吸血鬼なのに血が苦手&作家なのに壊滅的なデジタルオンチである蓮華は担当編集からの頼みでVRMMO『GoW』をプレイすることに。このゲームの中であればアナログで作成した原稿がデジタルデータとして自動変換されるらしい。編集と落ち合うまでの間、吸血鬼という性質から現実では満喫しきれない趣味の料理や日光を堪能しようとゲームをはじめるが、チュートリアルが発生しない・システム画面が開かないなどの様々な「不具合」が発生して……!?
一見噛み合わなそうな設定が完璧に状況に噛み合ってて気持ちいい
面白かった〜〜!!アナログ原稿派の吸血鬼作家がVRMMOをする設定(※VR世界で執筆したらデジタルデータになるので編集者に懇願された)も、なぜかゲームにログインされたらNPC扱いされてしまう理由(※吸血鬼なので心音が判定できなかった)も、デジタルオンチな主人公が動画配信をする理由(※デフォルトで配信ONになってる上にNPC扱いされてるお陰でシステムメニューそのものが出ない)もしっかりと周囲の設定に噛み合う理由付けがされていて読んでいてストレスがない。一見無茶と思える設定を「ファンタジー」だからではなくしっかりと納得行く形で説明してくれる話って、それだけで本当に読んでいて気持ちいいですね。リアルでの技能・経験がゲーム内の各種技能の「熟練度」へのとっかかりになる世界=それなら千年を生きる人外のものがやったら初手最強じゃん?という発想がまず強かった。鎌倉時代から生きているのでリアルの戦闘経験もガッツリある、睡眠もしないのでログイン時間も長いし魔術の鍛錬に必要な瞑想の時間もがっつり取れる……というチートぶりに笑ってしまう。
そしてその様子を本人のあずかり知らぬところで「配信」という形で見ているゲームユーザー達が時にザワつきながらも彼のプレイを邪魔しないように見守っている流れが楽しかった。ユーザー側の存在としてはおそらく突き抜けて強いであろうことを加味しても、メインクエストを予想外の形で動かしてしまったりもしたわけだしクレーム入れに行く人が居てもおかしくないとおもうのですが、そういう人がいないの優しい世界だ。
ゲームをやっている主人公の様子が楽しそうなの良かった
吸血鬼でありながら血液を摂取するのが苦手で、そのせいで他の吸血鬼よりもずば抜けて日光に弱く、しかも本来なら不要のはずの料理を趣味とする……という吸血鬼の中では変わり者な主人公・蓮華。不老不死の存在であるかわりに日常生活で制約の多い彼がVRMMOの世界に来て、リアルでは浴びることが出来ない日光を楽しみ、人間のように料理を楽しみ、寿命の違いで諦めかけていた他の知的生命体とのコミュニケーションをも楽しむ……という姿が印象的でした。どんな状況にあってもとにかく楽しそうなのが良かった。どうみても人間としておかしいムーブをしていることも多かったり、普通のユーザーは取っ掛かりを得ることも難しい魔術を早々に習得したことも含めてかなり異彩を放っている反面、遭遇したアンデッドに慌てふためいたりその後武器を破損した代わりにスケルトンの手を「お借りした」り……と、どこかシリアスになりきれない感じが凄く良かったです。いや良い意味で配信者向けの人格してるよな……。
「息子」でありながら実質保護者みたいな吸血鬼の洋士、蓮華と同じく人間の世界にひとり隠れて暮らすエルフの少女でゲーム内では弓の達人であるヴィオラ、そして終盤の大規模レイドで知り合った一般ユーザー達……と、少しずつ広げられていく人間関係も魅力的で、今後どうなっていくのか気になる。
あと、ゲーム内にオフィスがあったりVRビジネス街がある……という設定がめちゃくちゃ面白そうだったんですが、今回は担当編集者とゲーム内で落ち合えないまま終わってしまったので次巻ではそのへんの設定の掘り下げが来るのも期待したいです。いやめちゃくちゃ面白そうだよねVRMMO世界の中にあるVRビジネス街……私もそういうところでリモートワークしてえ。