はじまりの町がはじまらない | 今日もだらだら、読書日記。

はじまりの町がはじまらない

 

世界(サービス)終了を、止められますか? MMORPG「アクトロギア」のサービス終了が決定。そんななかゲーム世界の〈はじまりの町〉で町長を務めるオトマルは、唐突に自我を獲得する。同じく覚醒した毒舌秘書官のパブリナの説明で、世界の終わりを阻止するためには冒険者たちの満足度向上が必須と理解した町の住人たち。ショップやクエストの最適化、近隣国との交易。NPCたちの奮闘はやがて世界の外側をも巻き込む大事件へ――終わりかけゲーム復興物語!

「はじまりの町」の町長を務めるオトマルは秘書官であるパブリナから町の異変を報告され、その究明と対応に追われる羽目に。冒険者に話しかけられると定型文しか話せなくなる町民たち。町にはあるはずのものがなく、代わりに何もない虚無が広がっている。対応を話し合う町民たちの上から、“事務局からのお知らせ”という不思議な声が降ってきて──

意志を持ったNPC達による、サービス終了告知からの逆転劇

サービス終了を告知されたMMORPGのNPCがある日突然意思を持ち、僅かな手がかりを元にして自分たちを「何者かの用意した舞台の上で踊る操り人形達」・冒険者達をその観客であると判断して「演目」を盛り上げるために町興しを行い、世界の終焉に立ち向かっていくお話。

「ネットワークゲーム」の概念を知らない彼らが自分たちの知っている言葉・概念に置き換えて現在の状況と「世界」の問題点を把握していく展開がめちゃくちゃに面白かった!!同時に彼らのやり取りから見えてくるゲームの状況が完全に短命で終わるタイプのクソネトゲーで笑ってしまう。世界の作り込みが雑、街のマップが無駄に広いのに宿や店がバラけていて移動が面倒、ただただ面倒なだけのクソみたいなお使いミッション、そしてなにより敵が強すぎて最初の街からロクに外にも出られないようなクソバランス調整。これは間違いなく半年で死ぬタイプのネトゲーですわ。

意志を持ったとは言え彼らはあくまでプログラムに縛られた存在。冒険者とは定型文のやりとりしか行えず、新たな建物を立てたり、虚無になっている部分を開発する事も出来ない。縛りだらけの中でいかに冒険者と直接接触せずに新たな楽しみを提供するか、彼らが感じている遊びづらさをどう解決していくかという試行錯誤が楽しかった。更には外部から新規の冒険者を集めるために「SNS映え」まで意識した動画戦略を取り始めるの、有能すぎる。それにしても冒険者が敵を倒しやすくするために町民がわざわざ狩りに出向いて半殺しにして物理的に難易度を下げる展開には笑ってしまいました。いや確かに遊んでもらうために絶対に調整が必要な部分なんですが、冒険者の必要性〜〜!!!

自分たちがゲームの中の存在であることを受け入れ、冒険者達を歓待することで活気を得ていくはじまりの町。だが、彼らの言う事を信じられない周囲の国々は少しずつはじまりの町を敵視するように……というところからはじまる、世界を相手取った奮闘劇も面白かったです。この世界がゲームであることを逆手に取って──というかこの世界がクソゲーであることを逆手に取ってバグ技でクリアするみたいな展開にニヨニヨしてしまう。

凡庸な町長と毒舌で有能な秘書官のやりとりが楽しかった

ネトゲのキャラが「現実」に抗う物語そのものも面白かったけど、卓越した状況把握能力と対処力を持った毒舌秘書官パブリナと彼女に振り回されながらも最後の最後は上司としてのリーダー力を発揮する「はじまりの町」町長である主人公・オトマルの掛け合いがまた凄く良かったです。

そもそもパブリナがチートキャラすぎて運営側の誰かが紛れ込ませた状況改善のためのチートプログラムとかそういう線を疑うレベルなんですが、間違いなくこの作品の中で一番無能なのはNPCが自由意志で勝手に町運営しはじめてるのに気づかない何も対策しない運営だと思うので違うよね……。自分たちの暮らす世界が何者かによって作り出された舞台装置であることに気づき、プログラムの制約に反しない形での改善案を提示し、ラグ技を利用して大国を相手取らせ、ひいては現実世界までも侵食してしまうほどの超絶チートである彼女が、ゲーム側に定められた「設定」通りにオトマルにわかりにくい好意を寄せている展開が凄く皮肉ではあるんですけど微笑ましい。エピローグでオトマルとお互いのステータスを見せ合うやりとりが可愛すぎてニヤニヤが止まらなくなってしまった。

そんな彼女が自分の居場所を守るために行った外世界への「干渉」は、彼女の予想に反して外の世界に大きな影響を及ぼしてしまう。現実の世界を巻き込んで展開される急転直下のクライマックスと、その中でパブリナがオトマルに見せていく本心がたまらなく良かったです。チートレベルで有能だけど弱い部分も持ち合わせているパブリナをしっかり横から支えて、必要なときには「町長」としてのカリスマ・リーダーシップを発揮してくれるオトマルの存在が凄く心強くて、そりゃあパブリナもゲームの設定とかなくても惚れてしまうよなと。

ストーリーもキャラクターもどちらも魅力的で、最高に楽しいお話でした。しかしわがままを言うと1冊で綺麗に終わってる話ではあるんだけど、この話の「冒険者」側というか現実側の視点も読みたかった。運営は無能の気配なのでマジで気づいてなかったのかもしれないけど、冒険者として接待を受けていたユーザー側はこのサービス終了が決まった後から始まった謎の「テコ入れ」展開をどう思っていたのかめちゃくちゃ気になる。

ていうかこのテコ入れ、絶対に運営に問い合わせた人いるでしょ……それでも最後の最後まで放置されてたの本当に運営が無能としか思えなくてすごいんだよなあ……。

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