魔王2099 1.電子荒廃都市・新宿 | 今日もだらだら、読書日記。

魔王2099 1.電子荒廃都市・新宿

 

第33回ファンタジア大賞――異次元の《大賞》受賞作!
統合暦2099年――新宿市。究極の発展を遂げた未来都市に、伝説の魔王・ベルトールは再臨した。巨大都市国家の輝かしい繁栄と……その裏に隠された凄惨な“闇”。新たな世界を支配すべく、魔王は未来を躍動する!

サイバーパンクにファンタジー要素を融合させたバトル描写と、500年の因縁を超えて共通した目的のために手を取り合う魔王と勇者の関係性が大変に良かった。欲をいえば魔王としての力を取り戻すためにゲーム実況をして成り上がるという展開がイマドキ風で面白かったので、もうちょっとがっつり読みたい。しかしもう挨拶の時点でめちゃくちゃに面白かったので勝ちという感じはする。

近未来の新宿で繰り広げられる、ファンタジー系サイバーパンク。

定命の者と不死の者達が生存戦争を行う魔導文明の世界とデジタル技術が発達した機械文明の世界が融合し、急速で歪な進化を遂げた2099年の新宿。500年の永き眠りから目覚めた魔王ベルトールだったが、その間に世界は大きく変わってしまっていた。魔王は再び力を、失われた信仰を取り戻すため(そして日銭を稼ぐため!)に動画配信をはじめることに……。

ファンタジーと近未来が融合したバトルや物語がとても面白かった!500年前は圧倒的な力を誇っていた魔王の無詠唱魔法というアドバンテージが、デジタル技術の発展によって補われるどころか更に上に行かれてしまう、という展開が現代の技術進化の光と闇を見ているようで面白い。世界の変化に加えて部下の裏切りにも遭って誰でも受けられるはずのデジタル技術の恩恵を受けることが出来ず、現代社会に戸惑っているうちにまともな職に着くのも難しくなってしまう魔王の凋落ぶりが印象的でした。

そんな彼が力を取り戻すために選んだ手段は「動画配信者」として名前と顔を売ること。彼に向けられる知名度が良いもの悪いものどちらも含めて彼への「信仰」という力になる、という展開が上手いなあと。動画配信を肯定的に見てくれるユーザーの興味だけでなく、アンチに粘着されることすらも一つの負の「信仰」として彼の力になると描かれているのが印象的で、ベルトールが以前よりも丸くなったみたいな話が後半で出てくるけど、動画配信者として正の信仰を集め続けたことと関係あったりするんですかね?結構集めた信仰の質によって本人の気性が左右されるみたいなのはありそうですよね。

一方で動画配信者としてのベルトールの様子はかなり必要最低限にしか描かれていなくて、もうちょっと読みたかった…!!そこがメインじゃないのはわかっているんですけど、気がつけば配信者として成り上がっているまであるのでちょっぴり物足りない感じ。でも彼の面白さは最初のカラー口絵の2Pだけで十分面白さが伝わっちゃうみたいなところもあるのでそれ以上は蛇足なのか。いやあのイラストと魔王の挨拶最高すぎない!?ドラマガにただひたすら魔王が配信するだけの短編とか載ったら雑誌ごと買うわ。

力を一時的にでも取り戻した魔王が、デジタル技術の革新による魔導技術のインフレを純粋な魔導の力のみで捻じ伏せていく終盤がまた大変に良かった。良くも悪くも500年前の魔王の凄さというものが序盤だけでは伝わりづらい部分があるんだけど、絶望的にも見えた戦力差を一瞬でもひっくり返してしまうパワーはさすが異世界の魔王!という感じで爽快。最初は致命的な弱点と思われていた「デジタル技術が一切使えない」という設定が一周回って最終決戦での強みになる展開には思わずニヤリとしてしまいました。

この魔王と勇者の関係性が美味しい!!!!

動画配信者として一角の地位を築きつつあった魔王は、思わぬ人物と再会する。それは、500年前に自身を倒した勇者グラムその人であった。定命の者であるはずの彼がどうして500年後の世界に、と疑問に思い声を掛けるが……

女神の手によって魔王達の「不死」とは違う「不老」の身体を手に入れてしまったグラム。魔王も勇者も必要のなくなった世界でヨゴレ仕事にも手を染め、かつての志を失って朽ち果てるように生きてきた彼が再臨した魔王と再び巡り会う。魔王と志を同じくすることは出来ないが、同じ目的の前に協力することは出来る──と、不死者を利用した非人道的な企みを前にして不倶戴天の敵同士であるふたりが手を取り合う展開が大変良かった。絵に描いたような正義の人だった勇者が現代社会で心が折れて擦り切れてる姿も印象強かったですが、そんな彼に本来は敵である魔王その人こそがかつての気持ちを思い起こさせてくれるというのがとても良い。いや、ほんと、お互いにしてきたことを思えば許すことは出来ないけれど背中を合わせて戦ったら誰よりも信頼できるという関係性は本当に最高なんですね!!!

魔王と勇者、二人を取り巻く女達とその関係も大変に魅力的でした。ベルトールの腹心の部下であるマキナが魔王との二人暮らしにどぎまぎする一方で魔王も500年後の生活を経て様々な変化が生まれてきて…と、だんだんラブコメのようなコントを繰り広げる二人がほほえまかわいいし、マキナの数少ない友人であり、ベルトールを配信者としてプロデュースした少女・高橋とベルトールのどこかビジネスライクな関係性も良かった。一方、勇者の方にも戦いの中で生まれた絆というか腐れ縁というかみたいな何かがはじまりそうだったり…で。この勇者と魔王の関係性は本当に美味しかったので今後もちょくちょく腐れ縁していってほしいし、できればお互いの大事な女を護るために共闘とかしていただきたい。

ファンタジーと近未来SFが融合したような世界観といい、キャラクター達の関係性といいとても楽しかったです!2巻が楽しみ。個人的には配信者魔王の挨拶、早急に声つけてもらったほうが良いって思ったんですけど確認したら原作PVがすでにやってくれてましたのでとりあえずPVを見てください。

日野聡×伊藤美来『魔王2099 1.電子荒廃都市・新宿』PV【第33回ファンタジア大賞《大賞》】

記事への反応
なにかあれば
  • わかる(2)
  • 面白かった(0)
  • 興味が湧いた(0)
  • 持ってる(1)
  • 買いました!(0)
  • ぱちぱちー(0)