普段は学園生活を送りながら、対ブレスレス組織「STAB」の一員としてブレスレスを狩る生活を送る優毅と勇生。STABの事をどこか信用できず、独自にこれまでのブレスレス事件を調べていた勇生は、そこで一人の青年と出会い……。
とつぜん男二人の同棲生活が始まっていやそこまでは普通の男子高校生ならまあそんなこともあるよなって思ったんですけど、なんか妙に甘酸っぱい生活始まっちゃってるんですけどーーー!?家族を一時に失って日常生活がおろそかになりがちな優毅と家族の愛情に恵まれなかった勇生が、久しぶりの(はじめての)家族らしい生活を営むという構図がなんというか今風に言うと「エモい」わけなんですけど、一家団欒的なやりとりとか、はじめての洗濯とか、最初はぎこちなくも少しずつ二人が心をひらいていく様子がじっくりと描かれていてジワジワと押し寄せる萌えがすごいです。私は一体何を読まされているんだ。
一方で、STAB側の思惑や「幻銃」という能力に対する副作用など、少しずつ物語の核心が明かされて、ますます不穏になっていく。幻銃という異能が与える快楽、どう考えてもヤバいやつだろって思ってたけど予想以上にヤバいシャブだったし、その上で「期間限定の能力」であるのがなんとも酷いよなと。快楽に溺れるベテルギウスやその快楽故に不安定になっている優毅のクラスメイト・岬理緒は相当引き返せないところまで行っちゃってる感あるし、それとは別に恋人であった優毅の妹・智笑美への復讐に逸り、真実に肉薄しようとする勇生も今にも自滅しそうでめちゃくちゃ危なっかしい。ほんとこの話、事件が解決してハッピーエンドになるとは到底思えないんだよな……。
そんなチームメイト達を冷静に見つめているようで、自分が行動するために、数少ない身内である「勇生を護る」ことにすがろうとしていく優毅、他のキャラクター以上に倒錯していて(良い意味で)気持ち悪いんだけど、それが独りよがりであると勇生本人から突きつけられるラストが大変に良かった。前半の家族ごっこがエモさの塊なだけに、心の距離が近づいたようでむしろ全然すれ違ったままだったと突きつけられるラストの落差が、本当に良い。
しかしこれ、あと1冊でどうまとめるんでしょうね……!?
キーワード:金田 榮路 (2 件 / 1 ページ)
ブレスレス・ハンター1
事故で妹を亡くした櫂原優毅はその事件の『被害者』の手で両親を喪い、妹の恋人を名乗る少年・高出水勇生と共に異能の力を手にする。妹を殺した異形の怪物・ブレスレスを消滅させる唯一の手段であるそれを手に入れた同じ名前を持つ二人は、ブレスレスに対抗する機関から勧誘され、人間が転じた異形の化物との戦いに身を投じていく。
HJ文庫の1巻無料キャンペーンで手に取りました。すごい昔懐かしい学園異能ラノベだ!と思ったらHJ文庫の創刊ラインナップで、そりゃあ昔懐かしいわ……。
「他者を傷つける」という事に快楽を感じたことのある優毅は異形の怪物を倒すための力を得て、手に入れた能力を本当に使って良いのか迷い、その葛藤故に手に入れた能力を発揮することが出来ない。自分の弱さにコンプレックスを持ち、死んだ彼女から聞かされた優毅の強さに憧れていた勇生は、その力を妹を殺した敵を倒すために使ってほしいと願う。表面上は同じ目的を持っているように見えて完全にすれ違っている主人公二人の関係性が印象的でした。実際優毅は他者を傷つけることを怖れているのではなくて、他者を傷つけることによって自分が快楽に溺れるのを怖れているんだけど、そのへんがどうしても伝わらないんだよなあ。
異能の力が与える快楽の熱に浮かされたようなチームメイト達、そして真実を教えてくれない機関の大人たち。1巻の時点だと誰も本当のことを語ってない感というかいろいろな意味でさわりで終わってしまった感が強いんだけど、この投げっぱなし感というか色々と血生臭く薄暗い感じがいかにもゼロ年代の学園異能という感じで楽しかったです。