ヴィエレヒト司教領で勃発した次期大司教の座を掛けた争い。殺された元大司教の娘・ヘンリエッテは父の無念を晴らすため次期大司教を目指す事を決意する。だが、その道には多くの困難が待ち構えていた。カレルは、彼女との縁談を持ちかけられたコルネリウスを伴い内乱を鎮圧するためヴィエレヒト司教領に向かう。
コルネリウスとヘンリエッテの関係性がめちゃくちゃ好き!!子供らしからぬ態度で大司教の座を望む彼女と、そんな彼女を不器用ながらも年相応の少女として扱い、護ろうとするコルネリウスが不器用ながら少しずつ距離を縮めていくさまが最高に良かった。幼くして大人の世界に足を踏み入れなければならないヘンリエッテにとって、コルネリウスが唯一本音を見せられる存在になっていくのがとても良い。
今回はカレルとヴェッセル、二人の立場の微妙な違いが透けて見えるのも楽しかったです。味方同士でありながらもどこか腹の探り合いをしているというか、今はただ「思惑が一致しているから共闘している」にすぎないんだよなあと。ひたむきに魔王が襲来するという未来に備えて五芒国の平定に突き進もうとするカレルと、ちょっと引いた立場で魔王を倒した「その後」の各国のパワーバランスまで計算しているヴェッセルの動きが印象的でした。それにしてもラストのヴェッセル挿絵のこの会心のドヤ顔最高かな?
それにしても、無事に4巻が出てよかった。明らかに妊娠フラグを感じるセシリアや側室フラグ立ってるミーリエルやら女性陣の今後の動きも気になる所。というわけで、富士見書房様におかれましては5巻もよろしくお願いします……。
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ファイフステル・サーガ3 再臨の魔王と草原の灰エルフ
魔王再臨の兆しをうけ、灰エルフ達が五芒国に侵入した。圧倒的な騎馬能力を持つ彼らはアレンヘムと戦争中だったフライスランドを徹底的に蹂躙していく。フライスランド総督から和平及び援軍の要請を受けたカレルはヴェッセルに和平の仲介を頼むことに。一方、灰エルフの族長の一人・ギルセリオンはひとり、他の灰エルフ達とは別行動を取っていて……。
これまで「夢の中でセシリアを殺す存在」というどこかふわふわした輪郭しかなかった灰エルフに生き生きと肉付けされていく流れが楽しく、第三の主人公的な存在であるギルセリオンが圧倒的な力で立ちふさがる人間たちをねじ伏せ、それと並行して女を抱くことで版図を広げ情報を得ていく姿がまるで別の物語を読んでいるよう。魔王とも他の灰エルフ達とも異なる視点を持った彼の存在は今後の物語において大きな意味を持ちそうで、どんなふうにカレルやヴェッセルの物語に関わっていくのか楽しみで仕方がない。しかしあの一晩で陥落させられた領主の娘のアレの話とか色んな意味でどういう流れだったんですかねえ!?流石に夜の床でメロメロになってしまって手のひら返したという流れだとは思えないんですけど、そのへんに描写ないので若干どういうふうに受け取ったら良いか悩むよな…。
「英雄、色を好む」を体現したようなギルセリオンのスケコマシ一代無双旅の後にカレル・セシリア夫妻の朝のイチャイチャ風景を読むの、温度差が凄くて口から砂糖出る。巻を重ねるごとに嫁バカになっていくカレルと、徐々に人前で憚らなくなってきた旦那に振り回されるセシリアがかわいすぎるんですが!!あと、ヴェッセルから漂う隠しきれない残念感が好きです。猛暑の中お外に出たくないヴェッセルさん……。
侵攻してきた灰エルフを撃退する流れ、セシリアの「夢」を元手に何度もデッドエンドを繰り返して生き残る道を模索していく流れは前2冊と比べるとめちゃくちゃざっくり割愛だったのが残念だった反面、その試行錯誤描写が削られた分恐ろしくスムーズにカレルの手のひらの上で事が運んだように見える。なるほど実際の泥臭い努力とは裏腹にこんなにもスムーズに策を立てているように見えるのかと。一応味方になったけどまだまだ痼の残るフライスランド総督の、カレルの手並みを見ての反応にめちゃくちゃ笑ってしまった。これは確かに「夢で予習してる」って知らなかったらこういう反応になるよなあ!
