で綺麗にまとまってはいるんですが、ここから物語がどう続いていくのか楽しみ。

そして原題作品である「SLASH/DOG」、ブックウォーカーのまるよみ10分でざっと内容を確認したら本筋は同じながらもかなり設定違うみたいでこっちの設定もちょっと気になる。こちらは1巻しか出ていなくてその1巻も今回の1巻のラストを更にビターにしたような終わり方のようなのですが……いやでもこの救いのない感じ、まさしくゼロ年代の暗黒学園異能ラノベでめちゃくちゃ好きそうなやつなんですよね。そして2017年のリブートでその辺の結末が変わっているのも割と時代の流れを感じる。1冊だし、そのうち時間を見て読みたいなあ……。

「SLASH/DOG1 ─スラッシュ・ドッグ 胎動─ (富士見ファンタジア文庫)」
石踏 一榮(著), 横溝 大輔(イラスト) (著)
KADOKAWA

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はたらけ!おじさんの森 2

 

「さて、『おじ森』――アップデートだおじ?」。 神のジャージを着たあやしいおじさん(通称おじきち)から 貰ったゲーム『はたらけ!おじさんの森』をプレイしたら、 ゲームなのか別世界なのか分からない、 二足歩行で言葉を喋る動物達のいる、あにまるワールドに 連れてこられてしまった森進、森秋良、森山太郎、木林裕之のおじさん四人。 「おじさん島」と名付けた無人島であにまるの子供達と 楽しいサバイバル生活を送っていた。 そんなある日、あにまるを支配する「わかもの」の追っ手から 逃れてきたパンダを保護した進は、彼を島の住民に迎え入れようとするのだが──(公式あらすじ中略)── アップデートに新居に釣りに料理に学校に温泉まで!? てんこもりのおじさん&あにまるの 無人島ハートフルほんわか物語第二弾、ここに開幕!!

大人気のスローライフゲーム『あつまれ! あにまるの森』を買いそこねて、そのゲームの世界にそっくりな「あにまるワールド」に連れてこられてしまったおじさん達は、「おじさん島」と名付けた無人島で二足歩行の喋る動物たちと共に楽しいスローライフを送っていた。目下の悩みは嵐で吹き飛ばされた家を立て直すことと、嵐の日にやってきたパンダのこと。そんななか、「おじ森」のアップデートが発表されて……!?

アップデートにより「遊び方」の幅が広がって楽しい!

2巻ではおじさん島を舞台にした無人島サバイバルゲーム「はたらけ!おじさんの森」にアップデートが導入。新しいスタンプミッション・交換先の追加や新システムの導入によって「遊び方」が広がっていったのが面白かったです。運営側が予想しなかったプレイングによってリアルタイムにルールが追加されるの、ネトゲーやソシャゲのようなライブ感があって良いなあ。前巻から引き続き、異世界での無人島サバイバルが運営側によってある程度管理されることによってリアルながらも厳しさの少ないスローライフ体験に落とし込まれているのすごく良いですよね。更に前巻ラストで仲間に加わった(2巻の時点では島民カウントではないけど)パンダによって異世界の知識が持たらされ、更に出来ることが広がっていく。

4人と4匹でやれることが増えて「限界」が見えはじめた所に満を持して導入される「島同士の同盟」という要素、それによって島同士の提携・分業の可能性が生まれ、更にゲームとしての可能性が広がる。いやこれ本当に運営側のさじ加減が上手いよな……。

前巻ラストで敵として「わかもの」の存在が示唆されたわけだけど、かといって彼らとの直接対決を見据えるのではなくて世界の理解を少しずつ深めていく展開がかなり良かった。むしろ1巻の路線よりも「スローライフゲーム」感を足す方向に振ってきた。ただ、ライバル島の存在がさりげなく示唆される終わり方がそこはかとなく不穏で次巻どうなる。

こ、ここにラノベ主人公がいるぞーーー!?

今回のもうひとつの肝は、初期から謎の存在感を放っていたキバヤシこと木林裕之の掘り下げ話。テンプレートなオタクの見た目、自称引きこもりのリモートワーカーという言葉とは裏腹にやたらとハイスペックな人物であることは序盤から示唆されてきましたが、ハイスペックというかこれは…………ラブコメラノベの主人公(しかも一昔前に流行った鈍感系)では!?

