完璧な優等生である主人公・高城誠司は高校で自分と対等に付き合える存在・菅沼拓真と出会い、親友となる。ある日、拓真の妹・香奈が患っていた病気を苦にして自殺してしまうが彼女の自殺の裏には誠司の存在があり……拓真が彼女の死について誠司を問い詰めようとしたその時、ふたりは異世界に召喚されてしまい……。
かつて親友であった天才ふたりの、執着と対決の物語
拓真の妹の死を巡って撒き起こる親友ふたりの対立に異世界のとある国家の行く末が巻き込まれ……というお話。あらすじや評判を見て好みの予感しかしてなかったのですが、最初から最後まで親友ふたりの濃厚な執着・俗に言うクソデカ感情のお話で、楽しかった〜〜!!というかまず作者が自費で作ったというPVがめちゃくちゃ最高なのでとりあえず何も言わずに見てください。CV.石田彰×羽多野渉 ライトノベル『君はこの「悪【ボク】」をどう裁くのだろうか?』本PV
ありあまる才能を持つがゆえにほんとうの意味での「友人」を持たなかった二人がはじめて対等な立場で付き合える相手と出会って親友となる。しかしその裏で、誠司は魂の輝きが消える瞬間が見たいという殺人衝動を強く刺激され、それを感じ取った拓真も親友が間違いを犯したら殺してでも止めようという義憤を芽生えさせることになる。相反する感情、人間を殺してはいけないという倫理観に支えられてそれでも絶妙なバランスで成り立っていた彼らの関係──それは、妹の死と異世界転生という切っ掛けで致命的に形を変えてしまう。
合間合間で語られる転生前の「親友」としての気のおけない関係性、そして転移後に見せる互いへの執着が大変によかった。異世界で強い人間を殺しても良い名目と立場を手に入れた誠司が行方もわからない拓真と対決するときのために力を蓄えていくのに(こういう言い方もアレなのですが)ワクワクするし、一方で別の場所に転移した拓真の方も妹の死の真相を知るため、そして自分の正義を貫くために誠司への執着を募らせていく。導かれるように敵対する関係となり再会する二人の姿に、興奮してしまいました。
彼らを取り巻くキャラクターたちも魅力的
とにかく最初から最後まで一貫して男同士のどでかい感情の対決を描く物語で最高なのですが、その反面で彼らを取り巻く現代・異世界のキャラクターたちも魅力的でした。誠司と拓真の対立の起点となった妹・香奈、誠司の汚いやり口に嫌悪感を持ちながらも拒絶することはできず理想と現実に折り合いをつけられずに迷い続ける王女シンシア、誠司に手駒として見出されてその殺人衝動を知った上で彼に心酔する従者オデット。おおよそ主人公らしからぬ「悪」である誠司の心の動きを引き立てるような彼女達の存在・葛藤がとても良い。そして誠司と拓真の対立の起点となった妹・香奈。もういろいろな意味で彼女の行動には驚かされましたし、誠司のような「悪」を主人公とした物語の起点として、この上なくしっくりくるキャラクターだなと。彼女の出番自体は本当に少ししか無いのですけど、強烈な印象を残していくキャラクターだなと思いました。オデットにしろ香奈にしろ、こういうキャラクター達こそが誠司の弱みというか予想を越えてくる展開、良いなあ。
もういろいろな意味で衝撃的なラストだったけど最低4巻以上のボリュームを想定した戦記モノとのことで、ここからどう続いていくのかめちゃくちゃ気になる。色んな意味で異世界側に拓真以外で主人公の敵になれそうな相手がいないし、彼らの物語としてはこの上なくきれいに1巻でまとまっている感じがするんだけど。2巻でどういう方向に行くのか、とても楽しみです。