うららの記事一覧 | ページ 3 | 今日もだらだら、読書日記。

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ようこそ実力至上主義の教室へ 2年生編12

 

龍園と坂柳。このどちらかが明日───敗北し学校を去る。
長かった2年生も最終盤、最後の特別試験『学年末特別試験』が遂に実施される。各クラス先鋒、中堅、大将、3人の代表者を事前に選出し、対戦クラスの代表者と勝ち抜き戦を行う。ただし試験内容は当日まで不明というもの。 「俺の本気って奴を坂柳と、そしておまえに見せてやるよ。俺には似合わないが正々堂々とねじ伏せてやる」 「学年末特別試験が片付いたら、ゆっくりお茶でもいたしましょう。彼を倒した後は綾小路くんとの勝負が、3年生で待っていますから」 龍園と坂柳、生き残るのは1人だけ──。大人気学園黙示録、2年生編クライマックス! 「お互いに特別試験で退学せずに済んだら、その時は時間を作ってくれ」

2年生最後の特別試験である『学年末特別試験』が開催。事前に代表者を3人選ぶこと以外、当日まで詳細が全くわからない状態で堀北クラスは一之瀬クラスと、坂柳クラスは龍園クラスと戦うことに。そして、坂柳と龍園は今回の試験で負けたほうが退学するという密約を交わしていて……。

綾小路清隆、人の心がない(※褒めてる)

いや凄かった……本当に凄まじかった。もうこれ書くだけでネタバレかもしれないんですけど、2年生編を読みながらうすうす想像していた今後の展開、今回で一気に何もわからなくなったまであった。いやこれまでの前提とか関係性とか全部ひっくり返ったじゃん誰がここまでやれと言ったんですか!?(いや、全く先が読めなくなってしまったの最高といえば最高なんですけども!!!!!)

というわけで2年生最後の試験は3人の代表者を選出して残りのクラスメイトを7人×5組に分けて対戦クラスと人狼亜種的な役職当てゲームで戦わせる。更に代表者同士がその様子を見ながら並行して役職当てを行ってその勝敗によってお互いのHPを奪い合う……という複雑な試験。正直試験の内容が複雑すぎて、実際試験が始まるとフィーリングで読めるんですけどもうちょっとなんとかなりませんかってことだけは毎回地味に思う……。自らの進退を掛けて激突する坂柳と龍園、得意ジャンルである洞察力を活かせる試験で最強のプレイヤーとして堀北・綾小路の前に立ち塞がる一之瀬、綾小路も自らの目的のために水面下で動き始めて……という試験会場でも試験の外でも苛烈な戦いが巻き起こる、波乱万丈だった2年生編のクライマックスに相応しい、最高に面白いお話でした。

いやでもほんとに凄かった……何が凄かったって久しぶりに綾小路清隆に人の心がなさすぎて凄かった。いやヨーグルトメーカーほしすぎて発狂してたり交流会でひたすら土こねたがったり学園生活の中で初めて人間らしい自然な温かい感情を芽生えさせたり……2年生編3学期くらいからジワジワと描かれてきた彼のかすかな人間性の萌芽みたいなやつどこやっちゃったんですか!?というか綾小路清隆、半端に人間性を獲得したせいで自分の欲望のために行動することを覚えちゃった感と言うか、これまで以上にやることが凶悪になってるまであるのが怖い。今までを遥かに超える大惨事だった。

軽井沢さんとの倦怠期は前巻からずっとなので百歩譲って置いておいても(この男次巻で完全にフるつもりである)、ゆっくりと築き上げた信頼を最悪の形で裏切り、救うと見せかけて最後の最後でこのうえなく完膚なきまでに切り捨てて、自分の障害になりそうな身内の錆をしれっと再起不能にし、更にどうみても破る気まんまんの約定持ち出してきたり……いや本当に今回あまりにも人の心がなくてビビる。堀北さんは綾小路といい雰囲気になってるのとか一旦忘れて、なんかわからんうちにクラスメイトが減った件についてちゃんと追求してほしい。いやでもそうだよ「よう実」ってこういう話だったよね。ヨーグルトメーカーまじでなんだったんだろうね……。

ラストもなんかきれいに落ちたみたいな気がしたけど冷静に考えるとぜんぜん綾小路に人の心がないし、そこまでして掴み取った一番求めていた人物は再起不能レベルに心折られてませんか?大丈夫??いやまあこうなるの想定済みっぽいし綾小路だから上手いこと叩いて治すんだろうけどよ……。

いやもう細かい部分への言及しはじめるとキリがないので差し控えるんですけど最後の最後で焦土作戦(オブラート表現)取ってきたのとか本当に草だったんですけど、ほんとうにこれ最後にどうオチつけるんですかね。色んな意味で何もわからなくなった。今回の綾小路がやったことに対する各人のレスポンスがほとんど次巻回しになった上、地獄の親子面談・七瀬翼の正体・軽井沢との関係の決着・綾小路自身の進退問題……と春休みは激重イベント目白押しなんですよね。どうすんだこれ。2年生編の終着点が見えない。

軽井沢さんが次巻でフられるだろうことだけは確実……と思ってたんだけど、マジでそれすら覆りそうなくらいのひっくり返りぶりなんだよな……。


小鳥遊ちゃんは打ち切り漫画を愛しすぎている

 

放課後、部室で密かに行われるのは……打ち切り漫画批評!?
俺、月見里司は高校生で漫画家志望。大人気の漫画誌、週刊コメットの漫画賞で最終選考まで残った経験もあり、今日も今日とて漫画部部室で、デビューを目指してネームを悶々と考える日々……なのだが、異様なまでに打ち切り漫画を愛好している部の後輩の小鳥遊がいつもちょっかいを出してくる。「お前……結局趣味が悪いだけじゃねえか。デスゲームやってる貧乏人を、金持ちが安全圏から見て楽しんでる感覚かよ」「ち、違いますよ! 私が求めてるのは散り際の美しさです! 土俵際の美学です! 敗者の生き様です!」「ただただ人間として面倒くさいな!」漫画同好会部室は、相も変わらず他愛のない会話で溢れている。

週刊漫画誌『コメット』の漫画賞に投稿して最終選考まで残ったこともある漫画家志望の少年・月見里司。漫画部の部長として放課後は部室で連載用のネームを練る日々を送っているが、そこにコメットの「打ち切り漫画」をこよなく愛する後輩の少女・小鳥遊が入部してきて……!?