次から次へと明かされるキバヤシの武勇譚(本人無自覚)に笑ってしまったし、彼の正体を知ってテンション上がるカンナと進にも笑ってしまった(ていうか進さん、確かにやたらとこの世界のゲーム要素にテンション上げてるような節があったけど、予想以上にガチのゲーマーの気配を匂わせてきましたね……)。しかしチュンリーの信頼度カンストがやたらと早かったのもこの過去話を聞けば納得だし、何気に島の外からガチ勢の気配を感じたりもして、女子がほとんど居ないこの世界でもラブコメ主人公の片鱗を匂わせてくるのズルいわ……。

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魔王城、空き部屋あります!

 

魔王城を、魔王自らマンション経営!? 豊洲で始まる不動産コメディ!
 魔王と勇者の最終決戦中、奥義の激突で生じた時空の歪みが二人もろとも魔王城をのみ込み――飛ばされたのは遥か彼方、現代東京・豊洲のど真ん中!  元の世界に戻ろうとする魔王と勇者。しかし空気中に魔力が無い豊洲では、隣町に引っ越しすらできない。謎の建築物の出現に怒る、地主の孫・結亜に即時撤去を迫られた魔王は、魔王城を9階建てマンションとして経営することを提案し、一ヶ月で満室にすると豪語するが……。 『当マンションにお住いの人間共よ! どうして家賃が未納なのだ!!』  怪しげな物件に集まった住民は、魔王も頭を抱える曲者揃い! 住民の豊かな暮らしのため(?)魔王が奮闘する不動産コメディ、豊洲にて開幕!

勇者との最終決戦中、強すぎる魔力のぶつかり合いが原因で異世界──東京の豊洲に飛ばされてしまった魔王と勇者、そして魔王城。動かすことも出来ない魔王城をどうするか、おばあちゃんの土地に突然変な城を建てられて怒り心頭の地権者の孫娘と話し合った結果、城をマンションとして開放してその収入を賃貸料として計上しろという話に。一ヶ月で魔王城を人間でいっぱいにしてみせると自信満々の魔王だったが……!?

個性豊かな住人達に振り回される魔王の現代/異世界コメディ

面白かった!魔力のない現代日本に転移してきて弱体化はしているけどある程度の生活チートする程度の魔力は利用できて、祖母を心配する地権者の孫娘・結亜の助力によってなんだかんだいいかんじの居住条件にまとめられたけど、いざマンションを売り出してみたら見た目のアレさやらなにやらで変人しか集まらず……生贄として利用するつもりだった住人達に逆に振り回され、彼らのお悩み解決に奔走している間に少しずつ絆されていってしまう魔王の姿にニヤリとしました。生贄云々とか考えてること確かにそれなりに邪悪なんですが、それ以上に集まってきた住人や人の話を聞かない脳筋勇者が面倒くさすぎて魔王がふつうに気の毒に思えてきてしまうし、契約の際に軽い気持ちで「マンションの住人たち全員を幸せにする」と言ってしまったばかりに彼らの幸せのために奔走する羽目になってしまった様子が自業自得なんだけど微笑ましい。

マトモそうな住人ほどちょっと様子がおかしくて、まわりまわって一番性格に問題ありそうな炎上系Youtuberが常識人の実は良い人枠なのも良かったな……ラッパーと芸術家のケンカップルぶりも良かった。色んな意味で一番のクセモノは動物を愛しすぎてる八子内夫婦だとおもうんですけど、この旦那さんのほうが高給取りなの妙なリアルさがあるよね……。

一癖も二癖もあるせいで居場所を持てなかった彼らがマンションの管理人である魔王を間に据えて同じような変人と遠すぎず近すぎずの距離でお付き合いしていって、少しずつ魔王城を自分の居場所だと認識していく展開がすごくよかったです。

魔王と勇者の「見つめ直し」の物語

そんな個性豊かな「異世界人」達との共同生活を経て、自分の存り方を見つめ直していく勇者と魔王の姿がまたとてもよかった。なんだかんだで情に厚い魔王が異世界での生活を通して自らの「起源」である破壊欲求の中に自覚なき守護者欲求を見出していくのも、他人の話を聞かない脳筋系アホの子の勇者が内心では自分の異世界での存在意義に悩み、魔王に「人類の敵」であることを求めてしまい葛藤するという展開も良い。そんな勇者が葛藤しながらもめちゃくちゃ無意識に人類救いまくっててローカルヒーロー化しちゃってるのは本当に笑うしか無かったんですが。

異世界に飛ばされたことで自らの本当にやりたいことを見つめ直していく「魔王」と「勇者」の物語がとてもアツかったですし、コミカルなテンポで進む物語の裏で展開されていく複雑な心の動きが印象的でした。それにしても自分の本当にやりたいことを見出した二人が最後の最後でお互いの名前を叫びながら共闘するのおおむね結婚だったな…………(突然語彙を殺すな)