それにしても、次巻は子供大好き(ロリコンではない)コルネリウス隊長と幼女と政略結婚の縁組とかいうもう明らかに(コルネリウスが)荒れそうな流れだし、あとミーリエルの方も……これ流れ的に「エルフは多重婚イケる」って話まであったし側室フラグなのでは!?とおもってるんですけどどうなんですかね……楽しみすぎるんですけど、ほんとなんとか頑張って4巻が出て欲しい……あとがきの話は他の所で散々愚痴ったので割愛しますが、これで3巻打ち切り喰らったらほんと、ギルセリオンの真意もわからなくなってしまうしおおよそ最悪にキリ悪い所で終わるなあと思うのでよろしくおねがいします……。
ファイフステル・サーガ2 再臨の魔王と公国の動乱
フライスランドとの冷戦状態が続く中、自分がセシリアとの結婚式の最中に毒殺される未来を見てしまったカレル。僅かな手勢を連れて調査を始めるが、見えてきたのは領内の「身内」の裏切りで……『自分が死ぬ未来の夢を自分と伴侶に見せる』という能力を駆使して、未来の魔王との戦いに備えていくシリーズ第二巻。
前回は中ボス的な立ち位置だったコルネリウス隊長の味方としての序盤の無双っぷりが大変良かった。前巻に散々(夢の中で)殺されまくった相手というだけにその実力は折り紙付きで、それが味方というだけでも頼もしくて仕方がないのですが、小柄で寡黙なヒットマンで戦いとなればぶっちぎりの強さを発揮するけど○○好き……とか、色々設定盛りすぎじゃないですかねーー!?ヴィルの件で、後ろから威圧を掛ける姿に思わずニヤニヤしてしまった。
一方、戦士としてはそこまでの強さではないカレルの「将」としての器が試される後半。前巻と違ってセシリアの「夢」による助けもなくてあっちもそっちも敵だらけの中、倍の量の敵軍を蹴散らしていく展開が爽快でした。勝つだけなら練度もあってそこまで難しい話ではないけど、いかに「味方」に損害を与えずに勝つかという視点は一軍を率いる将としての視点だなあと。なにしろ、未来の魔王との戦いを考えたら今目の前にいる敵だって「味方」になる訳ですもんね。
などといろんな建前もあるんだけど、結局は「セシリアを悲しませたくないから」犠牲を少なくする方向で策を練るカレル、実に思春期の青年という感じで良いですよねえ。すっかりセシリアの膝枕に味を占めてしまった彼の童貞臭い発言がイチイチ可愛い。一人寝の夜を寂しがるセシリアの姿にも思わずニヤニヤしてしまって、とても世界の未来を賭けた政略結婚からはじまった関係とは思えないラブラブっぷりが最高でした。そして結婚式の後の初夜のやりとりがもう可愛すぎて……初夜の詳細早くお願いします!!!!
そして今回なんといっても欠かせないのは1巻から中心人物として描かれてきたカレルと、もうひとりの主人公ともいうべき摂政ヴェッセルの邂逅。もういろいろな意味でニヤニヤが止まらない展開だったのですが、ヴェッセルの方も留守を開けている間に話が大きくなって色々大変なことになっているような!?これはいろいろな意味で3巻が楽しみ。
ファイフステル・サーガ 再臨の魔王と聖女の傭兵団
「わたしも、あなたを夫として受け入れるわ」これより二年の後、古の魔王再臨し、人類は滅ぶ。絶望の未来を塗り替えるため、“アレンヘムの聖女”セシリアと婚約し、最強の傭兵団“狂嗤の団”の団長となる道を選んだカレル。“アレンヘムの聖女”が持つ『自分の死を夢見る』という悪夢に希望の力を見いだしたカレルは、死の運命を回避する力を持った英雄として五芒国平定のため動き出す。一方その頃、幼くして女王の座を引き継いだ妹のため、暗愚を演じ続けていた王子ヴェッセルも権謀術数に長けた英雄として歴史の表舞台に姿を現す。玉座の頂を目指す英雄たちの叙事詩が今、幕を開ける! (「BOOK」データベースより)
アレンヘム公国の聖女・セシリアは2年後に魔王が復活し、自分が殺されるという予知夢を見てしまう。本来ならば人類が一致団結して臨まなければいけない事態だが、アインヘルム公国は隣国フライスランドと緊張状態にある。絶望的な事態を打開し、全ての国を一つにまとめるために提案されたのは、セシリアと最強の傭兵団“狂嗤の団”の団長の息子・カレルを婚約させることで……。
セシリアが見せる『自分が死ぬ時の夢』を鍵に、事態を打開していく展開が面白い。彼女の見せる未来は普遍的な未来ではなく行動の結果回避することが出来るので、夢を見ることでその死因を考察し対策を立てていく……という展開が楽しかった。
そしてカレルとセシリアの政略結婚でありながらも初々しいカップル具合がめちゃくちゃ好き。少しずつ段階を踏むように二人の心の距離が近づいていくのにきゅんきゅんするんだけど、その一方で初めてが同衾だったり、膝枕だったりとどこかアンバランスな距離感にときめいてしまう。政略結婚だったがゆえになかなか恋仲という感じになれないのが、もどかしくて可愛かった。
ふたりの他にも登場するキャラクターがいちいち魅力的で、彼らが動いているだけでも惹き込まれてしまう。特にカラー口絵からして裏主人公感をビンビンに出してる王子・ヴェッセルの食わせ者感は相当で、もっとがっつり絡んできて…!!と思わざるをえません。あと個人的には屈強な傭兵団の中で異彩を放つ歴代最強の切り込み隊長・コルネリウスとか是非掘り下げていただきたいです。男子の話ばかりしてますが女の子も可愛いのでホント新しいキャラが出るたびにニヤニヤしてしまいました。
物語自体は長い冒険譚のさわりという感じで、彼らが絶望的な未来と大きな敵にどうやって立ち向かっていくのか、とても楽しみです。