結婚式を目前にして起きてしまった悲しい事件。敵の予言通り心が折れやるべきことを見失ってしまうライナだったが、フェリスの剣の柄におかしな模様が付いていることに気づく。それは父から託された最後の希望で──果たしてライナ達は世界を救い、いつか夢見た「昼寝だけしていれば良い世界」を実現することが出来るのか!?
登場人物たちの関係性の変化が良かった
面白かった〜〜!!最終巻となってもずっと絶望的な展開の連続でドラマガの連載時もここから彼らがどう救われるのかわからないと頭を抱えながら読んでいたけど、そんな絶望的なフラグの数々をきっちり回収しつつそれでも諦めないで手を取り合って足掻き続けた彼らが最後の最期で最高のハッピーエンドを掴み取る物語でした。今回の章題、フェリス→ライナ→シオンで主人公三人の名を冠して綺麗に終わるの胸熱。それぞれの理由で大切な人と手を取り合うことを恐れ続けていた登場人物達がこの最終章を経ることでその勇気を得て、どんなことがあっても生きたいと決意を新たにしていく展開がアツかった。主人公であるライナ・フェリス・シオンの三人は言うまでもないけれど、この伝勇伝という物語に登場するキャラクターたちって本当に誰も彼もが自分のことが好きになれない/自信を持てない故に自身の好意を他者に伝える勇気が持てなかった人たちばっかり(クラウとノアとか、カルネとエスリナですらそう)なんですよね……それが、ライナがフェリスに気持ちを伝えたことをきっかけに少しずつ隣りにいる大切な人に気持ちを伝える勇気を持てるようになって。そこかしこでカップル成立していく展開は色んな意味で最終回感がありましたが、最終章って短いながらもこれまでの本編で掛かった以上の時間が作中で流れてますし、むしろ「どうして両思いにすらなってなかったんだ」ってカップルも多かったので割と納得感高い。
最後の5年間で様々な登場人物たちのその後が語られましたが、個人的にめちゃくちゃ好きなのはミルク隊長のその後。いや、彼女とキファの話については賛否分かれるのかもしれないなあとは思うのですが、ああなったらああなったで存外ドライなミルク隊長が妙に「らしく」感じてしまったし、ライナのことをふっきったミルクとライナの、それぞれに別々の帰るところを見つけた二人の会話がめちゃくちゃ性癖に刺さったので個人的にはめちゃくちゃ良かったです。いやあれ、ミルクの心の整理が付かない限りどこまでも拗れる問題でもあったとおもうのでそこに至るまでに彼女だけに作中経過5年が与えられたの凄く良かったなあと……(他のメンバーは5年前の時点で何かしら決着が付いていたので)
あと、ここは割とコメディな部分ですがライナとシオンが下手かつ雑すぎる下ネタ会話をしようとして、フェリスとフロワードに聞かれてしっちゃかめっちゃかになる展開めっちゃ好き。ガチでショックを受けるフェリスと目を輝かせるフロワードが微笑ましすぎるのもありますが、ここまで紆余曲折あったライナとシオンが、そしてこの巻の冒頭でおきた惨劇によって一度は全てに絶望して死んだ目で虚空を見ているばかりだったふたりが──ただの年頃の男の子達みたいにしょうもない下ネタ言ってるのめちゃくちゃな感慨深さあった。たとえそれが全く心のこもってない「女とやりまくりて〜」だったとしても。
ライナとフェリスの結婚ももちろん嬉しかったけど、この物語が最後まで「ライナとシオンとフェリスの物語」として二人の結婚後もシオンを含めた三人で一緒に居てくれたことが嬉しかった。
みんなで最後まで足掻き続けて、掴み取った最良の結末
とにかくこの最終章に至っても最後の最後まで全然ハッピーエンドの兆しが見えなくて、少し希望が見えてはそれ以上の絶望で押しつぶされるような展開の連続なのがしんどかった。状況を整理すれば整理するほどただの人間だけど寿命を超えて300歳まで生きたいみたいな無理ゲーであることが明らかになっていくのがただただ辛かった。最終的に突きつけられたのは「多大な犠牲を払い外世界を敵に回してでも状況の根治を目指す」「成功率は低いが全員が個を保ったまま現状を大幅に先延ばしにする」の2つ。もう本当にあの結末に辿り着いたのは他に選択肢がなかった以上のなにものでもないのですが、そこにたどり着くことが出来たのはライナ達の必死の頑張りと、最後まで絶対に全員で生き抜きたいという強い意志と頑張りがあったから。
状況が根本的に解決したとは言えないし今回の戦いでやったことが未来にどのような影響を及ぼすかは全く未知数なままではありますが、少なくても現在のライナ達が笑って暮らせる世の中になったのは事実で、そうだとしたらそれこそがどうしようもなく彼ららしい最良のエンドだったんじゃないかな。そして、そこにたどり着くための鍵となるのがライナがシオンやフェリスや仲間たちが自身を愛すことができるかという一点に収束していくの凄かったです。ひょっとしたらサブタイの「みんなが昼寝王国民」、そういうことだったのかもしれないね。
2021年という大分最近になったところから追いかけ始めた新参読者でしたが、ちょうど良いタイミングでドラゴンマガジンでの連載がはじまり、その連載を見届けた末にこうして書籍版として完結する姿を見ることが出来たのが本当によかった。楽しかったです!
……それはそうと、本編が完結して本当に綺麗に終わったのでそこは本当に嬉しい限りなのですが、どう考えても短編で読みたいエピソードめちゃくちゃあるよなあ!!???いや、レムルス帝国からローランドに戻るまでの楽しい帰還の旅とか!ローランドに帰って神からの干渉が再開するまでの期間とか!!最終章なんか1冊で5年分も月日流れてるんですよ!?その間にあらゆるところでカップル成立してるんですよ!!???幕間挿入チャンスだらけじゃないですか!!!あと、完結後の物語も蛇足と言われようが読みたい。
もう10冊……とはいわなくてもあと1〜2冊くらい短編集出してくれてもいいと思うんですけどどうですか!!ああ、ドラマガが休刊したのがタイミング悪すぎる!!!