VTuberのエンディング、買い取ります。 | 今日もだらだら、読書日記。

VTuberのエンディング、買い取ります。

 
Tiv

『推し』の最期をプロデュースする救済と再生の物語――
VTuberアイドルグループ『星ヶ丘ハイスクール』所属の VTuber――夢叶乃亜。 彼女を推すことに青春の全てを捧げ、V界隈でも名を馳せていた高校生の苅部業は、乃亜の魂の醜態がネット上に晒され、大炎上したことで人生が一変する。 「おれはあの夜に死んだ……」 運営から推しの臨終を告げられ絶望した業は、高校を休学し一年後VTuberの炎上ネタを扱うブロガーとして日々を過ごしていた。 そんな業の元に『自分のVTuberを炎上させてほしい』という依頼を持ち込む美少女、小鴉海那が現れ――。 「これは人助け……いえ、VTuber助けみたいなものです」 『推し』の最期をプロデュースする救済と再生の物語。 第35回ファンタジア大賞〈大賞〉受賞作!

Vtuber・夢叶乃亜を推すことに青春の全てを掛けていた高校生・苅部業。V界隈でも有名人だった彼の人生は乃亜がリアルバレ・炎上からの活動終了に追い込まれたことで一変する。光のトップヲタからVtuberの炎上を扱う闇のブロガーに転身した彼のもとに、元同担の少女・小鴉海那からとある依頼が持ち込まれて……?

Vtuberオタク達のエンディングノート

面白かった。かつて推しを炎上で亡くした主人公が自らも「炎上」を駆使して依頼を受けたVtuberの最期をプロデュースする物語……であるのと同時に、「夢叶乃亜」を推していたオタク達が彼女によって付けられた心の空白に対してケリをつけるエンディングノート的な物語だったなと思います。

彼女の影を追い自らもVtuber界隈に飛び込む者、新しい「推し」を見つけた者、他のVtuberに彼女の姿を投影しようとする者。そんなかつての同志であったオタク達の未練に対して主人公が炎上という手段を用いて容赦なく「引導」を渡していく。「Vtuber」と「Vtuber推しのオタク」、両方が納得の出来る終わり方を水面下で模索していく展開にはどこか救いがあって。いやほんと、炎上からのコンテンツ終了、辛いもんな……好きという気持ちをSNSに吐き出すことすら難易度の高い行動になってしまうのが特にキツい……私はV界隈のオタクじゃないけど全然対岸の火事ではない……。

どのエピソードも良かったのですが、個人的には特に綾小路ねいこのエピソードが好きでした。年配のオタクであるキャップン氏が年若い主人公に対して少しだけ感じてしまう負い目・憧憬も良かったし、やろうとすればもっと直接的なつながりを作ることも出来たであろうにあんな形で推しと接する姿もとても良い。最近涙腺が脆いのでタクシーのくだりで全てを察して泣いてしまった。

全ての「推し」を持つオタクに読んで欲しい物語(クソデカ主語)

依頼を受けたVtuberを燃やしていくという手法はいろいろな意味で賛否両論あると思いますが、物語を読み進めていくにつれて主人公の真意と、彼自身もまた夢叶乃亜の欠落を埋めるために足掻き続けている姿が見えてくる。炎上ブログでの活動を通して彼女の復活が有り得ないことを誰よりも実感していて……それでも時折『乃亜ちゃんに会いたい』と独り言ちずにはいられない。そんな彼が「もうひとりの自分」ともいうべき存在と──そして自分自身の傷跡と対峙するクライマックスはとてもアツいものでしたし、いなくなった推しだけを一途に見つめてきた彼が、一途に自分を想い続けるヒロインの手によって引導を渡されてしまうラストがまた良かった。あらすじで書かれている通り救済の物語であると同時に「再生」の物語でもあったと思います。

Vtuberモノというより、推しがいる全てのオタクに読んで欲しい物語(※面白かったオタクが感極まって使うクソデカ主語表現)でした。特に好きなコンテンツの炎上に接したことのあるオタクならば、良くも悪くも刺さる作品ではないでしょうか。いや拒否反応出る可能性もありそうなので責任は持ちませんけど。

「夢叶乃亜推しオタク達の物語」としては1冊で完璧にまとまっていてとても満足感の高い一冊だったのですが、表題の「〜買い取ります」の部分を踏まえると物語としてはおそらくスタート地点に立ったところでしかないハズなんですよね。次巻にどう繋いでいくのかとても楽しみです。

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