「読者」って本当に面倒くせえなあ!!(身に覚えがありすぎる)

MF文庫Jで企画されたプロ作家向け短編コンテスト「第2回 MF文庫J evo」の受賞作品で、漫画家の卵な主人公が打ち切り漫画愛好家の後輩の少女と放課後の部室で打ち切り漫画を語るだけという往年の謎部活もの(別に謎部活ではない)を思わせる作品。読者投票ではなくPV首位なのがさもありなんというか、元の題名「小鳥遊ちゃんはクソ漫画愛好家」のインパクトありすぎなんだよなあ。ちなみに読者投票1位は1つ前に読んだ『経学少女伝 〜試験地獄の男装令嬢〜』(リンク先感想記事)だったそうです。

週刊少年漫画雑誌の打ち切りレースの話を皮切りにして、ネット批評の話・電子書籍の話・Web連載の話・ウェブトゥーンの話・ネットミームの話・クリエイターの働き方についての話……と、現在の状況を踏まえたリアルな「読者」の物語なのが笑え…笑えな…………面白かったです……。特に電子書籍の台頭による読者の購買行動の変化の話とかのあるある感ヤバかったですね。「Web連載で追いかけていた作品が単行本化したけど中身は読んでるし電子書籍のセールで安くなってるの待ってるうちに連載が打ち切られた」とか普通に身に覚えあるしマジで笑えないんですが!!

主題が「打ち切り漫画」という時点で色々とギリギリのところを突っ走ってる感が凄すぎるし実際ギリギリなんですが、これを(漫画家ではないとはいえ)同じプロクリエイターであるラノベ作家が書いてるというのがまた生々しいんだよなあ!!!特に顧問であり漫画に全く関心のない教師の東海林先生から漫画家の待遇についてマジレスされる第6章のキレッキレ感よ。これプロの漫画家じゃなくてラノベ作家が書いてるからこそギリギリセーフみたいなところある……とか思いながら読んでたらしれっとラノベ業界の話差し込んでくるのやめてください先生がそこに言及するとギリギリアウトだと思うので!!!!!!!!!!!!

それでストーリー性は薄くてだらだらと打ち切り漫画を語ってどこまでも続く感じ……かとおもいきや、ヤマもありオチもしっかりあり単巻で綺麗にまとまる感じのお話になってるの凄かった。今までと変わらないといいつつも廃部やスランプをきっかけに変化していく関係性、そして……多彩な展開で翻弄しつつ最終的に主人公ふたりと「とある打ち切り漫画」への偏愛の物語として落としていくのめちゃくちゃ綺麗で良かったです。付かず離れず、お互いに興味がないように見えてときどき信頼と執着が透けてくる月見と小鳥の関係性、めちゃくちゃ好きだな。いやこれでも全然綺麗に落ちてるようで落ちてないよね??問題は1ミリも解決してないよね???と思わなくもないけど、主人公二人が幸せならばそれでOK……なのかな!?いやでもほんとうに打ち切り漫画のファンってめんどくせえなあ!!!!!(色々と身に覚えがあったので辛かった)

打ち切り漫画レースが好き、と満面の笑みで語る小鳥遊ちゃんが最後の最後に漏らした本音、本当にわかるよ。


経学少女伝 〜試験地獄の男装令嬢〜

 

世界最難関で男性のみ受験可能な試験・科挙。少女は性別を偽り運命へ挑む。
世界最難関・男性のみ受験可能な試験――科挙。 雷雪蓮(らい・せつれん)は、少女でありながら男装して科挙合格を目指す受験生。 自分以外にそんなやつはいないと思っていたが、試験会場でどう見ても女の子な受験生・耿梨玉(こう・りぎょく)を発見してしまう。 「世界を変えるのに性別も地位も関係ないよ! も、もちろん私は男だけど!」 「(試験の前に落ちそう……)」 仲良くなった二人は悪徳官僚に支配された世界を正すため、手を取り合い試験地獄へ挑むことに。 性別バレは即・失格なうえ、試験問題も超ハード。さらには殺人事件やカンニングの横行など様々なトラブルが発生して……!? 二人の男装令嬢が逆境に挑む中華試験譚。始め!

とある目的から、男装して女人禁制の試験である「科挙」を受験しようとする少女・雷雪蓮。男性としての振る舞いも完璧に身につけた彼女が受験会場で遭遇したのは、男装もせずに自分は男だと言い張るどうみても女の少女・耿梨玉だった。なしくずしに彼女と共に試験に挑むことになってしまうが……!?

