ミラーが起こす革命の旗印・傀儡の王としてなんとか生き延びたシオンは、水面下で少しずつ仲間を増やしていく。化物だらけのローランドの中で生き残るため、そして大切な人々を守るために強い力を欲したシオンはローランドの代々の王に使える『剣の一族』エリス家の現当主・ルシルとの契約に臨むが……。
ルシルとシオン、「はじまり」の物語
物語の中でも屈指の謎の一つであるエリス家と、ルシルとシオン……彼らの共犯関係がはじまった時の話。本編でちょっとだけ出てきて見るからにヤバいオーラだしてたエリス家の最奥にあるもの、予想以上にヤバいやつ出てきてびっくりした。あと、ライナが牢屋から出てきた時、父王とシオンの兄達が完璧に排除されていたのってそういう。シオンも、そしておそらくはルシルも身近な大切な人を守りたいという気持ちが発端で、絶望して、力を求めて、それでああいう存在に成り果ててしまうのだと思うとなんというか本当にやるせないな。生まれも育ちも全く違う彼らの奇妙な共通項というか、同じ想いと目的を持つからこそ情ではない部分で硬く結びついている「運命共同体」感がめっちゃ良かった。というか、この時系列からするとシオンは本編1巻ラストや「とり伝」ローランド編でライナ達とバカやってた時もずっとこの痛みと戦っていたということなんですかね……しんどすぎる……。
それにしても大伝も堕ち伝も毎回切り方が鬼畜すぎない!?担当編集が変わったからなんだろうか、これリアルタイムに読んでてたら毎回この引きから数ヶ月待たされることに発狂してしまっていたと思うのでリアルタイムじゃなくて良かったです。もう少しキリの良いところで切ってくれてもいいんですよ!!
最近の短編、シモネタ多くない!?
雑誌連載分は幽霊が苦手すぎるフェリスが何故か犬の霊に取り憑かれてしまう「すぴりっと・おぶ・わんだー」と、ローランド編の終焉前夜、シオンがライナ達が知らないところでフィオルを殺した貴族に復讐を果たして反対派の貴族達を排除している「らいと・ろーど」の2編。「堕ち伝」収録のローランド編、この辺になると本格的に雑誌掲載時の時系列が伝勇伝(無印)完結後になってくるので結構な確率で重い話がまざってきて、温度差で風邪引きそう。ライナに見つからない形でシオンが動いていたのは本編を読めばわかるんだけど、彼らが仕事していたのとは別にライナに見せたくない裏の仕事を処理する部屋があるって設定、ちょっとしんどい。しかし、あとがきでも言われてたけどシオンとライナとフェリスがそれなりに仲良くローランドで一緒の時間を過ごしてるっていうだけで、もう裏でどんな重い展開があったとしても「この頃はまだ幸せだったんだなあ……」みたいな気持ちになってしまう。ギャグ短編は毎回めちゃくちゃにハイテンションでぶっちぎられるのでしんどみ感じてる場合じゃなくて、逆にこういう薄暗かったりどす黒かったりする話のほうが戻らない時間を感じてしまうの、罠過ぎますね。本当に、ローランド編は薄氷の上にギリギリのバランスで成り立っている平穏な時間だったんだなあ。
「堕ち伝」本編と短編の2つめが重めの内容な分、その間に挟まれたギャグ短編が輝きすぎてるんですが、幽霊がいないことは魔法技術で完全に立証されている!みたいな流れからの普通に幽霊出てくるの手のひらの返し方がすごい。ところで前巻の超強力な障壁魔術を開発してしまったせいでトイレに行けなくなるライナの話といい、今回の犬の霊に取り憑かれたフェリスが本能のままに人前で排泄しようとするのを阻止するため必死でローランドを駆け回るライナの話といい、なんで排泄ネタ連続でやっちゃったんですか!?鏡先生の中で排泄ブーム来ちゃってたの!?