生まれた時から目が見えない子供として生まれてきたクノン。その欠落は「英雄の傷跡」として尊ばれたが、ひとりでは何もできないことを突きつけられたクノンは生きることに絶望してしまう。そんな彼が、家庭教師の軽率な一言を切っ掛けにして「魔術を使って視界を得る」という目標を見出して……!?
どこまでもポジティブで明るい、魔術探究のお話
盲目の主人公が魔術で「目」を作ろうとする話……と聞いてなんとなく結構重たい話なのかな?と思っていたら全然違った!人生に絶望していた主人公が魔術を使えば「目」が作れるかもしれない、と希望を見出してそれ以降はただひたすらに真っ直ぐにそしてポジティブに魔術の深淵に向かって突き進むお話。重苦しいのは最初の一瞬だけでしたね。1巻の序盤は基本的に実家の離れに引きこもっていて外部との接触は殆どないんだけど、やたらと明るい侍女・ニコの影響もあってか覚醒したクノンがものすごい勢いで明るいキャラになっていくのが頼もしいし、めちゃくちゃ高いテンションで繰り広げられるニコとのやりとりが楽しい。ついには口調だけは軽薄なエセ紳士になってしまったし、かつての絶望していた頃の彼を知っているだけにテンションの高すぎるニコとクノンのやりとりを好ましく思いながらも「本当にこれでよかったのか?」って一瞬なってしまう周囲にニヤニヤが止まらなかった。メインはそこじゃないんだけどほんと、会話の応酬だけでめちゃくちゃ楽しいな。
そしてそんな彼が家庭教師の手を離れて王宮の魔術師達と出会う話がまた、楽しくて仕方ない。クノンが「目」を作る研究の課程で作り出した魔術の発明の数々に興味津々な(というかもう普通に童心に戻ってエンジョイしちゃってる)大人の魔術師達の大人気なさがひたすら微笑ましかった。
徐々に前向きになっていく周囲の変化が良かった
このお話、生に絶望していたクノンが魔術と出会って生きる希望を見出す話であると同時に、前向きになったクノンが周囲を変えていく話でもあるんですよね。家庭教師のジェニエは一度は挫折していた魔術師の道を再び志すことを決意し、第九王女という立場に甘んじていた許嫁のミリカはクノンと共に生きるために相応しい力を手に入れる決意をする。クノンをずっと見守ってきた侍女のニコも自分の生に後悔をしないために婚活を決意して……と、とにかく皆が前向きに変わっていくのが読んでいて気持ち良い。軽妙な会話が楽しく、魔術士達のちょっぴりマッドなやりとりも楽しめて、作中を貫くポジティブな空気もあいまって、読むと元気が貰える1冊でした。一応1巻でひとまずの目標は達成されて、続きものとはいえ1冊目で話がそこそこ綺麗にまとまっているのもポイント高し。物語としては序章も序章という雰囲気なので、2巻がどうなっていくのかがとても楽しみです。