ちょっぴり不思議な世界観を匂わせつつ、タイトル通り「尊いふたりのハッピーエンド」に焦点を絞った、カクヨムやツイッターに掲載されたWEB短編に書き下ろしを加えた短編集。
「ジャンル:川上稔」をこんな手軽に摂取しちゃっていいんですか!?
いや〜面白かった。川上稔概念のファスト摂取というか美味しいとこどり感がすごいのですが、いつもの独特な世界観を匂わせつつも主人公ふたり以外の要素はほとんど削って、どちらかというと少ない描写で読者にふたりの関係性や行間のアレコレを想像させていくタイプのお話なので短くても全然物足りなさはなく、バラエティ豊かな世界観の数々や関係性の異なるふたりの物量で推してくる感じありました。短かくて軽く読めるのに物量を感じる不思議。(ジャンル・川上稔、御本人のカクヨムコラムのキャッチがそれになってましたがあまりにも「わかる」だったので引用させていただきました)全体的にカップルがイチャコラして全力ハッピーでエンド!!!!というよりはふたりの出逢いから因縁・その行くすえをじっくりと描き、少し重いバックグラウンドを匂わせながらそれでも最後にはほんのり心が暖かくなるようなお話が多かったです。
どのお話も面白かったけど、個人的に一番好きなのは書き下ろしの短編「空と海を結ぶもの」かな。戦争をしている国同士のふたりが出会い、深夜の逢瀬を繰り返すお話。いや色々とネタバレになるので多くは語れないのですがこういうSF好きなんですよね……。最後の最後で明かされていく真実と、すべてが終わった後にやってきた少女が放つ一言がめちゃくちゃに刺さりました。
あと、ズルかったのはとある王国の聡明な王と彼の発言全てを記録する秘書官のやりとりを描く「ひめたるもの」。全部読み終わってからこの感想書くために公式のあらすじを見て「あらすじでバラしてくるのはズルいですよ!!!」ってなりましたよね……いや気付かないで読んでた自分も自分なのですが。
記憶のない男女のふたりだけの小さな世界から始まる「君が手を離さない」、化け物と呼ばれる少年と天使と呼ばれる少女が手紙を介して不器用なやり取りを繰り返す「化け物のはなし」、不安に思う僕とその不安に寄り添う私のやりとりが描かれるボーナストラック「コガレ」、会話劇の軽妙さとは裏腹な世界観の重さにひときわカワカミ成分を感じた「最後に見るもの」も大変良かったです。
とにかく手軽に手にとってなんとなく読めるのがとても楽しかったので、このシリーズもう3冊あるんですが、そちらもぼちぼち読んでいきたいと思います(というかタイトルが違うので普通に3巻目から手に取ってしまった……ありがち……)