事故で死んだ那央が転生したのは、生前嫌々ながらにプレイした乙女ゲームの悪役令嬢・クラティラス。どうあがいても死ぬ運命だと気づいた彼女は破滅フラグを回避するべき奔走──なんてことはせず、「どうせ死ぬなら来世に期待して今生は好きなことやって死のう」と、前世から受け継いだ画力を駆使してイケメンを描きまくり、周囲の令嬢達にBLを布教しはじめたのだった……。
悪役令嬢に転生した腐女子の暴走劇
主人公のクラティラスがかなり痛い腐女子で、序盤の展開がかなりしんどい。転生先の乙女ゲームをディスりまくる姿には「自称毒舌」女子を見ているときの気持ちになるし、去るものは追わずスタイルとはいえなりふり構わず一方的にBLを布教していく姿には若干のもんやり感を覚えてしまう。何より転生前の彼女本来の乱暴な言葉遣いが貴族社会の中では壮絶に浮いてて、事実以上に「痛い」キャラに見えてしまうんだよね。このくらい口が悪いオタク女子って普通にいると思うんだけど、文字媒体だけだと細かいニュアンス伝わらなくてすごく横暴なキャラに見えてしまっているのがちょっと勿体ない。
でもこのクラティラス、BL文化が現れるのを待つのではなく、自ら語り、そして描くことで周囲をBLに覚醒めさせようとするという前向きな行動力はめちゃくちゃ好感度高かった。他の覚醒めた令嬢達の萌えを(BLである限りは)絶対に否定しないし、コンテンツに対するスタンスも「一度触れたコンテンツは絶対に最後まで追う」とかですごく真摯に向き合ってくれるんですよね。
百合オタ王子が出てきてからが本番。
そして第三王子イリオスの「正体」が明らかになり、彼と半ば無理やり婚約させられるところからめちゃくちゃ面白くなる。お互い趣味が合わないの知っているからこそ変に押し付け合わないし、お互いへの遠慮もない。序盤はしんどかった乱暴な言葉遣いも「お互いへの遠慮のないやりとり」へと変化してしまうので不思議です。喧嘩するほど仲が良い腐れ縁というか、ふたりの気のおけない対等な関係性にときめいてしまった。最初は強引だった「BL仲間」の令嬢達との関係が徐々に本物の友情へと変化していくのも印象的。それぞれが別個の性癖を持っていて、互いの性癖には干渉しあわない、お互いを尊重しあえる距離感が楽しい。クラティラスは前述のように、どんな性癖でもBLならば暖かく見守る(むしろ伸ばして育てる)方向性なのが結構バランス良いんだよな。庶民出でクラティラスから詩の才能を見いだされていずれは乙女ゲームのヒロインとなるリゲル、イリオスから託されてまさかの同キャラカップリングに開眼してしまった護衛のステファニとも徐々に身分や立ち位置を気にしない・気のおけない付き合いになっていくのにニコニコしました。
果たして二人は、「破滅の未来」を阻止できるのか。
乙女ゲームの正ヒロインであるリゲルと無二の親友となり、これで破滅エンドは回避したのでは…?と思うのだけど、この世界には乙女ゲームで起きた出来事に物事を収束させるような、謎の強制力があるらしい。しかも、自らの死がこの国の未来にもたらす悲劇をうっすらと知ってしまって、割り切っていたはずの破滅の未来に、再び感情が揺れていく。未来に待ち受けるであろう死亡エンドの事はどこか他人事のように受け流しているクラティラスが自分のことを溺愛していた兄・ヴァリティタの態度の変化を見て、いつかは自ら気づいた友人達との関係をも断ち切られてしまうのではないか、と不安にかられる姿が印象的でした。自分が死ぬのは(一度死んだ身だし)構わないけれど、今ここに生きている友人たちが辛い思いをするのは避けたい。でも、そんなクラティラスの不安を払拭するような友人たちの行動がすごく暖かくて。これなら絶対に大丈夫──と思うものの相手は世界の強制力的ななにかなわけで。思いを同じくするイリオスとともに、破滅的な未来を阻止することができるのか。本当に今後どうなってしまうのか。続きが楽しみです。
それはそれとして世界観が緩いなんちゃってファンタジー乙女ゲー原作の続編がファンタジー○○物ライトノベルってどういうことなんです??脚本日日日先生かなにかか?(酷い風評被害)