手段も目的も対称的な少女達が繰り広げる、叛逆の物語

最初から最後まで試験のお話だったし、なんなら1冊まるまる使って「私達の試験はまだ始まったばかりだ」エンドだった。あまりにもサブタイの「試験地獄」という名前の通りで強さが凄い。

自国への復讐を果たすために科挙を受験し、合格のためなら汚いやり口含めて手段を選ばない男装の麗人・雪蓮。腐敗しきった自国の在り方を変えたいという願いを胸に、女性の装いのまま男だと言い張って試験に臨む耿梨玉。出発点は同じだが目指すところは微妙に違う、似ているようで性格もやりかたも正反対な少女二人が周囲を欺き、世界最難関を飛ばれる試験で生き残っていく展開が面白かった!!メインは主人公二人の関係性だけど、途中から腹に一物持ってそうな青年・李青龍や中性的な雰囲気を持つ少年・欧陽冉も加わって凸凹しながらも少しずつ連帯感が生まれていく展開も美味しかった。

打算ありきで梨玉と仲良くしていた雪蓮が、徐々に自分にはない梨玉の真っ直ぐな言葉に少しずつ魅かれていって……それでもなお、彼女が果たそうとしている「国家への復讐」という目的はあまりにも大きくて……。謎めいていた彼女の正体が明かされ、梨玉に絆されかけていた雪蓮が自らの本来の目的を再び思い知らされるクライマックスが衝撃的で、同時に彼女独りで突っ走ることへの危うさも感じてしまった。今回も結果として上手くトラブルを乗り越えられたとはいえ、梨玉に絆されちゃって目撃者を見逃してしまうあたりは微妙に年頃の少女らしさが抜けないと言うか、彼女の影響を半端に受けてしまったのが逆に危なっかしいんだよなあ。雪蓮の言葉の裏にまだなにかあると薄々気づいている梨玉が上手く彼女の支えになってくれればいいなあと、色々な意味で次巻どういう方向に進んでいくのかが気になる物語でありました。

言葉や手段は違えど彼女達が目指しているところあながち遠くズレてもいないのでなんだかんだで理解し合えば同じ道を歩めると思うんですけど、そのまますれ違って敵対する展開もなくはなさそうで……。


この先、絆があるぞ

 
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オンラインと現実の狭間で揺れ動く高校生のゲームライフストーリー
高校生ユウの趣味はゲームだ。自分のプレイヤースキルを試せるPvPが特に好きで、それを配信しリスナーと共有する日々を楽しんでいた。そんなある日。クラスメイトのダイが漏らしたのは、ゲーム『ELDEN RING』初心者特有の悩み。思わずアドバイスを返してしまい、ダイと一緒にプレイすることになる。この手のゲームは初心者だというダイは、驚き、喜び、ムキになったりと全身でゲームに熱中していて、ユウも気づけばダイとのゲームを楽しみにするようになっていた。しかし同じように楽しんでいたはずのゲーム配信ではリスナーと微妙な空気になってしまい――。オンラインと現実の狭間で揺れ動く高校生のゲームライフストーリー。

エルデンリングのPvPでリア充を狩るのを楽しみに、配信活動もやっている高校生のユウ。ある日、エルデンリングの序盤のボス攻略に詰まっているクラスメイト・ダイにうっかり話しかけてしまい、協力プレイで攻略のアドバイス兼見届け役をする羽目に……!?

実在のゲームを題材にした高校生ふたりの青春物語

苦手な「リア充」がフロムゲーのクソ強ボスにボコボコにされる姿を笑ってやろうという大分後ろ向きな気持ちでダイからのフレンド申請を承諾したユウが、なんでも新鮮な気持ちで楽しむスタイルのダイの姿を見ているうちにゲームを純粋に楽しむ姿を心地よく思い、少しずつ放課後の協力プレイを楽しむようになっていく。ゲーム攻略が進むにつれて自身の気持ちの変化に戸惑い、ゲームクリアによってダイとの関係が終わってしまうことへの怖れを感じ始めて……というふたりの関係性と気持ちの変化が印象的な物語でした。元のゲームは全くわからないのですが、ゲームの前提知識がなくても楽しめる高校生ふたりのゲームを題材にした青春のお話で、面白かった〜!!

ユウに訪れた気持ちの変化、しかしそれがきっかけでいままで「リア充憎し」でやっていた配信活動の方がうまくいかなくなり、リスナー達の不満が溜まり始める。挙げ句にはネットストーカーらしき人物まで現れ、ユウの私生活を掻き乱し……何もかもが上手くいかないままダイとも喧嘩してしまい……ドン底の所からゲーム内で殴り合って解決、雨降って地固まるというラストが最高にアツかった!ユウみたいに一種のキャラ作ってやってるタイプの配信者のキャラ変、視聴者側として考えるとかなり複雑な気持ちになりそうだなとも思うんですけど、あえて自分の素の姿を全世界に配信してエンタメとして昇華しちゃうの小規模炎上の火消しとしては上手かったんじゃないかなと。(作中の)万人が納得できる解決方法ではなかったとおもうけど、リアルでもネットでもクラスメイトも視聴者も一緒に楽しそうにしているエンディングにほっこりしました。リア充ども末永く爆発しろ!!

主人公二人の関係性がとにかく好きなんだけど、しんどい展開の中でも変わらぬ明るさで接してくれるユウのゲーム仲間のマイケルがめちゃくちゃ良いキャラだったし、同じクラスの仲下さんが適度な距離感で付き合ってくれるのも凄く良かった。ストーカーくんのその後も含め、基本的に悪い人がいない世界観なの安心できる。

友情以上恋愛未満の関係性たまらね〜〜〜!!!

