小鳥遊ちゃんは打ち切り漫画を愛しすぎている | 今日もだらだら、読書日記。

小鳥遊ちゃんは打ち切り漫画を愛しすぎている

 

放課後、部室で密かに行われるのは……打ち切り漫画批評!?
俺、月見里司は高校生で漫画家志望。大人気の漫画誌、週刊コメットの漫画賞で最終選考まで残った経験もあり、今日も今日とて漫画部部室で、デビューを目指してネームを悶々と考える日々……なのだが、異様なまでに打ち切り漫画を愛好している部の後輩の小鳥遊がいつもちょっかいを出してくる。「お前……結局趣味が悪いだけじゃねえか。デスゲームやってる貧乏人を、金持ちが安全圏から見て楽しんでる感覚かよ」「ち、違いますよ! 私が求めてるのは散り際の美しさです! 土俵際の美学です! 敗者の生き様です!」「ただただ人間として面倒くさいな!」漫画同好会部室は、相も変わらず他愛のない会話で溢れている。

週刊漫画誌『コメット』の漫画賞に投稿して最終選考まで残ったこともある漫画家志望の少年・月見里司。漫画部の部長として放課後は部室で連載用のネームを練る日々を送っているが、そこにコメットの「打ち切り漫画」をこよなく愛する後輩の少女・小鳥遊が入部してきて……!?

「読者」って本当に面倒くせえなあ!!(身に覚えがありすぎる)

MF文庫Jで企画されたプロ作家向け短編コンテスト「第2回 MF文庫J evo」の受賞作品で、漫画家の卵な主人公が打ち切り漫画愛好家の後輩の少女と放課後の部室で打ち切り漫画を語るだけという往年の謎部活もの(別に謎部活ではない)を思わせる作品。読者投票ではなくPV首位なのがさもありなんというか、元の題名「小鳥遊ちゃんはクソ漫画愛好家」のインパクトありすぎなんだよなあ。ちなみに読者投票1位は1つ前に読んだ『経学少女伝 〜試験地獄の男装令嬢〜』(リンク先感想記事)だったそうです。

週刊少年漫画雑誌の打ち切りレースの話を皮切りにして、ネット批評の話・電子書籍の話・Web連載の話・ウェブトゥーンの話・ネットミームの話・クリエイターの働き方についての話……と、現在の状況を踏まえたリアルな「読者」の物語なのが笑え…笑えな…………面白かったです……。特に電子書籍の台頭による読者の購買行動の変化の話とかのあるある感ヤバかったですね。「Web連載で追いかけていた作品が単行本化したけど中身は読んでるし電子書籍のセールで安くなってるの待ってるうちに連載が打ち切られた」とか普通に身に覚えあるしマジで笑えないんですが!!

主題が「打ち切り漫画」という時点で色々とギリギリのところを突っ走ってる感が凄すぎるし実際ギリギリなんですが、これを(漫画家ではないとはいえ)同じプロクリエイターであるラノベ作家が書いてるというのがまた生々しいんだよなあ!!!特に顧問であり漫画に全く関心のない教師の東海林先生から漫画家の待遇についてマジレスされる第6章のキレッキレ感よ。これプロの漫画家じゃなくてラノベ作家が書いてるからこそギリギリセーフみたいなところある……とか思いながら読んでたらしれっとラノベ業界の話差し込んでくるのやめてください先生がそこに言及するとギリギリアウトだと思うので!!!!!!!!!!!!

それでストーリー性は薄くてだらだらと打ち切り漫画を語ってどこまでも続く感じ……かとおもいきや、ヤマもありオチもしっかりあり単巻で綺麗にまとまる感じのお話になってるの凄かった。今までと変わらないといいつつも廃部やスランプをきっかけに変化していく関係性、そして……多彩な展開で翻弄しつつ最終的に主人公ふたりと「とある打ち切り漫画」への偏愛の物語として落としていくのめちゃくちゃ綺麗で良かったです。付かず離れず、お互いに興味がないように見えてときどき信頼と執着が透けてくる月見と小鳥の関係性、めちゃくちゃ好きだな。いやこれでも全然綺麗に落ちてるようで落ちてないよね??問題は1ミリも解決してないよね???と思わなくもないけど、主人公二人が幸せならばそれでOK……なのかな!?いやでもほんとうに打ち切り漫画のファンってめんどくせえなあ!!!!!(色々と身に覚えがあったので辛かった)

打ち切り漫画レースが好き、と満面の笑みで語る小鳥遊ちゃんが最後の最後に漏らした本音、本当にわかるよ。

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