人と喋るのが苦手だが、迷宮探索中の映像記録公開が義務付けられているせいでほぼ無言で配信を行っている女の子。少数の常連リスナーのコメントを尻目に淡々と迷宮配信を行っていた彼女だが、探索中にとある人気配信者を救助したことをきっかけに水面下で注目が集まることに。そんな中、「とある組織」から目をつけられて……!?
リスナーのコメントなしでは成立しない、独特の空気感が心地よかった
喋るのが苦手で考えていることの1割も言葉にできない主人公の地の文(内心ではそこそこ喋る)と、それを当然と受け止めてたまにやってくる新規リスナーやバズった後に大量に発生した一見さんに勝手知ったるで解説したり説明したりする常連リスナー達のコメントの二人三脚で進んでいく物語がとにかく面白かった。配信ものとは思えないほど主人公自身の「喋り」がないんだけど、リスナー視点が加わることで初めて成立する物語になってる辺りはどうしようもなく「配信モノ」なんですよね。配信者側もリスナー側も互いにリアクションを求めてない、気のおけない空気感が心地よかったです。そして配信の二人三脚ぶりと同じように、ダンジョン探索も戦闘も救助も一人で出来ちゃうような全方面に強い力を持つ主人公が一人で黙々と探索するお話でありながら周囲の助け無しには成立しない物語になっているのも興味深い。挫けそうになった時にリスナーたちが励ましてくれて、後半からは主人公をサポートするオペレーターやマネージャーの助け、そして自分が救い出した配信者の助力……強い主人公が「ひとり」で戦う話でありながら、「決して彼女を一人にしない」という周囲の存在がすごく心強かった。ともすればひとりで突っ走って無茶してしまいそうな主人公を良しとせず、オペレーター側は「彼女を英雄にしないために最大限サポートする」、主人公側は「(周囲に心配をかけないように)当たり前のように人を助けられるように強くなる」と決意表明していく展開がアツい。いや主人公のほうそうじゃない。
この娘、本当に配信に向いていない……!!
タイトルやあらすじからして確かに「配信に致命的に向いてない」「黙々と人助けする配信」って書いてあるんだけど、コミュニケーションが苦手すぎて主人公の名前がわからないまま物語が途中まで進むの強すぎて笑ってしまった。こういう配信者だから敢えて名乗ってないのかも……と思っていたら実は主人公の方も途中から名乗るタイミングが計れなくて四苦八苦してる。これ本当に配信者に向いてないやつだーー!?トドメに終盤、所属することになった日療での「お仕事」で状況を確認するために担当オペレーターと電話繋ぎっぱなしにして探索続ける……ってなったところで明らかに主人公の挙動がおかしくなるの、通話苦手民あるあるすぎて笑えないけど笑ってしまう。電話の向こうにいる相手のない視線を感じて緊張して作業が進まないやつだ……コミュ障感がリアルだ……。
戦わせれば最強でもコミュニケーションは最底辺!!というギャップが大変可愛く、どこかほんわか暖かく見守れる配信(※ただしグロに対する配慮はありません)感、ひとりでありながら他人の存在を濃厚に感じる空気感がとにかく心地よかったです。1巻で綺麗にまとまっている物語ではあるけど、またこのお話の続きがどこかで読めるといいな。
ところで「日療の白石さん」って言われると「生協の白石さん」を思い出すよね(インターネット老人会)