これ作者側の意図か自分の誤読かわからないんですけど、最初男子同士の友情物語だと思って読んでたんですよね。というか本当に前半の展開で性別的なアレコレを感じなくて、リア充男子と陰キャ男子の友情物だと思って読んでいたというか。それが後半で二人の距離が縮まるにつれて少しずつお互いを意識するようになっていって、それに呼応するようにお互いの内面に関する描写も増えていって……「自分の本当の姿を暴かれたくない」と独りごちる序盤から、全部さらけ出してぶつけ合う後半に進むにつれて両者の内面の描写が増えていくのが印象的でした。

最終的にこの気持ちは友情なのか恋愛なのか、わからないけどどっちでもいい、今ふたりでいるのが楽しい!!という関係性に落ち着くのがめちゃくちゃ好みで、刺さった。そうなんだ私はこういうこの気持ちが恋愛なのかなんなのかわからないでもそれより大事な物があるしもっと君の隣で一緒に楽しいことしていたい系ラブコメ未満の甘酸っぺえやつ(長い)好きなんだ!!!

田口先生の現代舞台・甘酸っぱい男女の青春短編が前からすごく好みで、「3分間のボーイ・ミーツ・ガール」「僕とキミの15センチ」「きみがVTuberになるまで」とどれもめちゃくちゃ好きだったのでこの路線で一冊長編書いてくれないかなー……と密かにずっと待ってた身としては本当にありがとうエルデンリングでした。ありがとうございますこの路線でぜひもう一冊……(ガーゴイルとかミロクとか魔王城みたいなファンタジー疑似家族物路線も好きなんですが、そっちの新作もずっと待ってるんですが、それはそれとして……)。



「魔王城」だけじゃなくて「3分間のボーイ・ミーツ・ガール」も電子書籍になってないってマ!!!!?????????????????????(今気付いた)


夜勤事件 〜Chilla's Art ノベライズ集〜

 
 
原作
Chilla's Art

大人気インディホラーゲームメーカー、チラズアート作品ついにノベライズ!
大学生の田鶴結貴乃は生活費を稼ぐため、コンビニで高額時給の深夜バイトを始めた。だが初出勤にもかかわらず先輩の船橋は早々に退勤し、いきなりワンオペの夜を過ごすことになってしまう。そこへ降りかかる奇妙な出来事の数々。謎の忠告をしてくる客。故障なのかひとりでに開閉を続ける自動扉。そして自分宛に届いた謎のビデオテープ。テープの差出人は不明で、再生してもただ暗闇が映るばかり。さらにその後も毎晩奇怪なトラブルが相次ぎ、ついには自宅にまで差出人不明のビデオテープが送られてきて――。奇妙なコンビニで起り続ける異変を追う『夜勤事件』ほか、『閉店事件』『誘拐事件』『夜間警備』『パラソーシャル』の計五編を収録!

インディホラーゲームメーカー「チラズアート」さんの人気ゲーム5作品ををノベライズした短編集。

ゲーム要素の落とし込み方が上手いし展開知ってても怖い

ゲーム実況動画でめちゃくちゃ見ているメーカーさんの作品で、絶対にプレイ出来ない(ホラー苦手&アクション苦手&確実に3D酔いする)ジャンルだし面白かったです課金で……くらいの気持ちで購入しました。すべて展開を知っている作品のノベライズなので大丈夫……と思っていたのだけど、展開知ってても普通に全然怖かった。状況に追い詰められて正気を擦り減らしていく主人公達の心象描写が描かれているのは小説媒体ならではの楽しみだな。

全体的にひとこわ7割+ちょっとオカルトっぽい不可思議現象くらいの配分のホラーが多い印象の作品群なんですけど、ゲームをちゃんとプレイしていれば分かる範囲の部分はしっかり文章に入れ込みつつ、オカルト要素などの不可思議な部分は不可思議なままストーリーに落とし込まれていてゲームの持ち味である消化不良感は残りつつ展開としてはスマートに解りやすくなっていて良かったなと思います。

この辺は自分のプレイスタイル(視聴スタイル)の話になっちゃうんですけど、作業用BGVにしたり3D酔いの問題もあったりであまり画面を凝視しないんですよね。理不尽・不可思議に見えていた部分にちゃんと伏線があったり、繋がっていたり……というのが理解出来たのでそういう意味でも良かったです。特に表題作でもある『夜勤事件』のバッドエンド、割と理不尽エンドだと思ってたんだけどちゃんとそこに至る伏線貼ってあったんだなぁ……一本道の小説媒体で、グッドエンドとバッドエンドの要素両方拾ってホラーらしいオチに繋げてる手腕に惚れる。あと、突然フロアの雰囲気がガラリと変わったり脱出失敗バッドエンドがあったりする『夜間警備』、子どもの視点からで序盤ががややわかりづらい『誘拐事件』なんかも色々と新しい発見があって楽しかったです。『パラソーシャル』は誰も彼もが怪しくて、主人公が人間不信に陥っていくのが本当にわかる。

個人的に一番面白かったのは冒頭の『閉店事件』で、ストーカーの犯人によって消耗していく主人公の描写もホラーらしい展開も面白かったんですが、各作品の中でも異彩を放つ妙に難易度の高いカフェ店員業務パートの本作への落とし込み方が上手すぎて笑ってしまった。やたら長くて複雑なレシピをキッチン内に掲示しろっていう愚痴も出来上がったコーヒーをおもむろにゴミ箱に捨てに行くシーンも何度もゲーム実況で見たわ〜……更に忘れた頃に『パラソーシャル』で同じコーヒーショップ出して後日談出してしんみりさせつつ、お客さんの眼前で出来上がったコーヒーを捨てる描写でもう一度笑ってしまった。あの主人公確かにバイトを辞めた描写なかった気がするけど……!!ところで紙本の店舗特典が迷脇役・船橋先輩の話らしくて読みたすぎる……。

