高校生にして「神絵師」──商業イラストレーター・アトリエとして一定の地位を得ている主人公の亜鳥千景。ある日突然、隣の席の美少女・海ヶ瀬果澪に自分の正体を見抜かれた上、Vtuberの「ガワ」をデザインして欲しいと依頼される。「アトリエ先生のファン」という彼女に悪い気はせず、依頼を請け負うことにするが……?
Vのウラ(制作サイド)を描く青春物語
隣の席の美少女からVtuberのキャラクターデザインの依頼を受けた主人公が、同級生で同業者でもあるイラストレーターの少女・桐紗(モデリング担当)と隣の部屋に住む自堕落な後輩の少女・仁愛(人気Vtuber)の2人を巻き込んで、4人でプロジェクトチームを立ち上げるというお話。ただVtuberのキャラクターデザインを担当するというだけでなく、キャラクターを動かすためにモデリングを依頼したり、Vtuberとしての売り出し方を考えたり、Vtuberをやっている友人達に宣伝を頼んだり……と、多角的な視点からひとりの「キャラクター」を完成させるために動いていくという展開がめちゃくちゃ面白かった!こういった立ち上げからの話を1から全部やれるのは個人勢Vtuberの面白いところだなあ。また、それを複数人のチームで行っていくのが一昔前の青春系部活モノみたいな味わいで楽しい。最初は打算的な目的一致で集まった急造のチームだったのが、Vtuberのプロジェクトを通して少しずつ距離を縮めていく展開にほっこりしました。
前半とは打って変わった後半のシリアス展開が熱い
人気イラストレーター2人と人気Vtuber、3人のバックアップを受けてデビューしたVtuber「雫凪ミオ」。前評判の高さとそれを裏切らない魅力的なキャラクターが功を奏して、果澪の当初の目標を大きく越えて人気を博し、一気にスター街道を邁進していく。ところが、ある日を堺に果澪は学校を休みがちになり、並行して「雫凪ミオ」のプライベートを洗うような不穏な噂が広がり始めて……。青春部活モノのような味わいの前半、華やかなVtuber界のスター街道を駆け上がる中盤を経て、果澪の内面と本心に迫る後半の変調が凄まじい。果澪がVtuber「雫凪ミオ」になろうとした本当の理由、そしてこれから何をするつもりなのかを知って愕然としましたし、これまでとは打って変わってシリアスで重苦しい展開に背筋が寒くなりました。しかも、そんな彼女の行動の背中を押したのは元はと言えば千景が黒歴史としてしまいこんでいた配信時代の軽率な発言だったものだから、なおさら事態が混迷を極めていって。
果澪の歩んできた道の重さを知って、しかもその背中を押したのが自分だと知って、自分が彼女の行動を否定してしまって良いのかと散々悩み……そんな中、仲間たちからの叱責を受けて、仲間として友人として「雫凪ミオ」ではない「海ヶ瀬果澪」を取り戻そうと必死に手を伸ばす主人公の姿がとても良かったです。
文字通りVtuberのガワ(制作サイド)の裏側(内面)を描くお話で、発信者としてのVtuberではなく「創作者」としての視点で描かれていく物語が印象的でした。また、華やかなVtuber活動の裏側で繰り広げられる少年少女たちの青春物語がとても楽しかったです。1巻目にして「1」とナンバリングされている珍しいパターンだけど割りと1巻が綺麗にまとまっているので、ここから1巻から引き続き「創作者」達の物語にも、「配信者」達の物語にも(創作・配信活動をテーマにした)「高校生男女」の恋愛モノにでもどんな方向にも舵を切れそう。次巻で方向性が定まるんだろうなと思うので、どっちの方向に進んでいくのか楽しみにしていようと思います。
あと、ストーリーも面白かったけど表紙絵の本編内での使われ方がめちゃくちゃよかったな。思わずニヤリとしてしまった。