生前プレイしていたギャルゲーのヒロインの義兄、つまりゲームの脇役・神崎栄司に転生した主人公。本編の展開を変えるような行動は極力避けようと思っていたのだが……幼馴染から言われた言葉をきっかけに一念発起、心に大きな傷を抱える義妹・鈴那をゲーム開始前に救ってしまおうと決意する。
繊細で暖かな、兄と妹が家族になるまでの物語
「義妹を攻略〜」という強めのワードからは想像できないような、繊細で暖かな血の繋がらない家族の物語でした。タイトルからして不謹慎系のラブコメかなぁ……と思ってたんですよね。Twitterで流れてきた感想に「家族愛の物語」と書かれてなかったら手に取らなかったと思うんですが、手に取れてよかった。そして感想を流してくれた人に感謝。前世の記憶を取り戻したものの「数年後に主人公によってヒロインたちが救われる未来」を自ら壊してしまうことを恐れていた主人公が、幼馴染である天宮和奏との和解をきっかけに自分が持つ全てを使ってできる限りのことをしようという方向に変わっていく姿が印象的でした。前世の記憶を取り戻したことによって生まれてしまった年齢を重ねた故の一種の諦観、死んだときの記憶を取り戻したせいで自身の中に生じた深刻なトラウマ……人生経験やゲームの知識が武器になる一方でそれらに足を取られることも多くあり……それでも、その一度死んだ経験こそが義妹が囚われているジレンマに答えを与えることが出来るというクライマックスがめちゃくちゃ良かった。転生によって得た物が決してチートにはならず、でも物語全体の鍵を握っていく……このあたりのバランス感覚がすごく上手かったんじゃないかなと思います。
少しでも会話の機会を増やしたり、一緒に遊んだり……不器用だけど懸命な栄司の行動によって少しずつ心を解きほぐしていく鈴那がとても可愛かったし、こんな可愛い子が妹になったら栄司(原作・現実含めて)が超絶シスコンになるのもわかる。「攻略(しあわせ)」というタイトルの通りに本来の主人公の代わりにゲームシナリオ内で解き明かされるはずだった義妹の心の傷を癒やす物語となっていたし、同時に前世の記憶を取り戻してトラウマを得た栄司こそが彼女や和奏と心通わせることによって少しずつ立ち直っていくお話でもありました。
ところで、元になったギャルゲーのシステムがめちゃくちゃ「ときメモ」を彷彿させるというか……ただのノベルゲームではなく育成・シミュレーション要素含んでるあたり一昔前のギャルゲー・エロゲー感あって懐かしかったです。いや私ときメモエアプで友人がGSやってるのを横で眺めてただけなんですけども!
幼馴染ラブコメとしても良かった〜!!!
鈴那の件で何かと相談に乗ってくれる、幼馴染にしてゲームヒロインのひとりである和奏。栄司がはじめの一歩を踏み出すきっかけとなったやりとりによってわだかまりを解消した彼女の存在は栄司にとっては自身の行動次第で未来を良い方に変えられるというなによりの証拠となっていたと思うし、なにより色々と鈍感で空気が読めない栄司にヤキモキしつつも親身になって相談に乗ってくれる和奏は流石に人気ヒロインの貫禄で、可愛かった。まったく幼馴染ラブコメは最高だな!!!!!しかし、冷静に考えると人生二周目なのにあそこまでバレバレな幼馴染からの好意に気付けない栄司さんはマジで鈍感ってレベルじゃねーぞ!!!……じゃないですか……いや、3年後にはゲーム主人公と両思いになる女が自分のことを好きなはずないと思っているのかもしれないし、自分=前世でゲームをプレイした際の「完璧だが残念すぎるイケメン」というイメージが強すぎるのかも知れないし、自己評価が低すぎるのかも知れない(というかそういう描写は実際に多少ある)し、鈴那のことで手一杯で自分が周囲からどう見えているかとか和奏のことにまで気が回っていないというのはあるのかもしれないのですが……。1冊で綺麗にまとまっている物語で単巻完結と言われても違和感のないお話だったのですが、もし続編があるなら次はぜひ和奏との関係性をじっくり掘り下げてほしい。というか私が幼馴染ヒロイン大好きなので和奏編が読みたすぎる。