チラズさんの作品、他にも色々作品があるのでもう1〜2冊くらい出してもらって色んな話読みたいなと思いました。『地獄銭湯』とかどうかな。


組織の宿敵と結婚したらめちゃ甘い2

 

組織の宿敵が合コンで前の席に座ってた……イチャ甘夫婦の馴れ初めに迫る!
「な、なななな……んで、《羽根狩り》が、ここ……に」 「それはこちらのセリフだ、《白魔》。何らかの任務か?」  かつて敵対する異能力者の組織に属し、反目し合う目的のために抗争を繰り広げていた二人。《羽根狩り》こと犀川狼士と、《白魔》こと柳良律花は……組織解散後になぜかイチャコラ付き合った上に結婚していた!  そんな彼らの馴れ初めは、じつは場末の合コン会場からはじまった。大学生になっても宿敵同士はいがみ合うし喧嘩もするし、しまいにはどっちが強いかの幼稚なマウンティングバトルをはじめてしまう。でも似た者同士な二人は結局息ぴったりで、居心地も妙に良くて、互いの魅力にどんどん気づいていって……  昨日の敵は、今日の合コン相手。そして、将来は……?   その宿敵こそが、やがて運命の人だと気付くまで。  再会して恋して愛に至る、これは彼らの青春と初恋の記憶(ラブコメディ)。

かつて《羽根狩り》の異名を持ち、異能者達を狩る組織の一員として戦いを繰り広げた男・犀川狼士。世界が平和になり、普通の大学生になった彼は大学の合コンで何故か宿敵だった最強の異能者・柳良律花と再会する。再会時の第一印象も最悪、だけどお互いにどちらが上か決着をつけようとしているうちに戦っている時には見えなかった意外な一面を目の当たりにして……!?

相変わらずラブコメと異能バトルの配分が超好み

かつては現代異能バトルの最大のライバル同士……だったけれどなんやかんやあって現在はイチャイチャ新婚夫婦に……な二人の「なんやかんやあって」の部分を紐解く過去編。前巻に引き続き面白かった!素直になれない二人が形ばかりの「勝負」に固執しながらもお互いを意識していく様子が大変甘酸っぱいし、新キャラとなる狼士の悪友ふたりもキャラが濃ゆくて最高だったし、過去も現在もお兄ちゃんは心配症だった。それはそれとして、過去の狼士と律花がもどかしい距離感のラブコメやってる合間に「現在の」彼らが過去の馴れ初めエピソードを回想しながらイチャコラしてるの本当に温度差ひどくて笑う。

そして強力な異能者である律花の孤独に寄り添うため、無能力者の狼士が能力者を圧倒して無双するクライマックスがメチャクチャ良かった!いや確かに、無能力者である狼士が異能力者と互角以上に渡り合うにはそれしかないよねっていう感じの戦闘スタイルなんだけど、「足りないもの」を水面下での努力と情報戦と冷静な判断と頭脳プレイで圧倒しているのが最高に滾る!今回もメインであるラブコメにさらりと仕込まれたシリアス・異能バトルの配分がめちゃくちゃ好み。

それはそうと、今回も前作『サキュバスとニート』のキャラクター達がさりげなく登場してましたね。高校生時代の(まだ野球少年だった和友の女房役だった頃の)琥太郎が和友と「鐘を鳴らせたら永遠に結ばれる鐘」をふたりでつきに行こうとしてるの、微笑ましいの前に割と彼らを待ち受ける未来を思うと地獄みが深いんですが……ひきニートになった和友の唯一の親友ポジを確保したことまで考えるとむしろ汚染された聖杯的な案件なのでは……いや彼らが鐘を鳴らせたとは誰も言ってないしうん……。


声優ラジオのウラオモテ #10 夕陽とやすみは認められたい?

 

2024年TVアニメ放送!渡辺千佳が本心に向き合う、第10弾!
――佐藤。泊めて。  母に一人暮らしを反対され、我慢ならず家出してきた千佳。母は自分が声優として独り立ちすることをどう思っているのか。怒りと不安に苛まれる彼女のもとへ、同じく母親と不和を抱える双葉ミントが現れる。 「声優なんて、俳優になれない人がやる仕事でしょう……?」  そう言い切るのは、世界的大女優であるミントの母親・双葉スミレ。  親に声優活動を否定されるミントと自分を重ねた千佳は、どうすれば声優のすごさを見せつけられるか頭を悩ませる。だが由美子は勝負では解決しない、歪な親子関係の『真実』に気づいていて――。  2024年TVアニメ化も決定の声優青春ストーリー、第10弾!!

高校卒業後の一人暮らしを母親から反対され、喧嘩して由美子の家に逃げ込んできた千佳。そこにさらに、将来の話で母親と衝突した現役女子小学生先輩声優・双葉ミントが逃げ込んでくる。ミントを迎えに来た彼女の母親である大女優・双葉スミレの「声優は俳優になれなかった人がなる職業」という言葉に激昂した千佳はスミレに声優の凄さを見せつけようするが、由美子はその行動に違和感を覚えて……。

似てないようでやっぱり似ている2つの親子関係が印象的だった

双葉ミントの家庭の事情に切り込みつつ、序盤に出てきたきりなぁなぁになってた渡辺家の母子関係にも改めて切り込むお話。前巻に引き続き由美子の活動休止中の出来事で、由美子の方の事情が色々と片付いた分今回は千佳側からの視点が多く入っているんですが……渡辺千佳というか夕暮夕陽さん、マジで「歌種やすみ」の評価がメチャクチャ高くて震えた。声優の凄い演技の代表として、そして自分の目指すべき高みとして──当たり前のように大御所声優の名前と歌種やすみの名前を並べて大絶賛してくるじゃん……。

