蹴鞠と剣術を愛し、しかし大名として時代の波に乗れなかった男・駿河彦五郎(今川氏真)とその妻・蔵春(早川姫)が『信長に蹴鞠を披露する』という名目で天下人の刀と名高い今川の宝剣・義元左文字を届けるため京都に向かう。そのふたりの道中には、様々な刺客が立ちふさがり──!? というお話。
『ゴブリンスレイヤー』の作者さんの投稿作の書籍化。以前ゴブリンスレイヤーの大本になったスレッドまとめを読んだ際にこの作品の存在を知り、密かにものすごい気になっていたのですがついに書籍になりました。
章毎に様々な刺客と繰り広げられる剣戟戦が子供の頃の21時台とかにやっていた時代劇のようで、どこか懐かしい。のほほんとしているけれど剣客としての腕は確かな彦五郎が放たれた刺客達と戦いを繰り広げていくのが大変に楽しいんですけど、それとなくもう一つの趣味である「蹴鞠」が生かして戦っていくのにニヤリとしてしまう。
一方、そんな彦五郎に付き従う妻・蔵春も只者ではない。精神的な面でもバトル的な面でもしっかり旦那の背中を守る姿が頼もしいし、どこかおしゃまな印象を受ける発言の数々がめちゃくちゃ可愛い。というかほんと当時のスレッドまとめで作者さんがこの作品について
今川氏真が嫁さんの蔵春院とイチャイチャしつつ浜松から京都まで、信長と蹴鞠しにいくついでに、家康から頼まれて密命を何とかするべく、「甲賀金烏衆」の忍者をバッタバッタと斬り伏せるお話
って説明されてる(ソースはこちら)んだけど本当にそのままそうなんですよね……嫁さんとイチャイチャしながらちゃんばらしながら京都に行く話なんですよ。めちゃくちゃ夫婦がイチャイチャしてるんですよ……。
ただ、決して「無用者」二人のお気楽珍道中〜というだけではなく。のほほんとしている氏真には確かに過去に取り返しのつかない過ちをおかした男の昏い影みたいなのを感じるし、そんなどこか危なっかしい夫を愛し、現世につなぎとめ、最後まで付き従おうとする蔵春のまっすぐな想いがどこか強くて切ない。ただイチャイチャしているだけではない二人のどこか影がありそれでいて強く結ばれた関係性が、とても好きでした。
一方、立ちふさがる敵も彦五郎と同じ『剣』の道に拘泥する者だったり女児の苦しむ顔がみたいだけの好き者であったり、はたまた過去の今川に因縁があったり……と様々で、一時間ドラマの繰り返しのような構成でありながらも、飽きさせない。一気に読まされてしまうような物語でした。というかラスボスの正体これはズルいわ……。
1冊で綺麗に終わってる物語ではあるのですけど本来新人賞投稿作だったわけで、2巻も続けるの可能ですよね!?ぜひとも手を変え品を変え敵を変えで続けていってほしい。
ところで小説も大変に楽しかったのですけど同日発売のコミカライズが物凄く良かったよ!!!!!という話を一緒にしたいんですけど!!彦五郎が昏い眼をするのがたまらん好きだし、あと徳川家康がまあまたものすごい昏い眼をするわけで、このうさんくささがたまらん。わざと刺客を食いつかせようとする徳川家康の狙いを見抜いた上でその密命を受ける彦五郎が小説の方でも最高に好きなんですけど、コミカライズではなんかキャラクターの表情の巧妙さも手伝って物凄く印象的だった。ほんとコミカライズの1話で恋に落ちたと言っても過言ではないです。
騙されたと思ってコミカライズ1話だけでも読んで。