知識チートで魔物を倒していくお話だけど、地力が上がらないと強い敵とは戦えないバランス、魔物の倒した数だけではなく動画再生回数が「力」になるというシステムが絶妙に捻られていて面白かった。微妙に世間(世界)知らずな魔王のキャラと、関西弁な女子高生の遠慮のない掛け合いも楽しい。
現代日本×ダンジョン探索×ゲーム実況
勇者との戦いに飽き、新たな刺激を求めて「異世界」にやってきた魔王。転移したのは魔力ではなく科学力が発達しており、「冒険者」となった者たちを安全な形でダンジョンに潜らせてランク付けし、エンターテインメントとして演出している現代日本だった。冒険者ランキング底辺の女子高生・掛田志保に目をつけた魔王は彼女の家に押しかけ、異世界で得たモンスター知識を元手に彼女を成り上がらせようとする。現代日本を舞台にしたダンジョン攻略モノという題材にゲーム実況動画文化をかけ合わせた展開が新鮮で面白い。ただ強いだけでも攻略が早いだけでもいけなくて、良い装備を揃えたり高ランク冒険者として成り上がるためには人が見てくれる面白い動画を配信しなければいけない。装備を揃えるには動画配信回数毎に取得できるポイントが必要で、ポイントを換金することも可能だがお金でポイントを買うことは出来ない──など、ダンジョン攻略と同様かそれ以上に動画配信がキモになってくるシステムがすごく絶妙なバランスで好印象でした。それ以外にも突然強いモンスターには挑めないようなシステムになってたり、魔王の助言を受けてモンスターを倒せるようになったあともアイテムを使い果たすと弱かったりして、草の根的な努力でちまちまとレベルを上げていかないといけないようになってるんですよね。
方言混じりの掛け合いが、テンポ良くて楽しい
“魔王”として様々な世界を渡り歩いてきたが、このような世界は初めて──と、ドヤ顔しつつも色々と世間知らず状態な魔王と、そんな魔王に容赦なくツッコミを入れつつも徐々に彼を信頼していく志保の掛け合いが楽しい。魔王が毎回オレオレ詐欺や迷惑メールに引っかかりそうになり、キレて該当組織を潰しに行くの笑ってしまう。明らかに友情以上の気持ちを志保に向けていて魔王への圧が強い志保の親友・美優、あっさり懐柔されてしまう保護者キャラと思わせておいて色々曲者感のある志保の母親、クールビューティを気取っているけど実は存外にうっかり者で気さくな女性トップランカー・曽根美咲など濃ゆいキャラも多くて魔王や志保がタジタジになる姿にニヤニヤしてしまった。
方言もテンポの良さに拍車を掛けていました。志保が緊張すると標準語になってしまうの、可愛い。
今後どうなるのか楽しみ
かくして魔王の異世界でのモンスター知識を駆使し、簡単に準備出来るアイテムを用いた「初心者でも出来る系攻略動画」で順調にポイントを稼いでいく志保。個人的には新人賞の1巻目だし1巻の時点でもうちょっと結果が見える終わり方にしてほしかった気がするんですけど(ランキングの推移とか章の最後に毎回入れてあってもいい気がしたけどシステム的にそんな頻繁には見られない仕組みになってるのか…)、割とダンジョン攻略以上に魔王と女子高生の異文化交流に主眼が据えられている雰囲気だったのでこれからなのかな。あと割と色んな方向性の動画実況があるみたいだったのでもう少し主人公周りの人間関係が広がると楽しそうだなあと思いました。ダンジョン飯動画がジャンルになってるらしいのめちゃくちゃ気になるじゃん。同じ冒険者仲間で顔が見えたのが曽根崎さんだけだったのが少しもったいない。いろいろな意味で今後どう転がっていくか読めない話だったので、次巻を楽しみにしたいと思います。
それにしても、徹夜でバズりそうな動画の傾向を分析してくれる魔王さん、しみじみと趣深いな……。