夏目漱石ファンタジア | 今日もだらだら、読書日記。

夏目漱石ファンタジア

 

帝都に舞う夏目漱石、暗躍する野口英世、そして――衝撃の問題作
戦いの中で散った夏目漱石は、森鴎外の禁断の医術により樋口一葉の身体で蘇った。身を隠すべく女学校の教師になった漱石は、協力者・野口英世と共に己の復活の裏に見え隠れする大いなる陰謀に挑むことになり――

日露戦争の講和をきっかけに、政府と国民の間に分断が生まれた明治時代の日本。彼らの対立によって脅かされはじめた作家の「表現の自由」を護るために武装組織『木曜会』を立ち上げた夏目漱石。政府から生命を狙われ、瀕死の重傷を追った彼は親友であり文豪であり軍医でもあるドクトル・ニルヴァーナこと森鴎外の差し金で15年前に死んだはずの許嫁・樋口一葉の身体に脳を移植され、女性として蘇る。その正体を隠し、女学校の教師・「樋口夏子」として生きていくことを求められるが……!?

架空の明治時代を舞台にしたSF文豪バトル!!!

漱石を中心にした明治時代の文豪・文化人蘊蓄を大量に埋め込みつつ、カリスマ持ちでイケメンTSヒロインな夏目漱石(樋口夏子)と金の亡者な天才医師野口英世のバディが繰り広げるSF要素ありのバトルもの。近現代史・性転換して女子校に潜入・バディ・殺人鬼・クソデカ兵器……と、とにかくいろんな要素をモリモリにした特濃バトル展開が楽しい一方で、歴史蘊蓄がめちゃくちゃ多いけど歴史蘊蓄に興味がなくても楽しめる……というライトな感触も兼ね備えた読み口が大変良かった。当時の知識があればあるほど楽しいけど、無くても別に大丈夫というバランス感とても良いですね。

何より、夏目漱石(樋口夏子)と野口英世の凸凹バディ関係最高〜〜〜!!!(大声) もうまず「夏子」となった漱石が自身の行動に違和感が出たときの誤魔化しとして「月が綺麗ですね」を口癖にすることを英世からアドバイスされ、その口癖を自分のものにするためにイヤイヤ英世と練習を始めるが、いろんなシチュエーションをお出しされている内に次第にノリノリになってきて……というところの流れとか好きすぎて、もうこの辺の文章で白米3杯は行けます!!この辺、公式の試し読みに入っている部分なので気になった人がいたら是非読んでほしい。(まぁ、この口癖の設定自体はやや作者が使いあぐねてる印象はあったんですが……。)

作家の自由を護るため戦う信念の男・漱石と金払いが良ければどんな違法行為にも手を染める英世。時にはぶつかり合い、時には協力して「ブレイン・イーター」と呼ばれる殺人鬼と対峙していく展開がたまらなく楽しかったですし、なにより対象的なふたりがたったひとりの女のために共闘──という関係性が最高に良かった。また、夏子を影に日向に支える女中・禰子がまた良い味を出していて。

夏子が隠れ蓑として就任した神田女学校の教師として好き勝手していく展開、迷える女学生に道を示してうっかり彼女らのマドンナになってしまったり、また彼が「夏目漱石」だった頃に作り上げた武装組織『木曜会』の面々とのやりとりも楽しそうで、その辺の描写が少し薄めだったのは残念でしたがドラマガ掲載短編とかで日常番外編的な位置づけでやってくれるのを期待したい。なによりお話としては綺麗に終わっているものの続きいつでもいけます!!!と言わんばかりの終わり方で、続編が出るのを期待していたいと思います。

それにしても著者が他レーベルにも夏目漱石ネタで原稿送ってた話が受賞前後から話題になっていて、普通に作者は漱石ガチ勢なんだな……という感じで強いオタクとしての好感度がめちゃ高だったんですが、更に監修の人の解説がどう見ても「話を聞いて集まってきた漱石オタク上級者です!!!」という感じで最高だった。監修になった経緯がなんか概ね、めちゃくちゃ好きなマイナージャンルでめちゃくちゃ好きな同人二次創作作家をみつけてツイッターをフォローしたところからはじまりいつのまにか本の下読み校正装丁デザインまでやってたオタクの顔なんだよな……。

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