“タマシイビト”と呼ばれる存在に殺されるために存在し、自分を殺した本人以外の人間にはその存在を記憶してもらうこともできないまま数年で生き返り、繰り返し人生を送り続けるという悲しい存在である“イケニエビト”と、彼女に出会った二人の高校生が「歌」を通して彼女の存在を刻みつけようとする物語。
なんともいえない読後感。妙に目を引く表紙と、淡々とつづられる文章と、ホラーサスペンスっぽい設定と、イマドキの高校生らしい青臭さみたいなものと、物悲しさと、ロックな青春が核融合を起こした結果よくわかんないけど爽やかになってる!みたいな。桜庭一樹の「砂糖菓子の弾丸は?」に不思議要素足したようなイメージに近いんだけど、もっとなんともいえない独特な雰囲気がある。
タマシイビトに喰われてしまう為に数か月しか生きられない“イケニエビト”である実祈。復活した彼女との限られた短い時間の中で精一杯思い出を作ろうとする神野と明海の姿がなんだか切ない。やけにあっけない結末は色々消化不良のところもあるのだけど、じつにこの物語らしい終わり方という気もする。なんていうか、気になる部分は多々あるんだけど作品の雰囲気がなんだか心地よくて、そんな小さな事はどうでもよくなってしまうような魅力がある。
ただ、逆に言うとこの辺の雰囲気にうまく流されないと全くツボにハマらないんだろうなー。「そもそもなぜ神野が明海に電話をかけたの?」とか、作品全体を流れる強烈な中二…というよりも高二病臭さとか。良くも悪くも「雰囲気を楽しむ」物語であることは間違いないと思う。
“タマシイビト”との因縁も完全に断ち切れたわけではなく、実祈は自らの望みをかなえることができるのかとか、明海の恋の行方とか、爽やかな終わりと同時に続きが気になる終わり方。既に2巻が発売されているので3人の関係がどのように続いていくのか、とても楽しみです。
あと、やっぱり表紙のデザインが物凄い良いですよね。「白背景+女の子の立ち絵」というライトノベルでは王道すぎるくらいありがちなデザインのはずなのに、妙に目を惹かれてしまいます。帯の「せつなさはロック」というアオリ文句もこの作品にぴったりだし、2巻の帯デザインもすごく心惹かれるものがあって、凄くツボでした。普段あまり感じた事がないんだけど、編集やデザインの人のパワーに、どうしようもなく惹かれた一冊でありました。
キーワード:文倉 十 (6 件 / 1 ページ)
電撃コラボレーション 最後の鐘が鳴るとき
3ヶ月連続刊行のコラボシリーズ最終巻。ちょっと不思議な噂のある"MW(マリー・ホワイト)学園"が廃校になり、その最後の1日に起こった様々な出来事を描く連作コラボ短編集です。それぞれの作品のいろいろな所で他作品のキャラクター達が顔を覗かせ、2作目「MW号の悲劇」よりも各作品のリンク率が上がってる印象。
どれも面白かったですが、コラボシリーズ皆勤賞の有沢まみず・成田良悟はやはり別格だった気がする。好き勝手バラバラな各短編にリンクを持たせて補完までしてしまう成田作品の凄さは言わずもがな。よもや完全に各作品の中でも異色作だった「学園ホロたん」まで関連性をつけるとは誰が予想したことだろうか。そして泣きゲー系&ラブコメ作家の印象しかなかった有沢さんの作品は1作目でホラー、2作目で中年の悲哀モノ…と、いちいち毎回意外性ありすぎで驚かされました。というか、なんで最後の最後で腐女子大喜びなホモネタ書きますか有沢まみずの守備範囲SUGEEEEEEE!!!
