語彙を溶かしながら豊富な語彙で「推し」のことを語るひとを見るのはとにかく健康になるものですが、この作品は主要人物がのきなみ、隙あらば推し語りを入れてくるので本当に健康になる。そんな健康過ぎる推し活の合間に、それとなく不穏な気配が見え隠れしてくるのも良かった。面白かった!!
他人の「推し活」を見るのは健康に良い
肖像画を見て一目惚れしていた騎士団長・フィニスと婚約することになった公爵令嬢・セレーナ。間近で推しを見られる幸せを噛み締めていたのもつかの間、二人は何者かの襲撃に遭って命を落としてしまう。──という『前世の記憶』を持ったまま、セレーナとしての人生を赤ん坊からやり直すことに。婚約者としての立場を放棄したセレーナは男装してひたすら身体を鍛え、フィニスの騎士団に入隊することに……!?「推し」について楽しそうに語るひと(キャラ)を見るのは本当に健康に良い。なんかもうマイナスイオンとか出てる。特に語彙力が豊富な人が語彙力を半ば溶かしながら言葉を尽くして推しについて語っているところは本当に最高。
本作はヒロインのセレーナをはじめ、作中の主要人物の殆どが濃ゆい推し語りを展開してくれるので本当に読むだけで健康になれます。一度目の生では自分の気持を胸のうちに秘め、ただ一人でフィニス様に萌えていたセレーナが、騎士団に入って同僚やらライバルやらフィニス様大大大大好きな面々と友誼を結んでいくのにニヤニヤし、本人が目の前にいるのもお構いなしにフィニス様語りで盛り上がってしまう姿にニヤニヤしてしまう。そして、真面目なカタブツかと思っていたフィニス様も、幕間で一人称視点になるととたんに「かわいい×かわいい=大大大大大宇宙。」とかいいだしてしまうので360度隙がなかった。もはやフィニス様の副官であるトラバントが最後の聖域みたいなとこあるんですけど、彼まで萌えを語りはじめたらツッコミが全滅してしまうので頑張ってそのままで居てほしい。
時折顔を覗かせる、不穏な空気がまた良い
登場人物の半数以上が声高らかに推しへの愛を叫ぶコミカルな展開がひたすら楽しい半面、時折どうしようもなく不穏な空気が顔を覗かせるのがまたすごい好き。一度目の生でセレーナとフィニスが命を落とした事件についてはまだ全く真相にたどり着けていない状態だし、フィニスにはそれだけではないなにか重い事情がありそうだしで暗くなる素養はいくらでもあるんですよね。明るい展開の合間にさりげなく挟まれる不穏な雰囲気って興奮しませんか???私はします。過酷な最前線において、死の恐怖を一時忘れさせるための萌え。そして、ともすれば危険ですらある「盲目的な愛」すらも無害なもの変えてしまう萌え。フィニス様が語る「萌え」のもうひとつの姿はちょっと危うい気配を感じさせて。今回は色々ない意味で萌えが世界を救う的な展開だったのですが、今後これがどっちの方向に転がっていくのかはとても気になるなあ。
萌えを語る一方で、セレーナの中で少しずつ一人の人間としてのフィニスへの恋心が育っていくのも印象的でした。この手のやつ紙一重で夢女子になってしまいがちなんだけどなんか絶妙に「推し対象」と「恋愛」が両立してる感じなのがポイント高かったです。それとなく示されたフィニスの今生での婚約者の話もひともんちゃくありそうな気配で気になる。次巻どうなっていくのか楽しみです。