魔王城、空き部屋あります! | 今日もだらだら、読書日記。

魔王城、空き部屋あります!

 

魔王城を、魔王自らマンション経営!? 豊洲で始まる不動産コメディ!
 魔王と勇者の最終決戦中、奥義の激突で生じた時空の歪みが二人もろとも魔王城をのみ込み――飛ばされたのは遥か彼方、現代東京・豊洲のど真ん中!  元の世界に戻ろうとする魔王と勇者。しかし空気中に魔力が無い豊洲では、隣町に引っ越しすらできない。謎の建築物の出現に怒る、地主の孫・結亜に即時撤去を迫られた魔王は、魔王城を9階建てマンションとして経営することを提案し、一ヶ月で満室にすると豪語するが……。 『当マンションにお住いの人間共よ! どうして家賃が未納なのだ!!』  怪しげな物件に集まった住民は、魔王も頭を抱える曲者揃い! 住民の豊かな暮らしのため(?)魔王が奮闘する不動産コメディ、豊洲にて開幕!

勇者との最終決戦中、強すぎる魔力のぶつかり合いが原因で異世界──東京の豊洲に飛ばされてしまった魔王と勇者、そして魔王城。動かすことも出来ない魔王城をどうするか、おばあちゃんの土地に突然変な城を建てられて怒り心頭の地権者の孫娘と話し合った結果、城をマンションとして開放してその収入を賃貸料として計上しろという話に。一ヶ月で魔王城を人間でいっぱいにしてみせると自信満々の魔王だったが……!?

個性豊かな住人達に振り回される魔王の現代/異世界コメディ

面白かった!魔力のない現代日本に転移してきて弱体化はしているけどある程度の生活チートする程度の魔力は利用できて、祖母を心配する地権者の孫娘・結亜の助力によってなんだかんだいいかんじの居住条件にまとめられたけど、いざマンションを売り出してみたら見た目のアレさやらなにやらで変人しか集まらず……生贄として利用するつもりだった住人達に逆に振り回され、彼らのお悩み解決に奔走している間に少しずつ絆されていってしまう魔王の姿にニヤリとしました。生贄云々とか考えてること確かにそれなりに邪悪なんですが、それ以上に集まってきた住人や人の話を聞かない脳筋勇者が面倒くさすぎて魔王がふつうに気の毒に思えてきてしまうし、契約の際に軽い気持ちで「マンションの住人たち全員を幸せにする」と言ってしまったばかりに彼らの幸せのために奔走する羽目になってしまった様子が自業自得なんだけど微笑ましい。

マトモそうな住人ほどちょっと様子がおかしくて、まわりまわって一番性格に問題ありそうな炎上系Youtuberが常識人の実は良い人枠なのも良かったな……ラッパーと芸術家のケンカップルぶりも良かった。色んな意味で一番のクセモノは動物を愛しすぎてる八子内夫婦だとおもうんですけど、この旦那さんのほうが高給取りなの妙なリアルさがあるよね……。

一癖も二癖もあるせいで居場所を持てなかった彼らがマンションの管理人である魔王を間に据えて同じような変人と遠すぎず近すぎずの距離でお付き合いしていって、少しずつ魔王城を自分の居場所だと認識していく展開がすごくよかったです。

魔王と勇者の「見つめ直し」の物語

そんな個性豊かな「異世界人」達との共同生活を経て、自分の存り方を見つめ直していく勇者と魔王の姿がまたとてもよかった。なんだかんだで情に厚い魔王が異世界での生活を通して自らの「起源」である破壊欲求の中に自覚なき守護者欲求を見出していくのも、他人の話を聞かない脳筋系アホの子の勇者が内心では自分の異世界での存在意義に悩み、魔王に「人類の敵」であることを求めてしまい葛藤するという展開も良い。そんな勇者が葛藤しながらもめちゃくちゃ無意識に人類救いまくっててローカルヒーロー化しちゃってるのは本当に笑うしか無かったんですが。

異世界に飛ばされたことで自らの本当にやりたいことを見つめ直していく「魔王」と「勇者」の物語がとてもアツかったですし、コミカルなテンポで進む物語の裏で展開されていく複雑な心の動きが印象的でした。それにしても自分の本当にやりたいことを見出した二人が最後の最後でお互いの名前を叫びながら共闘するのおおむね結婚だったな…………(突然語彙を殺すな)

異世界の勇者/魔王とちょっと変わった住人たちの心の交流・見つめ直しの物語としてはこの一冊で綺麗にまとまっていたけれど、魔王が娘のように大切にしている謎の少女ネフィリーの存在、なにより頭を欠いたまま放置されちゃった元の世界は大丈夫なのかとか……異世界ファンタジーとしては色々謎が残されたままなんですよね。その辺は次巻を楽しみに待ちたいと思います。

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