物語開始当初からカンスト状態だったユミエラのパワーアップ回。並行世界のユミエラとの罵り合い殴り合いを交えつつもお互いを嫌いになれない関係がとても良かったし、「最強」のふたり(+1人)が繰り広げる初めての──ギリギリの戦いがアツかった。それにしてもエレノーラはいつからこんな大天使に?
別の魂でありながら確かに「同一人物」なふたり
乙女ゲームの世界通りであれば「裏ボス」として覚醒し、アリシア達「勇者一行」に倒されるはずだったユミエラ。彼女の屍が無数に横たわる並行世界の中にあってただひとつ、奇跡的にユミエラがアリシア達を倒し、ユミエラによって滅ぼされた世界があった。その並行世界のユミエラがレベル上限を突破するために唯一生き残った並行世界のユミエラ(=この物語の主人公のことである)を倒しにやってくるという。一方、並行世界の自分を倒せばレベルキャップが開放されると聞かされたこの物語の主人公である方のユミエラも、地味にテンション上げていくのだった。前の巻でユミエラ2号=「ゲーム本来のユミエラ」が裏ボス化するまでの流れについては既に考察が行われて(そしてその想像がおおよそ正しかったことが今回の冒頭の2号の回想によって示されて)いるので、これだけ殺し合いのお膳立てをされていたのにふたりのユミエラがなんだかんだいいつつ仲良くなってしまう話が自然に始まるの上手いなあ。いや、元々ユミエラはちょっと誤解されやすくレベル上げジャンキーなだけの良い子なので、人間らしい少女の側面を覗かせる2号を見たらその時点で殺してまでレベル上限突破を果たそうとはしなかったでしょうけど。
ユミエラと2号が同じ身体を持つ別の魂であることを明示した上で、それでも彼女たちが明暗を分けたのは(他にも理由はあるけれど)魂の違いではなくてパトリックの手を取れたかどうかなのだと暗に語られていくのにニヤニヤしてしまう。この世界のユミエラだって、孤立を深めた挙げ句に世界を滅ぼしてしまうような結末はありえたわけだし、並行世界にも彼女に手を伸ばそうとするパトリックやどこまでもお人好しなエレノーラが存在したわけで。本当にこの物語の、パトリックが一貫して「ユミエラにとってのヒーロー」として描かれていく所が最高に好きだなあ。
お互いに殴り合い罵り合いつつもお互いのことを嫌いになれない二人のユミエラの関係がかわいかったです。また、親切なようで人間の「個」に興味がない闇の神、神らしい無関心さを装いながら人間らしい感情を捨てられない光の神の姿も印象的でした。ところでエレノーラは3巻になったとたんどうしてこんな大天使になってしまったのか!?たしかに1巻からチョロ可愛い娘だったですけど…ユミエラが手のひら返しすぎじゃありません!?
ふたりのユミエラ、『神』殺しに挑む
小競り合いをすることはあれどユミエラを害そうとはしなかった2号。彼女の真の目的は、彼女をそそのかして世界を滅ぼさせた『邪神』を退治することで…かくして、ユミエラはおおよそ初めての「勝ち目の薄い戦い」に挑むことになる。それにしても、ふたりのユミエラ(Lv99)+パトリック(おおよそ99)を持ってしても倒せるかどうかわからない相手に対し、少しでも勝率をあげようとダンジョンから強い武器を拾ってこようとして、だいたい以前ユミエラが取得済みという流れに腹抱えて笑ってしまった。夏のダンジョンボス周回祭りありましたね…。
やっぱりレベル上げは全てを解決する
2巻を読んだときにパトリックのレベル上限到達が早すぎると思っていたんですよね。予想以上にオーバーキルキルしていた…。ユミエラにとってのヒーローは絶対にパトリックなんだけど、勝利のカギはパトリックじゃなくて筋肉(たゆまぬレベル上げ)なところ、本当に最初から最後まで論点ゆがまなくて好きです。ユミエラと2号の道を分けたのが「パトリックの手を取れたかどうか」という話も、そこは本当にアツいところなんですけど、それはそれとして2号とその他のユミエラの明暗を分けたのは「ユミエラ式レベリングをしたかどうか」なんですよね。どういうことかわからないとおもうが明らかにそうなんだよ……やはり筋肉(レベル上げ)は全てを解決するんだな……。
しかし、こうなると次巻はいったいどうなってしまうのか。どんどんレベル上限を開放していったら大変なことになりそうだな…。いろいろな意味で気になります。