薬漬けになった母が殺され、エーミレル私設兵団に引き取られた少年クラウ。本当の実力を隠して母を殺した者達に復讐することを目論むクラウだが、そこは人間の生命などお構いなしで人体実験を繰り返して人間を強化しようという非道な組織で……。
クラウの過去とルーク&カルネとの出会い
ライナ以外の視点からローランドの過去の話が描かれる「堕ち伝」、今回のお話は1巻から引き続きクラウの少年時代のお話。クラウとカルネのふたりがライナの所属していた『陰成師』とは別の狂った組織の出身だというのは本編でも言及がありましたが予想以上に狂ってたしそもそもクラウ自体が試験管ベビーみたいなものなのか。脳筋に見えるクラウが魔法の方にも精通していてなんだかんだ頭がキレるのもこの出自ならさもありなんだなあ。他にやることがないからと母の復讐をはじめたクラウが、自分とは別の方向で人生歪まされてかつ対等に付き合える存在であるルークと出会い、普通の人間なら何度死んでも足りないような目に遭いながら、仲間の屍を乗り越えながら、そこにいないルークと競うように刃を研ぎ澄ませていく。母親から言われるまま惰性で知識を吸収している雰囲気だった彼が復讐をきっかけに母親との生活では得られなかった感情を得ていって、組織の後輩・カルネを含めて母の敵であるエーミレルの取り合いしてるのが(やってることは殺しなんだけど)仲良し腐れ縁三人の喧嘩を見ているようで面白い。それぞれ三人とも「腐れ縁」といえるほど長い時を共に過ごしたわけじゃないんだけど、そうなるだけの濃密な時間を過ごした雰囲気になってるのが印象的でした。本当に一瞬の出会いなんだけど、ルークとは幼馴染のようなものなんだろうなあ。
だから短編の温度差さぁ!!!
雑誌連載分の短編はシオンを狙う刺客の手によってフェリスとノアが呪いを受け、解呪するためにライナとクラウがローランドを奔走する「かーすど・ないと」とどうしても誰にも邪魔されずに昼寝をしたいライナが完璧な魔力障壁を作り出す魔法を開発する「ぱーふぇくと・わーく」の2編。普段は素直になれないライナとクラウがお互いの相方を救うために必死になってる姿にニヤニヤが止まらないんだけど、伝勇伝を最後まで読んでシオン側の事情をある程度しった状態で読むとどうしてもシオンとの会話の齟齬・すれ違いが気になってしまう。シオンがフェリスやノアを救うことではなくてあくまで「国益」の話をしてることにゾっとするし、その会話の齟齬にライナが気づいてないの、ライナも余裕がなかったので仕方ないんだけどそういうところだよライナぁーー!!ってなってしまう。そもそも、この事件そのものがシオンの中の『狂った勇者』が引き起こしたみたいな匂わせで(実際のところはわからないけど多分そういうことだよね…?)これまでの短編の中でも後味の悪さは随一。
……からの、ライナが完璧な魔法障壁を作り出す魔法を作ったのはいいけど自分も外に出られなくなってトイレや食事が出来なくて涙目になってる話持ってくるのマジで温度差が酷い!!!!昨今のラノベの長文タイトルみたいなクソ長くて感情まるだしな呪文の名前からはじまって、オチまで含めてコテッコテのギャグ短編で、最初から最後まで笑いっぱなしだったけど本当に温度差で風邪引くからぁ!!!!!