他作品も結構平均的に面白くて、これといって飛びぬけてツボにきたものはなかったけど、どれもこれも隔たりなく楽しめました。作風的には佐藤さんの「MW学園の崩壊」が一番ツボ。怪奇的な"自殺"を遂げた少女を巡り、彼女の友人グループの3人がそれぞれの思惑を持って時計塔に集まる…という話なのですが、各キャラクターの語りから浮かんでくる少女の人物像のブレやどんどん狂気的な方向に向けて進展するキャラクター達の思考が不気味で、最初はラブコメ的な雰囲気すら漂っていたのがどんどんホラーな雰囲気になっていくのが素敵。ただ、個人的な嗜好として終わり方が唯一(成田さんの補完を持ってしても)いまいちスッキリしなかったのが残念だったり。確かに、一応事件のきっかけや真相はわかって綺麗に終わってはいるんだけど、色々明らかにならない部分が気になってしょうがない…。しかし、有沢さんといい佐藤さんといい、今回はラブコメ作家にしてやられまくりだなぁ。
個人的には、「マヨイガハレルヒ」の続きが普通に読みたい。最後のぼやかし方がまたニクイんだっ…。
狼と香辛料3
[著]支倉 凍砂 [絵]文倉 十
クメルスンは冬の大市と祭で賑わっていた。商売と、ホロの故郷であるヨイツの情報を求めて町に行く途中で二人は魚商人・アマーティと出会う。どうやら彼はホロに気があるらしく、最初は色々世話を焼いてくれたのだが、二人の関係を誤解したアマーティは自分とホロとの結婚を認めさせようと勝負を挑んで来る。ホロがアマーティとの結婚にに首を振るわけが無い…と最初は取り合わなかったロレンスだが、ホロとのすれ違いがとんでもない事態を生んで…?!
コメント欄でお勧めしていただいたので予定を繰り上げて読んでみました。確かに3巻でますます面白くなってる。今まで個人的に唯一のネックになっていた前半のグダグダ感も殆ど感じませんでした。クメルスンは冬の大市と祭で賑わっていた。商売と、ホロの故郷であるヨイツの情報を求めて町に行く途中で二人は魚商人・アマーティと出会う。どうやら彼はホロに気があるらしく、最初は色々世話を焼いてくれたのだが、二人の関係を誤解したアマーティは自分とホロとの結婚を認めさせようと勝負を挑んで来る。ホロがアマーティとの結婚にに首を振るわけが無い…と最初は取り合わなかったロレンスだが、ホロとのすれ違いがとんでもない事態を生んで…?!
なんか二人の関係が今まで以上に凄く良いですね?。ホロが疑うたびに何かと「嘘をついてないの、判るだろ?」と切り返してくるロレンスにニヤニヤします。そしてアマーティという“恋仇”の存在によって浮き彫りにされる、お互いの存在の大きさ。後半のいつになく弱気なホロが可愛くて仕方ありません。
それにしても、アマーティのかませ犬っぷりは最後の方になるとちょっと可哀想になっちゃいますね。せっかくの美少年キャラなのに扱いがよろしくないよ!!!あ、でもどちらかというと私はラント君も実に好みなのでオールオッケー。(ああっ、なんだか今凄く名作を台無しにした気がする!!)
今までのような命の危険や商人生命の危機は全く無いんだけど、「ホロがいない」というだけで緊迫感はシリーズ最高級。殆ど無理であろうというところから必死に一人で巻き返そうとするロレンスの姿には手に汗握るものがありました。そして、ダメかと思ったその時…!という巻き返しの過程が凄く良かったです。しかし今回は「信用売り」が理解しきれてなくて、イマイチ途中でなにやってるか良くわかんなかったんですがorz
ホロの故郷にして旅の最終目的地となる筈のヨイツの場所もわかった事だし、二人の旅が今後どうなるのか、楽しみです。
狼と香辛料2
[著]支倉 凍砂 [絵]文倉 十
港町パッツィオで儲けた香辛料でを売りに行ったロレンスとホロ。仕掛けられた罠を見抜き、その弱みで武器の信用買いを行った二人は意気揚々と教会都市リュビンハイゲンへ向かったが、罠に嵌められて大損を出してしまう。一転して破産の危機に襲われたロレンスは危険な賭けに打って出るのだが…
なんか面白くなってくる…というか尻に火が付くまでが長いシリーズだなあ…“経済”という特殊なテーマを使ったライトノベルなので仕方ないのですが、ちと経済関係の薀蓄がまどろっこしく感じて、そこでいつも詰まる。二人が窮地に陥ってからの展開はめちゃくちゃ面白く、一気に読めてしまうのですがそこに至る道のりがちょっと長い。ホロとロレンスの掛け合いは凄く微笑ましくて面白いのですが…。港町パッツィオで儲けた香辛料でを売りに行ったロレンスとホロ。仕掛けられた罠を見抜き、その弱みで武器の信用買いを行った二人は意気揚々と教会都市リュビンハイゲンへ向かったが、罠に嵌められて大損を出してしまう。一転して破産の危機に襲われたロレンスは危険な賭けに打って出るのだが…
ほのぼのとした前半から打って変わって、後半の展開は非常にハード。少しだけの援助を求めた際に“そんな非常時に女(ホロ)を連れ歩くとは何事だ”といわれて援助を断られてしまった場面では思わず読んでいて背筋が凍りました。そして裏切りに次ぐ裏切り…とにかく一度エンジンに火が付けば最後まで気が抜けません。文句なしに面白かったです!