異世界の勇者/魔王とちょっと変わった住人たちの心の交流・見つめ直しの物語としてはこの一冊で綺麗にまとまっていたけれど、魔王が娘のように大切にしている謎の少女ネフィリーの存在、なにより頭を欠いたまま放置されちゃった元の世界は大丈夫なのかとか……異世界ファンタジーとしては色々謎が残されたままなんですよね。その辺は次巻を楽しみに待ちたいと思います。

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アラサーがVTuberになった話。2

 

祝、妹ちゃんズVデビュー!
私が神坂怜としてデビューし早3ヶ月。炎上したり、炎上したり、あと炎上したりしているうちに気付けば季節は夏に突入していた! そこで私はかねてより計画していた妹ちゃんとの兄妹コラボ配信を行うべく準備を進めていた。そんな折、前職の後輩(女)から「VTuberになったっス」との連絡が入る。それも有名バーチャルタレント企業『SoliDlive』の新人だって? さらにその同期が妹の親友? トドメとばかりに私と後輩の同棲疑惑までネットに出てしまって……というか、身内にVTuber多すぎない!?

Vtuber企業「あんだーらいぶ」所属の男性Vtuberとしてデビューし、以来炎上を繰り返してきた神坂怜の元に、ストリーマーをやっていた前職の元同僚からVtuberデビューするという連絡が入る。その際に同期のVtuberについての相談を受けるが、彼女の正体はなんと妹の親友で!?そして最愛の妹も「神坂雫」としてVtuberデビュー!?

やっぱり畳とアラサーの腐った薄い本は実在(物語世界に)したんだよ!!!

いやー本人の目に止まってるのが2冊ってことは多分もっと出てるよね。神坂の二次創作やってる女オタクって自分の妄想が推しの心労になってはならない……とかいってめちゃくちゃ厳重に推しをブロックして活動してそうじゃん。mikuriママや酢昆布ネキもそのへんは空気を読んで教えなさそう。ところでどっちが上なんですか?1巻の時点では神坂が受だと思ってたんですが2巻を見るといやこれ畳受もあるな……という気持ちになってきました。

デビュー直後から不幸なもらい事故で炎上しっぱなしの元社畜アラサー男性Vtuberの主人公が「ブラック企業よりマシ」と炎上なんかものともせず、本人なりに楽しく(?)Vtuberのお仕事をする小説の第2巻。今回は大規模な炎上も比較的減ってきて(と言うか大火事になる前に上手いこと鎮火してたなという印象)、その分箱内・箱外を含めたVtuber同士のやり取りが楽しくなってきた一冊でした。

波風の少ない──ともすれば中だるみにもなりかねない日常の配信描写が中心でも、各章ラストや幕間の掲示板パートでしっかり引きを作って次の展開への興味をひかせる構成が良かった。この辺は原作がWEB小説であるが故の強さなのかな。妹ちゃんが表舞台に出てしまったせいか掲示板で下手な裏工作してる姿があまり見られなくて残念でしたが、その分表でカップルと見間違うほどにイチャイチャしてましたからね……というか割と掲示板でもSisterChanは公然と兄のノロケを書いてる気がするんですが大丈夫ですか?実はもうスレ民にとっても公然の秘密だったりしない?

箱内・箱外のV同士の絡みが増えてて良かった

1巻では炎上を理由に避けてたり避けられていたり……であまり付き合いのなかった「あんだーらいぶ」の箱内の絡みが増えてきたのが本当に良かった。前々から交流のあった柊先輩や後輩コンビ・すっかり常連リスナーと化したアレだけでなく、それ以外の先輩達もちょっかいをかけてくるようになったのでニコニコしてしまう。新キャラのバ美肉系Vtuber・朝日奈先輩と畳と神坂での男だけのサバゲーコラボめちゃくちゃ楽しみ。

神坂って確かにひとりで配信やらせると虚無というか面白みがないんだけど、逆に二人以上の場に投入して弄られ兼ツッコミ・保護者役やらせたら輝くタイプだと思うのですよね。マイクラ回最高に面白かったし。だから他のVとコラボしづらい状況改善したら伸びそうな気がするんだよな……。今回マネージャーさんが割りと真面目に解雇の心配をしていたり、本人も「来年の春を迎えられるかどうかはわからない」と割と現実的に解雇の可能性を見据えてたりするの怖すぎたので……。

そこからの、クライマックスに持ってこられたルナちゃん登録者5万人記念凸待ち配信の流れがとても良かった……これからは積極的に絡みに行くぞという箱内からの強い意志を感じたし、この覚悟を見せない限り神坂の方も絡むわけにはいかないみたいなところあったもんな。憧れの神坂先輩にちょっといい話してる間も笑顔で右手で自分の粘着厨をブロックしまくってるルナちゃん最高かよ……。

