かりそめ聖女は今日も王太子(推し)に求婚される 私との結婚は【解釈違い】なのでお断りします! | 今日もだらだら、読書日記。

かりそめ聖女は今日も王太子(推し)に求婚される 私との結婚は【解釈違い】なのでお断りします!

 

聖女(オタク)が憧れの王子様と「薄い聖典(ほん)」で国を救います!?
優秀な神力を持つ聖女候補アリアセラ。 ある日呼び出しを受けるとそこには王太子ジークフリードがいて―― 「俺の婚約者になってもらえないだろうか」 「無理です」 何を隠そう彼は『薄い聖典(ほん)』で妄想のネタにしているその人で!?  国の危機を救うための政略婚約だと言われ承諾するが、なぜかジークの求愛は止まらず……結婚はしないって約束ですよね!?

「書」に聖なる力が宿る世界。優秀な神力を持ち次代の「聖女」候補とも名高いアリアセラは、神殿で巫女見習いとして聖典の転写作業に勤しかたわら正体を隠してこの国の王太子・ジークフリードを題材にした小説を書き、「名もなき様」として水面下で圧倒的な人気を獲得していた。ところがある日、小説の題材にしていた「推し」ことジークフリードその人から求婚されてしまう。何度断っても諦めてくれない王子にしぶしぶ彼を題材にした小説を書いていることを打ち明けたところ、とんでもない言葉が飛び出して……!?

「君が書いたものを含め俺について書かれた同人誌を200冊読んで、俺が君に幻滅しなかったら、俺と偽装婚約してくれ(意訳)」

プロローグでぶっこまれた王子からのプロポーズ↑が斬新すぎて初手で笑ってしまったし「他の作家の書いたものは勘弁して」と返すヒロインで追い打ちを喰らった。無表情だけど内心は顔面百変化でオタク特有の早口なヒロイン(でも推しとは絶対にゴールインしたくない同人作家の鑑)と、最初は彼女の実力を見込んで偽装婚約を求めてきて、しかしそのうちに彼女を一途に想うようになる王子の攻防戦(色々な意味)が大変良かったです。

とにかく偽装婚約を頑なに拒否されて、王太子とはいえ立場の弱い自分では嫌われても仕方ない……と諦めようとしたらものすごい早口で自分のことをめちゃくちゃ擁護してきてすぐさま好意すら示してくる少女(でも絶対に婚約にはノー)に困惑……もうこのやりとりの時点で面白かった。いやたしかに「推し」の概念を一切わからん「推し」対象(ヒロインにとっては雲の上の存在)からいきなり求婚されたらこう返すしかなくなるのかもしれない。でも「推し」本人の視点から見たら意味不明すぎて逆に追及が強くなるのもわからなくもない。そして追い詰められたヒロインが死なば諸共……と薄い本を差し出してきてという流れから飛び出すのが↑のプロポーズの発言です。王子がつよい。

色々な概念が現実の同人活動・推し活になぞらえられていて、ヒロインも現代で言うところの「ナマモノやってて公式から隠れたい同人女子オタク」であるんだけど、その一方で王子は自分を題材にした劇とか芝居とか全然ある中世ファンタジー世界に生きてるので自分を題材にした創作物への許容値が高く、そんな中で自分に対してめちゃくちゃ好意的で解像度の高い「物語」を描いてくれるヒロインの好感度が高くないわけ無くて……認識の違い、というか「生きてきた世界の違い」が良い意味でちぐはぐなやりとりを生んでいるのが印象的でした。あらすじを迂闊に説明するとナマモノ同人に御本尊が踏み込んでくる事/御本尊に読ませることへの良し悪しみたいな話に繋がりかねなくて日本語の難しさを感じるのですが……どちらかというとそのへんに対する忌憚意識をベースに認識の違いを楽しむお話になるのかなと。まああくまでヒロインのメンタルはナマモノ同人やってる女子であるので可哀想といえばかわいそうなんですが、王子も生命が掛かってるので……。

「うすいほん」 で せかいを すくう(※作者にとっては羞恥プレイ)

そんなこんなで(短いけど本当に色々あった)王国に巣食う魔女・王妃ルクレツィアによって支配された王宮に「浄化」の神力を見込まれてジークフリードの偽りの婚約者として乗り込むことになったアリアセラ。ジークフリード王子は最大の味方である王佐の大聖者を失い、王宮内で孤立してしまっていた。圧倒的な力を持つ王妃の魔力にはアリアセラが使う強力な神力でも刃が立たず、王太子はアリアセラを庇って大怪我をしてしまい絶体絶命の大ピンチ!!……というところから、まさかの大逆転劇でめちゃくちゃ笑ってしまった。アツい(けど薄い)展開が面白すぎる。いやあ、「薄い本」が世界を救った(マジで)

主人公が「ジークフリードもの」の大手同人作家だったことをはじめとしたすべてがこのクライマックスに繋がっていてめちゃくちゃ気持ちよかったし、圧倒的に不利な状況からの大逆転!!という展開でアツい展開なのにモノが「うすいほん」なせいで何もかも面白くなってしまうのバグだった。あとヒロインにとってはただただひたすら羞恥プレイなのめちゃくちゃ面白かったけど自分のことだと想像すると死ぬ。

オタク特有の「あまりにも原作が至高すぎていつまでも眺めていたいが自分の存在が許せないので壁になりたい」ジレンマとか、推し活ラブコメの定番である推しが恋愛対象になることで発生する「ひとりの男性として好きだけど推しと自分が両思いになるのは解釈違い」のジレンマとか、割と定番のジレンマは全部拾ってきて推し活・オタ活ラブコメとしても十分楽しかったけど、並行してめちゃくちゃシリアスで面白いファンタジーバトルをやっているのでほんとナマモノ同人……とか忌憚しないで読んでほしい。同人活動描写もそこそこ濃い目で、ファンタジー世界だけど装丁にこだわってる描写とか挿絵担当の友達とのやりとりとか印刷所とのやりとりとか出てくる。そして刷った本を王宮で回し読みさせることで立場の弱くなったジークフリードの立場を少しずつ回復させて時流の変化を促していく展開、シームレスに同人活動と状況の打開が繋がってて面白いんだよなあ。

あと「なんだかんだで押しが強く建前と本音を使い分けてくる、ヒロイン拗らせ気味ヒーロー」と「感情面とは違うところで両思いを拒否っている男前ヒロイン(感情的には完堕ち)」という組み合わせ、やっぱ最高なんですね…………好きなんですね…………。

1巻で綺麗にまとまってる話ではあるんだけど、いくらでも続ける余地のある話ではあったので続きが読みたい。

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