今回はなによりもミントの母である大女優・双葉スミレのキャラクターが強かったです。有名人オーラを完全にコントロールしている超絶演技力、大御所俳優として千佳達と対峙した時の威圧感についてはもう紙面を通じてこちらにまで伝わってくるようなヤバさだったし、そんな圧倒的な演技力で形成された強固な心の壁をコミュ強ギャルの佐藤由美子が少しずつ崩していくまでの駆け引き、何枚もの強固な防壁の裏に隠された「母親」としてミントを気遣う彼女の不器用な本心には圧倒されるばかりでした。いやしかし、将来への迷いを振り切って心の余裕が出てきた由美子のコミュ力・フォロー力とカリスマ性が無ければ乗り切れなかったであろう局面が多すぎて……特に初手からギクシャクしてた渡辺母と双葉母を左右に並べて真ん中で相対するのとかマジで由美子にしかできないよね……これは千佳もクソデカ評価しますわ……。

そんな双葉スミレの娘である双葉ミント──オフでは小学生としての年相応な顔を見せながらも、時に同じ業界の「先輩」として大人びた一面を覗かせるというギャップが印象的でした。ミント先輩というとどうしてもライブ前の過剰レッスンで無理して倒れかけたエピソードの印象が強かったんだけど、親の七光りが届かない場所で体力面や時間面で大きなハンデを抱えながらこの業界で生き抜いてきたのは伊達じゃなかった。半ば彼女のために用意されたイベント舞台で、桜並木乙女や夕暮夕陽といった実力派若手声優の中にあっても全く臆せず、かつて目指して挫折した俳優ではなく「声優として」圧倒的な演技力を見せつけるクライマックス、母親に認められるために演技の道を選んでスミレの言う通りそこから逃げ出して声優の道を選んだ双葉ミント……母親の存在に縛られ続けてきた彼女が自らの意志で「声優」として歩む道を改めて選ぶ……という展開がめちゃくちゃアツかったです。

そして、1巻でとりあえず決着は付いたもののギクシャクしたままだった渡辺母子の改めての話し合いも凄く良かったなあ……相変わらず声優としての仕事の不安定さを不安視しつつも同じ母親として大女優である双葉ミントにすら物怖じせずに自分の意見を言う渡辺母の株がマジで上がりすぎだった。喧嘩するたびに由美子の家に駆け込む千佳に頭を抱える姿が微笑ましいし、なんだかんだで母親のことを意識すると緊張してしまう千佳にニヨニヨしてしまう。

そんなわけでふたりの将来に関する悩みも概ね振り切ったところで次巻、いよいよ「卒業」な展開でどうなる!?


やさぐれ執事Vtuberとネガティブポンコツ令嬢Vtuberの虚実混在な配信生活2

 

緊張の初配信を終えたリバユニ3期生は、無事Vtuberとしての道を歩み始めた。 ひと安心したのも束の間、次に与えられた試練は事務所全体で行うハロウィン企画! 「七つの大罪」をテーマに歌唱動画をアップすることになるが、経験のない感情を表現できずに大苦戦! そんな中、かつての劇団仲間と再会した廻叉は、過去の己への「憤怒」を知る。 一方、「嫉妬」してしまうほど、大切な「誰か」を考えるユリアが思い浮かべた相手とは――? 「あなたが他の人を見ていると、苦しくて苦しくて――」 初めての思いは、生まれ変わった自分を進化させる! 毒舌執事×元引きこもり令嬢、異色の二人がVtuber界を席巻中!? 新感覚成長ラブコメ配信第二弾!

三期生の加入やステラ・フリークスとのコラボを経て盛り上がる「Re:BIRTH UNION(通称リバユニ)」。二期生で謎の執事Vtuber・正時廻叉も外部Vtuberとのコラボやゲーム実況など、これまでになかった活動を経験して少しずつ知名度を上げていく。そんな聖夜を控えたある日、Vtuber業界に大きな動きがやってきて!?

閉じていた世界が広がったような気がするシリーズ第2巻

外部企業勢や個人勢とのコラボ配信、リバユニ内でのアレコレ掛け合い、そして三期生にも様々なコラボのお誘いが……リバユニ内の閉じた関係性/尖ったキャラクター描写が強めだった1巻に対して、今回は3期生の加入や外部コラボを経て閉じていた世界観や人間関係が一気に広がったような印象を受けたシリーズ第2巻でした。特にオーバーズの男子V集合学力テストイベントにMCとして廻叉が呼ばれるエピソード、珍回答を巡ってわちゃわちゃしているオーバーズ男子達&MC廻叉の容赦ないツッコミがハマりすぎててめちゃくちゃに楽しかった!それに、これだけ大量の男子Vを集めた企画の描写って既存のVtuber小説でもあまり無かったと思うので希少だしてぇてぇだなあ……と思わず拝む。

そんな外部とのわちゃわちゃで気を緩めた所にリバユニ全体で行われた「ハロウィンコラボ」や正時廻叉の集大成とも言える「収益化記念配信」の個性が強烈過ぎて落差で目を灼かれる。「七つの大罪」をモチーフにしたハロウィンコラボをきっかけにしてそれぞれが自身の持つ『大罪』──過去や現在と向き合い、これまでの自分を乗り越えてくる流れは本当に「リバユニ」ならではだなあ……と思うし、リバユニの面々を巻き込みつつ彼本来の持ち味である演技に全振りしてきた収益化配信の異質さが際立つ。1巻でもその傾向ありましたが今回は特に中の人である「境正辰」の中での「正時廻叉」が徐々に独立した人格を持ち始めてる印象で、それだけ彼が強固にVtuber正時廻叉という人物を作り上げているということではあると思うんだけどそれだけ入り込めるのいろいろと凄い。自分の話をするときに2人分の意見を喋ったり、「私」と「俺」の使い分けする姿を目の当たりにしたあとで収益化記念配信ぶつけてくるの本当にズルいんですわ。