思い切り次巻に続く感のあるラスト・お披露目無いまま終わった新衣装や新人の話・男子サバゲーコラボ……綺麗にまとまってた1巻と違って次巻回しのロングパスがめちゃくちゃ多かったのは気になりますが、それだけ3巻も余程のことがなければ出せるという強い自信のあらわれに違いないので次巻も楽しみにしてます。いやほんと、3巻も頼むぞ………………。

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はたらけ!おじさんの森 1

 

二足歩行の動物が暮らす島にやってきたのは…おじさん? 人気ゲームにトリップした人とあにまるの交流を描く、ほのぼの問題作!
大ヒットゲーム『あつまれ! あにまるの森』。その新作発売日に、行列から離れて、買いそびれてしまったサラリーマンがいた。 森進(もりすすむ)・42歳独身、中堅企業総務部に勤務するサラリーマン。落ち込む進は「おじきち」と名乗るおじさんから、見たこともないゲームソフトをもらう。 帰宅しておそるおそるプレイしてみると------ゲームの中にある島にトリップしてしまった。そこは言葉を話す二足歩行の動物、通称「あにまる」が暮らす不思議な世界・「あにまるワールド」。 戸惑う進の前に再び現れたおじきちが言う。「今日から皆さんには、この島で楽しい共同生活を送って、エンジョイして欲しいオジ」 水を探し、食料を調達し、火をおこし、魚を釣り……ビールを飲む!? 4人のおじさんと4匹のあにまるの心の交流が胸アツ!? さぁ、ハートウォーミングおじさん島ライフにログイン!!

休日の早朝から並んで買うつもりだった人気のスローライフゲーム『あつまれ! あにまるの森』の新作を、迷子の子供を助けたために買い逃してしまった総務のサラリーマン・森進。と、彼の後ろに並んでいて同じく列を抜けてしまった森秋良。大人しくゲームを諦めて帰ろうとしたその時、謎のおじさんからゲームソフトを貰う。そのタイトルは『あつまれ! あにまるの森』……ではなく、『はたらけ!おじさんの森』。とりあえずゲームをプレイしようとしたところ、何故か意識を失ってしまい……!?

「おじさん」と「あにまる」が織りなす、ゆるゆる無人島スローライフ

タイトルの出オチ感に反して、人が良くて有能な「おじさん」たち4人と彼らに庇護されることになった「あにまる」の子供達が異世界の無人島を舞台に某ゲームのようなほのぼのスローライフを送るというハートフル異世界転移物でした。どうみても元ネタであろう例のゲームはやったことないので理解できるかな……という気持ちもあったのですが、元ネタ(多分)のゲームをプレイしていなくても全然楽しめました。

主人公である4人のおじさんがまた本当に良いキャラしてるんですよね。物腰が柔らかくて気遣いの人・総務部のサラリーマンとして皆を取り仕切る主人公の進、最年少(38歳)でガラが悪くすぐに頭に血が登ってしまうけど本当は感動屋・あにまる達が健気な行動をするとすぐに感極まって茂みに駆け込んで涙ぐんでしまう秋良、一番年上で頑固職人タイプのおじいちゃん・山太郎、絵に描いたような引きこもり(リモートワーク)の中年オタクだが時折とんでもないポテンシャルを発揮する木林。彼らがそれぞれの強みを発揮して「わかもの」によって傷つけられたあにまる達の心を癒やし、島で起きるちょっとしたトラブルに次々と立ち向かっていくのが頼もしかった。ただかっこいい・心優しいだけでなく、かまいすぎてうっとおしがられたり、おじさんならではの面倒臭さがあるのもたまらない。隙あらばビールで乾杯しはじめる描写から絶妙な加齢臭がする!!

無人島を発展させたり、「あにまる」達と仲良くなることでポイントを得ることができて、任意の物との交換に使用できる……という神から用意されたシステムも良かった。無理のない範囲で作れるものは自作して、自分たちでの対応が難しい物をポイント交換するという仕組みによってイージーモードな無人島サバイバルを送ることが出来て、コンセプト通りの「スローライフ」を楽しめるわけなんですよね。ミッションやポイント交換のシステムが「できそうなことは自分でやってみよう」というモチベにもつながっていくのが上手い。その他『島のテーマソングを作ろう』なんて突拍子もないミッションが、進の手によって交流企画として仕立て上げられたりするのも面白かった。

