《無垢なる闇》や禁忌教典をめぐる戦いを追えて元の世界に戻ってきたグレンたち。その未来には、無数の可能性が広がっていて……。各ヒロインたちとグレンが結ばれる「もしも」の未来を描いた後日談短編集。
分岐ifエンドに至るための理論武装が完璧すぎる
最初にぶっちゃけますと私、分岐ifの複数ヒロインエンドというのが本当に本当に本当に本当に本当に本当に苦手なんですけど、このシリーズに関してはあまりにも分岐ifに至るまでの理論武装が完璧すぎてで唸ってしまった……ぐ、ぐうの音も出ないすぎる。分岐世界のすべての可能性世界線の物語だと、説明もなしに真っ先にわからせようとしてくるナムルスルートこと「永遠に新しき神」がまずズルいんですよね。ナムルスをパートナーに選んだグレンが不老の肉体も神としての力も捨てずに新たなる「神」となり、ナムルスとともに様々な分岐世界を救い続ける「正義の魔法使い」概念に成ることを自分の意志で選ぶというお話。確かに本編の終盤の展開を考えればロクアカの物語が一段落しただけでグレンがその後に無数の並行世界を神として生きていくルートがないとはいいきれないし、それなら世界ごと分裂して全ヒロインと結ばれるくらいはやってもおかしくないわけなんですが……ハーレムエンドをやる上で最大の問題となるヒロイン複数に対して主人公の体が一つしかない問題を主人公が人間じゃなくなることで解決してしまったの逆転の発想すぎる。
そんなわけで最初のルートで分岐世界線の設定をわからせてきた上で始まる、各ヒロインとのイチャイチャ話。外面は良いけど両想いになった途端にグレンの前ではポンコツ丸出し色ボケ状態になるイヴさんとそれを影に支えるグレン(とイリア)のお話「紅焔公と影の英雄」、両親の遺伝子を受け継いでとんでもないハイブリッドチルドレンが誕生してしまいなぜかグレンだけが振り回されるリィエルルート「英雄一家の休日」、ちょっとおちゃめでルミア大好きで心配性な母&姉が愛する娘(妹)を幸せにしようと暴走する(そして浮気を疑われたグレンが振り回される)「比翼連理の二人」、なかなか関係を進展させられないシスティーナがグレンと両想いになるために遺跡調査に向かいやっぱり暴走する「愛しい貴方へ」、全てドラマガ本誌で読んでいたのですがどれも各ヒロインの魅力がこれでもかというほど詰まった物語でめちゃくちゃに楽しかった!!
そして書き下ろしはロクでなしのダメ息子っぷりから一転して押せ押せなグレンにタジタジになってしまうセリカが大変かわいい「共に歩む」と、グレンが人生の最期に掴み取った最後の可能性の世界「グランドエピローグ」。グランドエピローグ、いやなんかあまりにも本編で綺麗にまとまってたから逆に出てこなかったけど確かにそうか〜〜ってルートで、ご都合……というにはあまりにもグレンがそこに至るまでに歩んだ道のりが遠大すぎて(グレンの人生、体感時間にしたらどのくらいになるのだろうと考えると割と背筋が寒くなるものがある)。
永遠とも無限とも言える生の中で、それでもラストまで歩ききったグレンに対して与えられたご褒美というにはあまりにもささやかな、でもこの「もしも」の物語の結末にふさわしいとびっきりの結末でした。いやあ本当、そこまでフォロー入るとは思ってなかったんだよね……感慨深いな……。
ちなみに雑誌で読んでた時全く別の人のエンディングを想像してたんですけど、これだけ話を壮大にされるとまあ確かにそこで歩みを止めてしまうグレンじゃなかったよなというかまあこれ語られてないだけでそのルートも全然あったよな!!!と思ってしまったのであまりにも強かった。いやでも実際、エピローグを読む限りは全ヒロインと結ばれなくてアルベルトと伝説の魔術師コンビになる可能性世界も新しい神のグレンがジャスティン少年救いに行く可能性世界も全然あったよこれ……(一生懸命伏せてたのに最後で台無し感想)