三期生であるユリアや四谷の登場・それに伴う箱内ファン層の変化などもあって、少しだけ「きな臭く」感じる場面もあったんだけど、まあこの人たちならなんとかしてしまうんだろうなあという安心感がある……というかアンチスレを酒の肴にするのはやめろォ!!!いやマジでリバユニの一期・二期生ってそういうやつらだって理解してたけどさあ!!これ半年後くらいには絶対四谷も同じことやってそう。ユリアちゃんにはこのままでいてほしい(でも三期生との顔合わせで廻叉が言った通り、彼女もしっかりとリバユニのノリに染まっていきそうな気もするんじゃ……)

ユリアがピュアすぎるせいで廻叉との関係性がまっすぐな憧れとして昇華されすぎてて逆に変に「恋愛」っぽく解釈されないのは上手いなあとおもいつつ、実は鉄仮面の下で案外普通に動揺してたりユリアとの距離感を測りかねている廻叉可愛いかよ〜〜となりました。そんな中、聖夜を前に突如復活を匂わせてきた「最初の7人」の消息不明のふたり。海外企業の参入も匂わせてきて……業界全体を巻き込むであろう大きなムーブメントを前にして、今なお独自路線を突き進むリバユニの面々がどう動いていくのか、とても楽しみです。

それにしても、とにかく個性豊かすぎて強烈なキャラクターの多いこのシリーズなんだけど、三期生の片割れである小泉四谷がめちゃくちゃいいキャラしてて最高ですね……デビュー配信の時の演出も強烈だったしオフライン時のデキる後輩キャラっぷりも良きなのですが、何よりオーバーズとのクリスマスホラーFPS配信が描写短いながらもめちゃくちゃ良かった。外部コラボの自己紹介の締めに「さあ、相互理解のお時間です」はずるいて。

あと今回、オーバーズの面々が脇役としていい味だしすぎてたから見た目がわからない&1つの場面に大勢集まると区別つけにくい問題だけが本当にもったいない……語尾で特徴付けるみたいなの、こういう地文少なめの会話劇やるときは地味に助かるやつなんですが……。3巻はぜひとも最初に人物紹介コーナーを作ってほしい&オーバーズ男子全員にイラストをください!!!


美少女揃いの英霊に育てられた俺が人類の切り札になった件2

 

『最弱兵器』暗殺の危機!? 陰謀渦巻く学園代表選抜戦、開催!
美少女英霊たちの弟子となり、魔物の大軍を退ける大活躍をしたウィリアムは、今日も修行に打ち込んで――いなかった。 「この前一生分の修行をしたじゃんか」「お前という奴は!」 サボり癖の抜けない弟子に、英霊たちは四苦八苦続き。 そんな中、第三王女のカノン・ユークリウッドがクラスに編入され、何故かウィリアムに接触を図ってくるように。 「わたくしは、あなたのことをよく知りたいと思っています」 笑顔でそう告げ距離を近づけてくる彼女の本当の目的は、なんとウィリアムの身辺調査、もしくは暗殺!? 『最弱兵器』は、新たな危機をどう乗り越える――?

美少女英霊たちの弟子となって魔物のスタンピートを止めるという活躍を見せたウィリアムだが、学園の危機と自らの留年の危機から脱したのを良いことにサボり癖が復活してしまう。そんな中、ウィリアムの活躍を知った第三王女カノン・ユークリウッドが彼の正体を探るために接近してきて……否応なしに学園最強を決める「代表選抜戦」に参戦させられることに!?彼女から「聖人」という言葉を聞いたレインの様子もおかしくて……。

綺麗にまとまりすぎてた1巻からの方向転換が大変そう

強くなったウィリアムが世界を救う「切り札」になるため、前に進む動機づけをするための、そして「魔王の従者」を名乗っていたレインが自らの因縁を乗り越えてもう一人の師匠として正式に立ち上がるための物語でした。良くも悪くも1巻を追えて今後長編シリーズをやるための方向転換・下地作りの巻だったのかなという印象を受けて、面白かったんだけど1巻のパンチが強かった分少し今回は色々なものが弱く感じてしまったな……。

1巻の「自分の実力を何も自覚していない主人公が無双するのを周囲がドン引きしながらその実力を気づかせずその気にさせて修行させる」という方向性が凄く面白かったんですよね。ただ、1巻でその辺の周囲の齟齬はほぼほぼ解消してしまい……比較対象も何も知らない一般人から変わって太古から世界を裏で操る覚醒者達へと変わってしまい、覚醒めたばかりの主人公が世界を操る強大な敵に立ち向かう──という方向性になってしまっているので若干「求めてたモノと違う」と感じてしまった部分はある。前巻めちゃくちゃおもしろかった師匠達との修行シーンも、「本気になれない」という壁が立ち塞がった点を踏まえても普通に苦労してる感じでしたし。ゼスやレオナルトといった男子の友人組の影が薄くなってしまったのもさみしくて……いや、もうあらゆる意味で1巻が1冊で綺麗にまとまりすぎてたんだよ!!

ただ今回の話は色々な意味で今後への下地づくりの回だと感じたので、3巻で本格的に覚醒者達が動き始めた時にどういう方向になっていくのか気になるし、何より覚醒したウィリアムの隣に立つために物語の裏で努力を続ける幼馴染ヒロイン・セシリーがめちゃくちゃ可愛かったので二人の関係が今後どのように変化していくのかも含めて今後が楽しみです!