競争相手である他の島の住人は今巻では殆ど登場しなかったけど、基本的に子供・動物に優しいおじさんたちが異世界転移に選ばれているので基本的には悪い人の居ない世界観となっていそうではあり、そこも良かったです。「おじさんに悪い人が居ない」世界観なんだけど、おじさん概念への過剰な賛美ではなくて純粋に良いおじさんしか選んでいないという理由と原因がある。あと、明日夢さんの島の顛末にニヤニヤが止まらない。

予想外にハードな世界観がどう動いていくのかも気になる

物語の後半では、「あにまる」たちが度々口にする「わかもの」とは何者なのか、なぜ彼らは「おじさん」という概念を知らないのか。そしておじさん4人をこの島に召喚した自称この世界の神「おじきち」の正体が語られます。いや予想以上に重たい世界観でびっくり。

2巻以後も基本的には無人島ゆるゆるスローライフが中心になるようだけど、「わかもの」達との因縁も提示された以上は続いていくんだろうなあ。どう動いていくのか気になる。

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かなりや異類婚姻譚 蛇神さまの花嫁御寮

 

すっかり落ちぶれた華族に生まれた櫻子は、代わって権勢を誇る蛇神一族の御曹司と政略結婚するよう決められた。しかし結婚式当日、櫻子は夫である冬夜の手によって惨殺されてしまう……という未来を予知する。鳥神の守護を受ける櫻子は、「炭鉱のかなりや」のごとく危険な未来限定の予知能力に目覚めてしまったのだ。死を回避しようと決意した櫻子は、家族を巻き込み、婚約破棄から始まりあの手この手でフラグを折るが、「面白い女だ」と冬夜から溺愛されてしまい、何度やり直してもバッドエンド!? ハッピーエンドにたどり着くまでくり返す、蛇神に嫁いだ炭鉱のかなりや令嬢櫻子の“こんなはずでは”奮闘記!

落ち目の華族に生まれ、父の連れてきた浮気相手の子のせいで家族仲は最悪。更に彼女が異能に目覚めたせいで長女としての誇りまで奪われて……蛇神一族の御曹司・冬夜の元に嫁ぐことだけを心の支えに毎日を生きてきた……ところが、18歳の嫁入り当日、夫である冬夜の手にかかり惨殺され──という最悪な未来を見てしまった10歳の櫻子。殺されたくない一心で、婚約者との顔合わせの日になんとか破談に持ち込もうと画策するが、その行動が逆に冬夜の興味を惹いてしまい!?

未来視の少女と執着心つよつよな旦那様の異類婚姻譚

神の異能を受け継ぐ血脈が力を持つ架空の極東を舞台に、結納の日に婚約者に斬殺される未来を垣間見てしまった主人公が未来を変えるため奔走するお話。顔は良いがヤンデレ気質の婚約者やままならない家族関係を、制御できない未来視の異能に翻弄されながら軌道修正していく展開が面白かった…!!一周目では婚約者によく思われたいあまりに見せられなかった「素」の部分を婚約破棄してもらうために出したら、むしろそちらが相手方に刺さってしまい「おもしれえ女」として認識されてしまう……というある意味「やり直しモノ」では定番の展開ですが、そんな彼が執着心つよつよな蛇神の血を引く存在だったので溺愛されてしまってさあ大変。彼に恨まれて斬殺されるルートを回避したと思ったら今度はヤンデレ心中エンドが発生したりしてしまったりして、それも回避したと思ったら今度は別の方向から執着されて三角関係に……!?などと、ままならない未来のフラグ管理に悲鳴をあげるヒロインの櫻子が大変に微笑ましかったです。

恋する人を定めたらひたすらその存在に執着してしまう──という蛇の異能憑きの設定が上手く生きていたなあ。最初に見た未来で櫻子は義姉に執着するあまり自分の立場をも放り出して自分を斬殺しに来た冬夜の姿を目の当たりにしてるわけなんですよね。その強すぎる執着を見た後で自分に恋する冬夜の姿を見ても(たとえそれが確定しなかった未来の話だとしても)すぐに信じられるかという話なわけで。かなり早い段階で相思相愛になっているのに未来視の能力のせいでなかなか彼に愛されていることを信じられない、未来視の能力故にその理由を伝えることも出来ずに苦悩する櫻子の姿が印象的でした。

そして冬夜との関係を改善しても、最初の未来で虐められていた義姉の良き理解者になっても、何故か改善しない未来。そもそもこれ、何が悪いのか…!?というところからはじまる、「それなら該当者全員で腹を割って話そうじゃないか」の流れには納得なんだけど、これまでため込んできた鬱屈が爆発してしっちゃかめっちゃかになったクライマックスが大好きすぎる。お互いに腹を割って放して拳を突き合わせて殴り合ってわかりあうの、完全に少女小説(少女小説ではない)の文脈じゃないんだよなぁーーーー好き!!!