…ただ、やっぱ前半がちょっとダルい。私自身があまりただほのぼの?としているだけの小説が得意ではないというのが大きくあるんだけど、ちょっとホロとロレンスの微笑ましい掛け合いに萌えるだけで読み進むにはキツイものがあった。二人の掛け合い以外の部分が良くも悪くも硬いからかな。でも「Missing」みたいに薀蓄が多くても楽しめた作品は私にも結構あるわけで…。
「物凄く面白い」「ホロとロレンスの掛け合い超サイコー」という点においては否定しないんだけど、去年の今頃の「狼と香辛料」フィーバー思い出すと、やっぱりちょっと「想像してたよりは」面白くないなあとか思っちゃって残念な感じ。我ながらどんだけ面白い作品を期待していたのかという感じなんですけど(笑)
何の前情報も無しに読めばもっと素直に楽しめたのかなあ?
狼と香辛料
[著]支倉 凍砂 [絵]文倉 十
ロレンスが行商で立ち寄った村を去ろうとした時、荷馬車に可愛らしい娘が寝転がっていた少女には犬のような耳と尻尾が生えていた。自らを豊作の神・“賢狼”ホロと名乗った彼女は故郷へ戻りたいといい、なしくずしにロレンスにくっついてくるのだが…
いい具合に今年最後に読んだラノベとなりました。今年ラノベ界を最も騒がせたライトノベルでシメてみます。ロレンスが行商で立ち寄った村を去ろうとした時、荷馬車に可愛らしい娘が寝転がっていた少女には犬のような耳と尻尾が生えていた。自らを豊作の神・“賢狼”ホロと名乗った彼女は故郷へ戻りたいといい、なしくずしにロレンスにくっついてくるのだが…
適当なバトルモノなんかよりももっと熱い、手に汗握る商人同士の騙しあい…駆け引きもさることながら、何よりもロレンスとホロが繰り広げる言葉の駆け引きが非常にツボ。ホロを必死にやりこめようと頭を働かせて、それでもやっぱりホロが一枚上手…という駆け引きには思わずニヤケ笑いが止まらなくなりそうでした。老獪なのに、それとは正反対の少女のような心をもっているホロの魅力を存分に堪能させていただきました。ホロ可愛いよホロ。
「経済をテーマにした小説」と聞いていたのでMissingのような薀蓄が大目のもっと堅い話を想像していたのですが、予想以上に軽妙なストーリー展開でかなり楽しく読むことが出来ました。特にホロを助け出そうとロレンスが必死に策を巡らすシーンは物凄く熱くて、手に汗握りながら読んでしまいました。
しかしここまで頭脳戦で拳にも負けない頭脳バトルを繰り広げてきたのに、結局ラストは力押し…っていうのが個人的には気に食わなかったです。ここまできたらなんとしても口先三寸で丸め込んでほしかったなあ。やりとりとかは好きだったので、ラストだけが非常に不満でした。っていうか本音をぶっちゃければ何でオチがダブルブリッd(うわーなにをするー)
なんだか半端じゃなく高い評価から自分の中でいつの間にか期待を掛けすぎていた所為か、最初に予想していたより「物凄く」面白くは無かったかも。つまらなかった訳でもなく続編も普通に読む気満々ではありますが。
電撃文庫RPG Cross of Venus+電撃学園RPG文庫
電撃学園RPG Cross of Venus [制作]アスキー・メディアワークス 電撃学園RPG文庫 [著]時雨沢 恵一、五十嵐 雄策、おかゆ まさき、水瀬 葉月、橋本 和也、三雲 岳斗、支倉 凍砂、成田 良悟、竹宮 ゆゆこ [絵]黒星 紅白、しゃあ、とりしも、さそりがため、さめだ 小判、和狸 ナオ、文倉 十、ヤスダ スズヒト、ヤス |
電撃学園RPG Cross of Venus(通常版)
「電撃学園」に通うごくふつうの高校生である主人公と彼の幼馴染・キズナが肝試しをしようと夜の学園に赴いたら購買でメロンパンを貪っているシャナと遭遇、なしくずしに「絶夢」と呼ばれるなぞの存在との戦いに巻き込まれ、電撃文庫作品の人気ヒロイン達と共に作品世界を回りながら物語の改ざんを阻止ていく…というお話。90年代のなかよし読者としては、高瀬綾の「くるみと七人のこびとたち」とか思い出します。
