雌伏の時を経て、シオンはミラーが主導する革命に便乗する形で行動を開始する。人外の存在に堕ちた兄王子を倒し、「味方」を増やしながらも父王の元を目指すが、そこには多くの困難が待ち受けていて……。
終わりの始まり
冒頭の、エリス姉妹とお茶──もとい「だんご会」しているシオンがふたりに一部脚色したライナの「物語」を語って聞かせるエピソードが、大伝までたどり着いた今となっては帰らぬ過去を見ている感じがすごくあって胸が熱くなってしまいました。シオンはライナの物語の殆どを知っているはずなのに、わざと幸せな子供の話、心躍る冒険譚として彼の人生を描いていくの尊いししんどい。それにしてもフェリスが事ある毎にライナを変態呼ばわりすること、イリスの「野獣くん」呼びの原点はここだったんですね。いよいよ革命が始まって長く続いてきた「堕ち伝」も終わりがおぼろげながら見えてきたなという感じの、クライマックス前哨戦という感じのシリーズ6巻目。しかし全8巻のシリーズなので冊数的にはクライマックス突入と言ってもおかしくないくらいの状況のはずなのに、今のところ勝てそうな雰囲気全然ないのはどういうことなのか。なんとか兄王子を倒すのには成功したけど、そもそもルシルがまだ父王の方に憑いてて、ミラー達の革命もうまく行っているとはいい難くて、どっちの意味でも現状勝てそうな気配がないんだよなあ。気づいたらシオンが王になって大勝利してた無印1巻ラストまで、どこからどう繋がっていったのか気になる。あとこのシリーズでは初となるライナ視点のお話が印象的でした。ライナも別に牢屋の中で自分の直面している状況について「何もしてなかった」わけじゃないんだよな……。
もうこれが最終回で良かったんじゃないかなあ!(現実逃避)
雑誌連載分についてはもうとにかくラストの「あさしんず・ぷらいど」で仕事に向かおうとするシオンをライナとフェリスが襲撃して拉致して、温泉に連れ去ってでも休ませようとするといラストが良すぎて、もうこれが「伝勇伝」全体の最終回でよかったんじゃないかなぁ!!??みたいな気持ちになる。もう大伝のほうが絶対にこんなエンディングはありえないという状況になっている状態で、彼らが戻りたいと望んでやまない時間軸でこんな最終回みたいな話をやるの、一周回って鬼畜だと思うんですよ。でも、だからこそ、あえて「良い最終回だった」という感想を贈りたい。あと、フェリスの家が謎の道場破りに襲撃される「ドージョー・ぶれいかー」のオチも良かったなあ。ルシルとシオンが取り逃がして弱体化した忘却破片が最後の抵抗で力を取り戻そうとして、何も知らないライナとフェリスのペースに巻き込まれてしまうお話。いつもの調子で騒いでいるライナ・フェリスのところにシオンが戻ってくるラストが印象的で、たとえ偽りの平穏だとしてもこの時、彼の「帰る場所」はたしかにここにあったんだよなあと。本編序章も含めてほんとなんか……しんみりさせられる展開だったな……。
ところであとがきでここのところずっとアニメDVD特典小説が本編でやってない本編の重要エピソードだよみたいな告知をされて心を傷めてるんですが、この辺の書籍化のご予定はないんでしょうかね……。