異種族婚姻、ヤンデレ気質のヒーローに溺愛される展開、破滅フラグ回避の婚約破棄モノ……とここまで揃ってるのにここまで破天荒で(良い意味で)ハチャメチャな話になるの、さすが「(仮)花嫁のやんごとなき事情」の夕鷺かのう先生だなあ。大好き!!と改めて思った次第でした。いや本当に最高だったな!!そして続けようとすれば続けられなくもないお話な気がするので、続編が出ると良いなあ。

ところでこの作品が気に入った人は是非同じ作者さんの「後宮天后物語」を読んでいただきたいですよろしくおねがいします。ヤンデレヒーローと後ろ向き令嬢がババアだらけの後宮で繰り広げる異能バトルありの恋愛モノです。

夕鷺 かのう(著), 凪 かすみ(イラスト) 「後宮天后物語 〜簒奪帝の寵愛はご勘弁!〜【電子特典付き】 (ビーズログ文庫)」
夕鷺 かのう(著), 凪 かすみ(イラスト) (著)

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ようこそ実力至上主義の教室へ 2年生編9

 

「やっぱり一之瀬さんはAクラスに上がること諦めた、ってことなのかな」
修学旅行も終了した12月、2学期最後の特別試験・協力型総合筆記テストが発表される。 内容は1人ずつ交代で試験問題を解き、最終的にクラス全員で全100問のテストを解くというもの。堀北Bクラスは坂柳Aクラスとの対戦となる。 試験準備が始まる中、南雲が次期生徒会長を決めると宣言する。2年生の生徒会メンバーは堀北と一之瀬。立候補を問われるも一之瀬の意思は生徒会自体を辞めるというものだった。 新たな生徒会メンバーの確保という問題の他、鬼龍院を狙った万引き偽装事件も発生し、生徒会周辺も慌ただしくなっていく。 『無理してないから。……私も、綾小路くんに会いたい……』 学園黙示録は新たな混沌へ――。

2学期の学期末試験を前にしたある日、生徒会長の南雲に呼び出された綾小路は次の生徒会選挙について聞かされる。現生徒会役員の堀北と一之瀬、どちらが生徒会長になるかを巡って勝負を持ちかけられるがその勝負は一之瀬の生徒会からの引退という予想外の展開によってドローになる。そこに、南雲によって万引き犯に仕立て上げられそうになったという3年の鬼龍院が飛び込んできて……。

生徒会長交代劇に一つの時代の終わりを感じる

新生徒会長・新役員決めに鬼龍院の万引き冤罪事件……と、特別試験よりもその外部が忙しかった、2学期編の最後を飾るシリーズ第9巻。

本人も言ってますが在任期間が長かったので、南雲生徒会長の退任というのは一つの大きな時代の終焉を感じました。しかも形だけの退任ではなく、これまでのような好き放題出来る暴君のような行動は取れなくなりそうな退き方。綾小路との対決もつかないまま終わってしまうのか……と少し残念に思う反面、彼との決着は無人島サバイバルのあの瞬間についてしまっていたような気もします。最後まで独裁者にはなれてもほんとうの意味で「一番」にはなれなかった男の悲哀を感じる。

堀北鈴音の成長、一之瀬帆波の覚醒。そして……

南雲が退き、その後を継ぐことになったのが一之瀬の辞退によって新生徒会長に就任した堀北鈴音。今回はいろいろな意味で一之瀬帆波の物語だったと思うのですが、それに負けず劣らず彼女の成長がいろいろな所で見て取れるのが良かった。自らの右腕として宿敵・櫛田桔梗を引きずり込んだ手腕も見事だったし、綾小路のお膳立てがあったとはいえ与えられた情報を即座に整理して鬼龍院の冤罪事件の謎を暴き、同時に南雲の牙をも折り、それと並行して学年末試験でもしっかり戦略を立ててAクラスから勝利をもぎ取っていく手腕は去年の彼女からは想像も出来ないほど。堀北学の愛弟子であった元副会長・桐生からの称賛の言葉がいろいろな意味で今回の全てだったと思うのですけど、本当に良い女になったな鈴音。そしてそんな彼女の手のひらで転がされがちな櫛田ちゃん本当に最近残念可愛い。手のひらで転がされつつもしっかり堀北にも一矢報いてくるところはそう簡単には転がされないぞという強い意志を感じてニヤニヤが止まりませんでしたが。9.5巻で堀北・櫛田(・伊吹・天沢)がキャットファイトしてるだけのイチャイチャ短編読みてぇ〜〜。