アクションRPG仕立てな作りのゲームで、難易度・易で20時間前後で(隠しボスを除いて)クリア。全16章で各章1?2時間くらいでクリアできるので手軽といえば手軽なのですが、とにかく終盤に入るまでラスボスの手がかりが殆ど掴めないまま「絶夢」の手先と戦うばかりの展開になるので、ちょっとフラストレーション溜まるかも……個人的には、9?15章が丸々蛇足に見えたのですが、気のせいですか…(ぶっちゃけ1?8章のボリュームをもう少し上げて、全作品世界回り終えたら即ラスボス戦、で十分だったと思う)
全体的に良くも悪くも「電撃文庫ファン向け」のアイテムというか、あまり出来のよくないキャラゲーの域を脱してない。8章×2だから8つの作品世界を2回ずつまわるのかと思ったら、一通りの世界を回った後はそれっきり登場の無い世界もあったりして、結構扱いの違いが顕著です。舞台としては「禁書目録」、敵役としては「シャナ」関連が贔屓目で、逆に「ドクロちゃん」と「とらドラ!」の世界には結局ラスト除いて1回ずつしか行かなかったなぁ…。
ただ、最終章のお話の展開は結構好きです。主人公に生徒会シリーズの杉崎鍵から名前を取って「すぎさき」と名づけたら、反響死滅兄さんみたいなの出てきて爆笑したけど。王道といえば王道なんだけど、崩壊する世界で、大切な人達がヒロインたちに次々に想いを伝えていくという展開は結構泣ける。さ、桜君がいい人になってるよ!!!(失礼)
ただ、ああいう展開にするなら、ラスボス相手に負けたら特殊バッドエンドほしかったよーな……わざわざクリアした後に負けに行った私の立場は。
全体的にやっつけ仕事というか、ファンアイテムだから出せば売れるだろう的思考が透けて見えるというか、「もうちょっとここを頑張ってくれれば…」みたいな部分が多くてその辺は残念なのですが、ファンとしてはそれなりに楽しめる1本でした。個人的には、せめてななめ移動くらいさせてくれよというのと、電撃カードのカットインはもうちょっと頑張ってほしかったくらいかなあ…
あ、でも最後にもう一つだけ言いたい。亜美の扱いが酷すぎる。
仲良し5人の中で唯一セリフも出番も無いと思ってたら、一応サブヒロインのはずなのに、最終章でセリフなしの雑魚中ボス扱いで絶夢の傀儡として量産されてた(←亜美ちゃんスキーは見ないほうが幸せです)ってどうなのー!
電撃学園RPG文庫
電撃学園RPGの初回特典としてついてきた、短編アンソロジー。
もはや学園とか完全スルーして、いつも通りの「キノの旅」な時雨沢恵一といつも通りの「とらドラ!」な竹宮ゆゆこ、「電撃学園」の要素を織り交ぜつつも(多分)いつも通りの「乃木坂春香」を描いている五十嵐雄策、舞台が「電撃学園」なだけでやってることは基本的にいつも通りホロとロレンスのイチャイチャな支倉凍砂、ゲーム本編についての反省とか愚痴とかをテンション高いキャラ会話主体で薦める三雲岳斗とおかゆまさき、未登場作品の自キャラを電撃学園に紛れ込ませて他作品とクロスオーバーさせてる水瀬葉月、橋本和也、そして成田良悟という感じ。どうでもいいけど、現代に紛れ込んだホロが割りと真面目にイヅナにしか見えません。夜はPC、昼は購買の店番しながらゲーム三昧なホロて……
個人的にはクロスオーバー組が全体的に好きだったかも。特に水瀬さんの短編で出てくる、フィア&ホロのやりとりが最高。長い年月を生きるホロの貫禄と母親のような優しさがラストのやりとりであふれてくるような気がしました。成田さんの短編はオタクが電撃学園に紛れ込んじゃったヨ!!という素晴らしい内容。大河にサイン貰おうとするとか、オトコマエすぎます。
あと、三雲さんの短編が……地文なしの「生徒会の一存」になっちゃってるよー!電撃のみならず別会社の作品にまで手が伸びる、いろいろな意味で恐ろしい1編でした…本当に、暫く笑いが止まらなかった。特に直前の橋本さんの短編で、いい子全開な操緒を見ていると、こっちのツッコミキャラ化してる操緒とのギャップが……
しかし、同じような楽屋裏オチをやったドクロちゃんのほうも「サバトちゃんとシャナと大河とルイズを一同に会させて、会話させたい」発言を筆頭に色々大暴走でしたが。最終巻で出たキャラはさすがに出せないと思うよ!!