魔王の右腕になったので原作改悪します | 今日もだらだら、読書日記。

魔王の右腕になったので原作改悪します

木村
 

異世界転移して、大好きな魔王様をデッドエンドから救い(幸せにし)ます!
社畜OLの刈谷透が見つけた唯一のオアシス――漫画『ラピスラズリ・ワールド』の最推し《魔王》が死んだ。 絶望の中、ビルから落ちていく透。 しかし次に目を覚ますと、そこは魔王城の前だった!? 異世界転移した透はまさかの魔王に保護され、“トール”として仕えることに。 それならやることはひとつ!  「私が絶対魔王さんを幸せにしてみせます!」

主人公が「推しキャラ」である魔王さんにキュンキュンしてる時と、魔王さんを守るために奮闘している時のギャップがとても好み。主人公が元居た世界にも、魔王という存在にも明かされてない秘密がいろいろとありそうで先が気になる。それにしてもさすがに推し作品に「課金」できないとはいえ週刊誌を毎号1000冊購入(アンケ付き)は盛りすぎでは……リアルに時間足らないのでは……。

新鮮なオタクの叫びは健康に良い

ビルの上から突き落とされた社畜OL・刈谷透は、気が付くと重課金で推していた打ち切りマンガ「ラピスラズリ・ワールド」の世界に「落ちて」いた。最推しキャラであった魔王(最終回で勇者に殺され爆死する)に拾われ半ば強引に主従の契りを結んだ彼女は、前世での知識を駆使して原作漫画の展開を“改悪”し、魔王を幸せにしてみせると誓う。

意味ありげなSF&サスペンス風の導入から、いきなり落下中に「もうあと落ちて死ぬだけだから好きなことだけ考えるわ」ってアツい打ち切りマンガの布教が挿入されて噴いた。心を殺される社畜の日々の中で運命的な出会いをして沼に落ちるエピソードは一周回って感動的ですらあるし、打ち切りまでの重課金エピソードは色々ツッコミどころはありつつもオタクの馴れ初め系長文noteみたいな微笑ましさがあり、異世界に落ちて推しキャラであった魔王さんとリアルで出会い、彼と主従関係を結んでからも定期的に挟まれる魔王さんへの一連の推しコメントがツイッターに居る声がデカいオタク(※主語がデカい方ではなく、叫びがデカい方)そのものでニコニコしちゃう。毎号1000冊購入とか若干オタクのリアリティ的に気になるところはありましたが、魔王がちょっと萌えることするたびに逐一挟まれる「天使かな?」「魔王だが?」の掛け合いがテンポ良くて楽しかった。いやあ他人のオタクの叫びは健康に良いものですね!!

孤立していたふたりが心を寄せ合っていく

本来入ってこれないはずの居城に突然現れ、初対面からなぜか好感度MAXで、魔法で心を読んでも頭の悪い推し発言しかでてこない幼女(生前は24歳だったがこちらの世界に来て見た目が若返った)を不審に思いながらも、彼女の一途な「自分を幸せにしたい」という気持ちに心を溶かされていく魔王。一方、社畜OL時代に高い能力を持ちながらも周囲に認めてもらえず孤立していた透も、自分の行動が魔王に認められるたびに心に温かいものを宿し、二次元のキャラクターとしてではない魔王という人物自身に惹かれていく。不遇な扱いを受け「ひとり」で生きてきたふたりが少しずつ心を寄せ合っていく姿に胸が暖かくなりました。

魔王さんが普通に考えられているような悪い存在ではないことはしょっぱなの主人公の作品語りの時点で十分すぎるほどに語られるのですが、魔王と相対する勇者一行も普通に良い人達で、透が「箱推し」っていう気持ちもわかる。頭が悪く考えなしだがどこまでも真っ直ぐで人を惹き付ける魅力を持つ勇者、そんな勇者の頭の悪さに辟易しながらも彼に救われ、付き従う覚悟を決めているキースの主従関係も魅力的。というか私この作品リアルであったら勇者主従に萌えながら勇者と魔王早くもっと濃厚に絡め〜〜って叫びながら数少ない魔王の登場回を反芻し恋愛感情のない巨大感情をぶつけ合う薄い本探してたかもしれないのであぶなかった。いやほんとリアルに存在しなくてよかったな(見つからなくて飢える未来を幻視した)(文字にしたら予想以上にリアルにありそうな展開で怖かった)。

そんな勇者が自分の浅はかさ故に大きな「失敗」をしてしまうエピソードに介入し、魔王と勇者の関係性を変えることで原作の魔王爆死エンドを阻止しようとする透。魔王の助力が期待できない状況にありながら、魔力もなんの力も持たぬ彼女が冷静な判断力で難局を打ち破っていく姿が印象的。普段魔王の前で見せるテンションの高い魔王さん大好きオタクな彼女の姿とは対象的な、高い知性と発想力を併せ持つ“研究者”としての一面のギャップがものすごく好きです。彼女の素性は、魔王の素性以上に謎が多くて今後どういう形で明かされていくのか楽しみです。

コミック版との世界観の違いが気になる

城自体が意思を持つというちょっぴり不思議な魔王城と、魔法で彩られた「ラピワル」の世界観がとても楽しいお話なのですが、一方で透が元いた“現実”の世界にも色々と私達の住む世界よりもちょっとSF寄りの設定があるような気配で、そのへんがとても気になる。「私が死んだら対消滅戦が始まってしまう」とは一体……。そもそも両方の世界がどこか繋がってるような気配を感じるし、彼女を突き落とした上司が意図して彼女を送り込んだみたいな気配も感じるし、彼女がビルから落ちる際に聞いた“落ちてこい”というセリフも意味ありげ。

そんなこの作品、元々は裏サンデー×ピクシブ主催の「異世界転生・転移マンガ原作コンテスト」の大賞受賞作品だそうで、原作はpixiv小説、メディア展開的にはコミック版が主体。コミカライズは現在2巻まで発売されていてこちらの小説版よりもずっと先のほうまで進んでいるのですがそちら読むと透のSF的な設定がばさっとカットされているんですよね。死因も第三者による突き落としではなく事故で落下したことになってますし。というかpixiv小説版も触りだけ読んだけど突然ビルから落下してたので小説版の追加設定?なのかな?

基本的な展開は同じようなのですが、透の設定の違いが今後の展開にどう影響を与えていくのか、次巻でどのくらい変わるのかかなり気になります。だって小説版だと透のその辺の設定が割とキモだと思うので、完全に同じルートに行かない気がするんですけどどうなんでしょう…。

コミカライズ、小さくなったトールの冷静沈着な顔が大変に好みでした。2巻でいろいろと世界観バレや衝撃的な展開があったのでそのへん小説版の続きでも踏襲するのか気になります。

木村(著), じろあるば(著) 「魔王の右腕になったので原作改悪します(1) (裏サンデー女子部)」
木村(著), じろあるば(著) (著)
小学館
発行:2019-11-19T00:00:00.000Z
記事への反応
なにかあれば
  • わかる(1)
  • 面白かった(2)
  • 興味が湧いた(2)
  • 持ってる(0)
  • 買いました!(0)
  • ぱちぱちー(1)