乙女ゲーム『ゲーテンベルグの白百合と黒薔薇』の真エンディングにたどり着くべく、徹夜でスチル回収をしていた主人公は階段で足を滑らせ──気がつけば、その乙女ゲームの世界に転生していた。しかも、明日処刑される悪役令嬢フェルリナとして。どうせ明日死ぬならせめて集めきれなかったスチルを拝んでから死にたい!!とゲームではお助けキャラだった騎士・アルフリートを巻き込んで「スチル回収」を始めて……?
タイトルの出オチ感とは裏腹に深まっていく謎は必見
処刑直前なのに乙女ゲーの未回収スチルをリアルで回収しようとする転生悪役令嬢のお話。タイトルから出落ち感がすごいしかなりコミカルな話ではあるのですが、話が進むごとに自分の記憶やゲーム知識と現実の展開にズレが生じてきて、謎が深まっていく……という展開がすごく良かった。真エンディングを見れてない乙女ゲームという不完全な知識と、感情が伴わず重要なエピソードの記憶が抜け落ちてしまっている悪役令嬢フェルリナとしての記憶。そのどちらにも大きな欠落があり、(プレイ済の)乙女ゲーム転生モノでありながら先の読めない展開になっていくのが印象的でした。元々謎解き要素・ホラーというかミステリー的な要素のある世界観なのですが、そこにゲーム内では描かれていなかった異能力の存在や知らない事件の話が掘り出されてきて、更には一連の騒動の裏で蠢く陰謀、攻略対象達の本心も明かされていって、どんどん何が起きてもおかしくない雰囲気になっていくんですよね。もう誰を信じたら良いかわからなくて、そのせいで中盤のアルフリートと離れてフェルリナひとりで行動するシーンなんかはかなりハラハラしながら読んでしまってました。
暗くなりすぎない展開・大団円のハッピーエンドが嬉しい
そんな予想外に重たい展開の中、主人公であるフェルリナがスチル回収に必死になったり「推し」の活躍に悲鳴を上げたりする姿と、彼女の相棒役である騎士アルフリートが彼女に振り回されながらも繰り出す鋭いツッコミが一種の清涼剤となっていた気がします。いや、2人の掛け合いが唯一の清涼剤だからこそ、中盤の2人が別行動を取る展開でめちゃくちゃ手に汗握ってしまうわけですが。フェルリナが「スチル回収」にこだわる姿はともすると滑稽だし現実が見えてないようにも思えるんですが、一方で色んなところで作品そのものに対する深い愛情を感じることができて、オタク主人公の推しコメディとしてもポイント高かった。ちょっといいシーンになると途端にスチル扱いして細かな描写で語り始めるのが微笑ましいし、中盤になるとだんだん好感度が上がってきたアルフリートがちょっと殺し文句を言ったりカッコいいムーブをする度に悲鳴を上げて不審者になってるのわかるすぎる。また、ただオタクの悲鳴を上げるだけではなくて、双子の妹でもありライバルでもありもう一人の「推し」でもあるゲームヒロイン・リリベールや攻略対象達について、どんなに彼らを疑いたくなるようなネガティブな情報や推察が出てきたとしてもゲームで触れた彼らの内面を信じ抜くフェルリナの姿がとても良かった。自身の命運に関してはやたらと達観している割に、自分を陥れたはずの彼らがバッドエンドを迎えないように奔走する姿はとても印象的で……だからこそアルフリートがフェルリナに「もっと自分を大事にしろ!」と言い続けるのも解るんだよなあ。
そんな彼女の真摯な想いが天に通じたのか、最終的にたどり着いたグランドフィナーレは誰も傷つくことのない完璧な大団円で、思わずニッコリしてしまいました。特に事件を通してすっかりラブラブになったアルフリートとの、事件を切っ掛けにすっかり仲良し家族になってしまったリリアーナとの仲睦まじい様子にはニヤニヤが止まりません。
悪役令嬢でも割りとよく見かける気がする復讐完遂でも「ざまぁ」でも逆ハーレムエンドでもなく、主人公含む登場人物全員がそれぞれの進むべき道を選んでそれぞれ幸せになっていくという大団円な終わり方、凄く良かったです。