職業、仕立屋。淡々と、VRMMO実況。2

 

気ままにクラフトを楽しむVRMMO『きまくら。』で仕立屋業をエンジョイ中のビビア。店頭販売を始めたり、《リクエストボックス》の要望に応えたりと新たな試みにも挑戦していた。とにかく作りたいものを作るぞと、気になるリクエストをチョイスし、初めてのワンピースや和装作りに励むことに。生産に大忙しで引き籠りがちな中、「そろそろ別の街に行ってみたいな?」と手付かずだったミッション消化を思い立ち、いそいそと向かった先は【病める森】! 幻獣のスタンピードを阻止する緊急イベントが発生し、この世界に存在する賢人たちの秘めた過去を知ることになって――? 壮大な世界をのんびり楽しみ尽くす、ほのぼのクラフトファンタジー第2弾!

VRMMO『きまくら。』でマイペースに仕立屋業を楽しむビビア。たまにはメインクエストでも進めよう……と思い向かった【病める森】で幻獣のスタンピードとそれを阻止する緊急クエストが発生してしまう。イベントポイントを集めるために向かった現場で禁止されているはずのPKを受け、更には『きまくら。』に関する衝撃的な事実を知ってしまい……!?

過激派セコムで歩いた後が一面の焼け野原な件

ビビアがまったりクラフトゲームしてる後ろが過激派セコムことゾエベルさんの手によって一面の焼け野原になってるの面白すぎるんですが!?2巻のオチで腹抱えて笑ったよね。後ろでセコムしてるゾエさんのせいでビビアまで巻き添えでヘイト買ってる描写には少しハラハラしましたが、結局うまいこといなしてしまいそうな空気あるのがズルいな……途中のチャットでも実際に出てきましたが、妹のリンリンちゃんの苦労が透けて見える。そして萌え語り仲間からはじまって過激派セコムからテロリストまで自由自在にこなすゾエさん最高に気持ち悪い(※褒めてます)

もはや『推しカプ』となったビビアを引退させまいと過激派セコムに変貌するゾエさんが今回の戦犯すぎる。ミナシゴさんからの情報によって『きまくら。』の真実を知ったビビア、冷静に「あっこれ求めてたクラフトゲーと違うな……?」と引退を検討しつつもなんだかんだ自分の意志で界隈の空気をを受け入れて今後もまったりやっていこう!みたいな雰囲気だったとおもうんですが……でも、「界隈」の空気に染まらない初心者っぽさを残したまま面倒ユーザーにもならず黙々とディープにゲームを楽しんでくれる新規ユーザーの存在ってあまりにも貴重だから、ガードしたくなる気持ちはわからなくもない……。あと、ビビアにとっては自分のことを「ブティックさん」という俗名じゃなくて「ビビアさん」って呼んでくれるゾエさんへの信頼、実はメチャクチャ高いんだろうな……。

いろいろな意味で大変なことになっている自らの背後には気づきもせず、相変わらずマイペースにクラフトゲームとして『きまくら。』をプレイしていくビビアですが、その合間にもしっかりワールドストーリー進行フラグを踏み抜いたり、誰も気づいていない新要素を発見したりで着々とゲーム内における台風の目と化していっており……。ゾエさんのセコム化もそうですけど、ビビアの特製衣装によって承認欲求をこじらせためめこさんの前途が心配すぎるし、もも太郎金融接近とか……1巻ずっとすれ違い通しだったキムチもといメダカさんとの今後も気になるし、あと妹ちゃんは強く生きて欲しい(2回目)。

リアルなネトゲ描写は面白いけどもう少し説明がほしい

この作品、クラフトゲーム描写もさることながら何よりも大規模ネトゲーにありがちな人間関係のギスギス描写がリアルで面白い。ゲーム内イベントで戦果争ってギスギスしてる描写とか、いつまでも初心者然とした質問してくるユーザーが彼女が見てない別のチャットでおもくそdisられてるのとかはもうリアルすぎてキツいんですが……!!(というかこの娘、電書版描き下ろしの番外編があまりにも不穏だったんですよね……ビビアの裏側面というか、一歩間違えればありえたifというか……不穏だ……)

ただ、本編であるゲーム内描写、公式スレッドやゲーム内チャットの描写など複数で展開する場面が複雑に絡み合っていくのがかなりわかりにくく、そこにネトゲーありがちな用語の省略を起点にした独自言語文化が加わってストーリーの全貌がわかりにくくなっているのはものすごくマイナスだなと思いました。Vtuberものや配信者者によくある「匿名掲示板」描写だとあまり誰が喋っているかを気にしなくてもよいのですが、この作品の場合記名タイプの掲示板・チャットになるので誰が喋ってるかが意外に重要になってくるんですよね。でも匿名掲示板形式と同じように記載されているからなんとなく読み飛ばしてしまうという……。

個人が趣味で書いてるWEB小説であればその「わかりにくさ」も味でいいとおもうんだけど、商業書籍として出版しているなら最低限のメインキャラだけでもいいから説明がほしいなあ。この作品なら誰がどの組織に所属しているのかもわかるような人物相関図・用語解説も付けて欲しい(本編はこのノリのままで行って欲しいんだけど、本編開始前に簡単な人物紹介と用語集が欲しいの意です)

1巻から頻出する「組織」がリンリン・ゾエベルの所属するギルドのことだと気づかず2巻の中盤まで読んでたのがショックだったなんてことはそんな。あと1巻でさらっと説明されてただけの「集荷」の意味を2巻読んだ頃にはすっかり忘れてしまってなんとなく雰囲気で読んでたとかそんな。