その一方、生徒会を自ら辞めた一之瀬帆波もどこかこれまでの彼女とは違った、不敵な笑みを浮かべていて。2年生編に入って以来その真っ直ぐすぎる性質が足枷となって他クラスとの点数争いに上手く加われなかった彼女のクラスでしたが、まだまだ勝負は終わっていないぞといわんばかりの覚醒ぶりにニヤリとしてしまいました。元々彼女、1年生編4巻の船上特別試験では綾小路ですら舌を巻くような活躍をしているわけで。色々吹っ切れたらとんでもない強敵に化ける可能性を秘めているんですよね。これまでの心優しい一之瀬の姿を知っているとどこか不安になる、でも今後が楽しみになってしまう一之瀬穂波覚醒回でした。

逆に今回の試験を見ていてつくづく思ったのですがここで一之瀬クラスが盛り返すと今回みたいな正統派な学力がモノをいう試験の時って龍園クラスだけが頭一つ下になってしまうことが浮き彫りになったわけで、彼らがどう盛り返すのかも気になる。お得意の外野で攻める戦略が通じなくなりつつあり、そうなると去年の一之瀬クラスと同じくらいには詰んでる気がする。1年の学年末で龍園がリーダー復帰した際に大敗を喫したのが一之瀬のクラスであったことを考えると、今回の一之瀬と龍園のやりとりにはどこか因縁を感じてしまいましたね。

それにしても今回色々と不憫すぎた上にタイミングもひたすら悪かった軽井沢さん、今回の綾小路のアレコレといい、最大のライバルとして覚醒した一之瀬の発言といい本当にどうなるか心配。綾小路が完全に彼女を振る体制に入り始めてるのも相当アレなんですが、今回の一之瀬の最後の発言、裏を返すとクラスの利にする形で軽井沢脱落させるぞっていってますよね……下手したら去年の龍園より性質悪いやつだこれ〜!!!

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このビル、空きはありません! オフィス仲介戦線、異常あり

 

入社以来、契約ゼロを続けていたオフィス仲介営業の咲野花。ついに初契約かと思われた案件も押印直前で壊れ、とうとう営業から謎の男性早乙女さんの一人部署・特務室に異動になった。特務室に仕事はなく、同期には蔑まれ、花は退職を申し出る。だが早乙女さんから「査定に響く」という理由で慰留され最後に一つだけクライアントの希望に合致するオフィスビルを探すのだが……。見つからない。どれだけ電話をかけても見つからない。これだけ探して1件も見つからないなんてことある? 花の中で、何かが弾けた。辞めたかった花の中で、エンジンがかかる音がした。それが崖っぷち社員の反撃の始まりだった!

オフィス仲介会社の初の女性営業として周囲の期待を受けながら入社した咲野花。ところが最初の案件で躓いて以来トラブルが続き、契約が一件も取れないまま早乙女さんという男性社員が一人所属しているだけの謎の部署・「特務室」に異動させられてしまう。到底やる気があるといえない早乙女、任された仕事はテンプレ文を返すだけのクレーム対応と先の見えないブッカク──下調べ作業で……!?

地道な調査と観察によって導き出される「最良の回答」が気持ち良い

予想外の形でクライアントの地雷を踏んだり、ヒアリングしきれなかった情報に足をすくわれたり……と才能はあるはずなのにうまく仕事に結びつけられていなかった主人公・花が会社で昼行灯の遊撃部隊みたいな立ち位置をしているやりての上司・早乙女の元に異動させられて彼の一見奇抜な行動に翻弄されながらも自分の力で才能を開花させていくお話。オフィス仲介会社を舞台にしたお仕事小説としても、主人公の成長物語としても面白かった!

一つの案件をひとつずつ解決していくのではなく、主人公が一つの案件をこなしている裏で社内では別の案件が進行していたり、それとは全然関係ない所で身近な人のお悩みを聞いていたり……彼らの「お悩み」や「すれ違い」──作中のあらゆるところに散らばっているピースが予想外の形で噛み合い、主人公の知っている所や知らない所で解決に導かれていく。複雑なパズルを解きおわった後のような読後感がとにかく気持ちいい。

そんな心理パズルのような展開を下支えしていくのが主人公達の堅実な情報収集パート。「ひらめき」や「偶然」から解決案が導き出されるのではなく、1件1件の地道すぎる物件調査・クライアントに対する深い理解やリサーチ・自分の足を使った実地探索を経ているからこそ、その成果として導きだされるたったひとつの最良の回答があるんですよね。本当に意味があるのか?と疑うような地道な仕事が成功に結びついていく展開が爽快でした。

