何者かに階段から突き落とされて意識を失った公爵令嬢ルルーシェは、神を名乗る存在から自分が100日後に婚約者の王子の手にかかって殺されることを告げられる。しかもその死を皮切りにして婚約者や家族、身近な人達も次々と悲惨な破滅を迎えるという。自分の死を変えることはできないが死後の未来を変えることは出来ると知った彼女は、未来を変えるため奔走するが……!?
「悪役令嬢もの」という概念の使い方が上手い
複数の感想ブログで絶賛されていて気になっていた作品なのですがとても良かった……!!自分がいなくなった後の未来を少しでも良くするために婚約者である王子の浮気相手の男爵令嬢を自分の跡継ぎとして教育し、引きこもっていた弟を外に引っ張り出し、浪費癖のついた両親に農業や料理といった新たな楽しみを教えて、暗殺者を止めるために剣術の訓練をして、夜は自分に未来を告げた『神』と夢の中でお話して……破滅の未来を変えるために一息吐く暇もなく動き回るルルーシェの生き様が鮮やかに描かれていました。それは決して彼女にとっては楽しいだけの道程ではなかったとおもうんだけど、物語の中を所狭しと動き回る姿がとても楽しそうで。自分の感情を押し殺し、悪に徹することで物事を強引に推し進めていくルルーシェだが、その一方で少しずつ周囲の人々の本当の思惑が見えてくる。自分が婚約者に刺されるという未来の本当の状況、婚約者の王子サザンジールが自分の前でも「浮気相手」を連れ歩く理由、王子の弟ザフィルドの叶わぬ恋……ルルーシェも様々な誤解をしていたけれど、同じように読者である我々も気づかない間に同じような勘違いをしていて。真実が次々と明かされていく終盤に唸ってしまいましたし、読み終わってから最初に戻って一度読み直してしまった。たしかにそう言われてみるとそういう表現はされてなかったよなあ……!!
これはネタバレになってしまうかもしれないんですが最初にさりげなく使われた「まるで悪役令嬢だね」という言葉が色々と鍵になっていて……この物語本当に悪役令嬢という概念の使い方が上手。作中で言葉の意味を再定義させることでちょくちょく話題に登る「悪役令嬢なんて概念本当の乙女ゲームには存在しない」系反論をすり抜けていくし、その半面乙女ゲームの悪役令嬢という単語に付随する概念を物語の中に見事に取り入れてくる。まさしく彼女が悪役令嬢でなければいけなかった理由がしっかりあって……いや、ほんとネタバレにならない程度に、でも読んだ人には伝わる程度にこの話したいんだけどこれで伝わってる……!?
一方で何か、まだまだ世界観にさらなる真実が隠されていそうな……というかこれ実はゲームの世界でした系のどんでん返しが待っていそうな気がしてならないんですがこれは。『神』の名前の話とかルルーシェが何故か知っている指切り概念の話とか、ちょっと乙女ゲーム転生世界とかゲームの世界と現実が繋がってる話っぽい匂わせが複数あるんですよね。ルルーシェの残りの人生全てを賭けた未来改変は成功するのかも含め、次巻でどう決着が付くのか楽しみです。