[著]木本 雅彦 [絵]ヤス
尊敬するハッカー仲間のおっちゃんが同人誌即売会でOSについての本を出すというのでオタクの波をかきわけ、ボーイズラブのブースまで買いにいった広野は、そこで“腐女子”で“声優の卵”の姫野沙奈歌と出会う。孤高なハッカーを自称する広野はひょんなことから彼女とつきあっているというエチュードを演じる羽目になり、しかし同時に沙奈歌に惹かれていって…!?
イマドキのオタクである腐女子少女と良くも悪くも古きよき時代のオタクであるハッカー少年がお互いの夢や好きな事をやりながらも互いに惹かれていく物語。尊敬するハッカー仲間のおっちゃんが同人誌即売会でOSについての本を出すというのでオタクの波をかきわけ、ボーイズラブのブースまで買いにいった広野は、そこで“腐女子”で“声優の卵”の姫野沙奈歌と出会う。孤高なハッカーを自称する広野はひょんなことから彼女とつきあっているというエチュードを演じる羽目になり、しかし同時に沙奈歌に惹かれていって…!?
なんとなく仲間が欲しくて声優の卵をやってる沙奈歌と、小さい頃からハックやプログラミングが好きで頑張ってる広野の、お互いのスタンスの違いが同じオタクとしてなかなか面白かったです。目的を共有する為に誰かとつるむこともあるけど、最終的には一人で戦う事を是とする広野のような“男のオタク”と、確かにオタクでは有るんだけど根底には仲間と自分の好きな物を共有したくてオタク活動をし、馴れ合い…というか仲間意識の強い“女のオタク”の在り方の違いが上手く表現されていて、オタク小説としても中々興味深く読めます。
性別だけで図れるものではないですが、結構この辺って性別的精神的な違いだと思います。確かに、自分の夢に向かって突き進んでいる女のオタクも多いとは思うけど、同時に仲間がほしくて真面目に漫画が描きたいわけでもないのに漫研に入ったり、某専門学校や声優養成学校に行っちゃう腐女子オタクは多いと思うんですよね…自分も似たような経緯で大学の漫研に入ったりしてましたが(笑)
とはいってもこのストーリーのキモはそんな自意識の違う二人が惹かれあっていく、ラブコメ要素。すれ違う場面ではどちらの気持ちもわからなくなくてハラハラしたり、素直になれない二人にヤキモキしたり…とストーリーに物凄い引き込まれます。同じオタクであっても考え方は180度違う二人が、お互いに良い影響を及ぼしあって惹かれていく過程が凄くツボです。
ただこの小説、広野側の行動や二人の心理描写は物凄く上手いのですが、沙奈歌の「腐女子」という設定を全く生かせてない。ぶっちゃけ一人の腐女子として沙奈歌の行動には熱くツッコミたい部分が多々あります。
特に出会いの場面。
広野に直接「受」か「攻」か聞いてどうする!!
腐女子っていうものは相手に了解取らずに
広野とオッサンとの関係を邪推するのが常道ってものなんだろう!!!
従って本当の腐女子なら最初のセリフは
「レイさんとはどういうご関係ですか」
だ!!
作者さんは“イマドキの女オタク”の行動原理については知っていても“腐女子”については近頃のひん曲がった報道で得た程度の知識しか無かっただろうことが微妙に伺えて、個人的にはそこだけは不満。正直沙奈歌はBL好きなんて設定ない方が良かったと思うんだけどなあ…沙奈歌の語る未知の世界に翻弄される広野の姿を想像していたので、非常に裏切られた気分です。つか「女オタク=BL好き」と勘違いされているならそれは大きな間違いですよ!
逆に広野の言動は物凄くそのテのオタクっぽい。
返事を「Y」「N」で返しちゃうあたりなんか、本当にそういうオタクが居そうだ。
評判が良ければ続編もでるみたいだし、こういう切り口のオタク系ラブコメは中々ないと思うので是非続編を読みたいです。出来ればその際はもうちょっと作者さんに腐女子の生態を勉強していただくか、BL好きという設定自体を無かったことにして戴きたいのですが。