お仕事小説としても面白かったけど、登場するキャラクターたちや彼らが織りなす人間関係も魅力的で。序盤は花が何者かにSNSでなりすましアカウントを作られて嫌がらせを受ける……という事件があって一度は会社をやめようとしたり、社内の誰も信用できない状態になるんですが、その期を経たからこそこれまでは表面上しか見えていなかった社員同士の信頼関係が見えてくる第二章が本当に良かった。メインである早乙女さんと花ちゃんの凸凹上司部下関係も好きなんけど、最初いけすかないやつとして登場したのに、なにかと同期の花のことをほっとけない光村君の存在が個人的にはめっちゃ好き。

お仕事モノではあるんだけど社内だけでなくてクライアントやライバル会社の社員・商店街のおじさんや元バイト先でお世話になっていたママやランチの時によく利用する中華料理屋の店員さんまで、ちょっとしたキャラでも個性たっぷりに描かれているのもとても楽しい。個人的に中華料理屋の陳さんがめちゃくちゃ良い味出してて好きなんですよね。主人公とは本当に殆ど縁のないキャラクターのはずなのに、この絶妙な個性の強さはずるいわ。

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私はご都合主義な解決担当の王女である 5

 

王女権力で無双する―― これが正しい権力の使い方! 政略結婚回避ラブコメ第5弾!
クリフォードにかかった濡れ衣を晴らすため兄セリウスと城下視察に出た私――王女オクタヴィア。 実はこの視察、裏で王族暗殺計画が動いているオプション付き! 危険は百も承知で敵の正体を暴くべく揺さぶりをかけたところ、待っていたのは衝撃の結末だった――。 「何故、殿下は傷ついておられるのですか?」 再び、彼を頼ることになるなんて……!?

シル様襲撃事件の容疑者として投獄されたクリフォードの冤罪を晴らすため、お互いの従者を交換してセリウス王子と市政の視察に赴いたオクタヴィア。ところが、視察の裏では王族の命を狙う計画が動いていた…!?全てを白日のものとするため、囮として様々な揺さぶりを賭けていくオクタヴィアだが……。

セリウスとの兄妹関係が良かった

視察編決着。前巻から引き続き、冷戦状態でこれまではぶつかり合うだけだった兄王子との絡みが良かった。従者の横入りも入らず一緒に過ごす内に少しずつ以前はそうだったであろう、気のおけない関係性に近くなっていくのがたまらない。そしてそんな兄妹の仲の良い様子に正体不明の感情を抱くクリフォードの姿にニヤニヤしてしまった。

その反面、視察で明らかになった事実は色々と衝撃的なことばかりで。麻紀が知る「原作小説の世界」とは食い違っていく関係性や展開、予想外の所から出てきた襲撃の真犯人。父王の伴侶・エドガー様の実家で行われたやりとり、そして襲撃事件の裏にいたのは思いもよらぬ人物で……と、次々と明かされていく終盤の展開には思わず息を飲んでしまう。いや、かつてのセリウス王子って本当に妹のことを大切に思っていたんだな……もちろん「オクタヴィア」が「麻紀」になったことも大きな要因ではあるんでしょうし父王の様子から不穏なものを感じ取ったことはあるのでしょうが、麻紀のあずかりしらぬところで原作小説の展開を捻じ曲げてしまうくらいに彼女のことを大切に想っていたんだな……と思うと。

2巻の時も思ったんですが今回うっすらと明かされた王家の話も含めて、世界観の「ご都合主義」部分に塗り込められた創造神からの悪意が半端ないんですよね。今回のラストで明かされたセリウス王子の記憶を奪った張本人が本当にその人だとしたら、完全にオクタヴィアの心を折りに来てるじゃないですか。今後の展開が楽しみだけど不安しか無い。小説家になろうのあとがきによると次巻で第一章完みたいな展開らしいので、いろいろなことに決着が付きそうでとても楽しみです。面白いんだけど設定が複雑な割に進みが遅い物語なので早めに次巻出ると良いなあ……!!(あと最初の人物紹介の所もうちょっと拡充して欲しい4Pくらい使って欲しい)

そんな中で読者も若干忘れかけてたオクタヴィアの婿取り話がサラっと蒸し返されてて笑った。そして王女なのにばっさり斬られすぎててもう一回笑う。相手は王女なんだからもうちょっと手加減してあげて!!でも本編でこれだけイチャイチャしてるのにクリフォード以外の相手を婿取りするのはやっぱり無理がありますよ!!!(はよくっつけの旗を振りながら)

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