[著]岩井 恭平 [絵]るろお
“大喰い”との戦いで消耗し、自らの“虫”を暴走させてしまった大助。特環の隔離私設から逃げ出した彼は一人の虫憑きと、二人の少女に出会う。“便利屋”を名乗る少女・五十里きらりの家に匿われた大助だが、その街では“コアトルヘッド”と呼ばれるおまじないが異常な速さで広まっていた…!
面白かったです。面白かったのですが…今までの岩井作品って私の中で神すぎたせいなのか、岩井作品的には「今ひとつ」かな。“大喰い”との戦いで消耗し、自らの“虫”を暴走させてしまった大助。特環の隔離私設から逃げ出した彼は一人の虫憑きと、二人の少女に出会う。“便利屋”を名乗る少女・五十里きらりの家に匿われた大助だが、その街では“コアトルヘッド”と呼ばれるおまじないが異常な速さで広まっていた…!
今回は作品内に重大なトリックが仕掛けられており、そのトリック自体は確かに物凄く面白かったんですが、同時にそれがストーリー全体を複雑にして今までの「ムシウタ」にあった単純で独特な面白さとか感情移入のしやすさを台無しにしているように感じてなりませんでした。
ずっと殺伐とした世界で生きてきた彼が、ある意味普通の女の子の代表のような、そして自分に安らぎをくれた萌萌に惹かれていくのは良く判りますが、萌萌がどうしてここまで彼に惹かれたのかの過程がイマイチ伝わってこないのですよ。だからラスト付近の彼女の行動に感情移入できなかった。その他の部分は今まで通り凄く良いんだけど…多分今回仕掛けられたトリックの関係で…というのもあるのだろうけど、萌萌の心の動きはもうちょっと描写してほしかったなあ。ラストバトルも凄く駆け足で終ってしまって新しい虫憑きの能力も描写不足に感じて…うーん…やっぱ全体的に、今回は妙に描写が足りないというか。やはり萌萌に移入出来ないのが痛すぎる。特に新しい虫憑きの能力は、描写が凄く綺麗だったので残念に感じました。
今までバラバラに語られてきたキャラクター達が一気に集結し、暴走という形で大助の能力に回数制限が加わり、「そろそろこのストーリーもクライマックスに至るんだな」と感じさせるような部分が至るところで見られ…その高揚感とでもいうのか、そういうものは凄く感じられて面白かったんですが…。
キャラクター的にはメインヒロインである萌萌よりも、敵となる殲滅班のラウの物語に惹かれます。最後の最後で殲滅班としての“しぇら”ではなく教師としての“耶麻本ラウ”としての自分を取ってしまった彼女の姿に感動を憶えました。任務だから仕方なくやってるんだ!と言いながら実は凄く良い先生しちゃってるラウのヘタレっぷりに萌え(笑)
叙述トリックは例によってすっかり騙されましたし、二人の“大助”のくだり(重要ネタバレ)は物凄く良かったです。が、やっぱりヒロインに感情移入できなかったのが凄く肝…萌萌自体は凄く好きなタイプのキャラだったので、上下巻にしてでももう少し二人の感情の動きをゆっくりと描写していってほしかったです。
コメント
ムシウタ 08.夢時めく刻印
「そりゃ俺たちのどっちが薬屋大助か、分からなくもなるよな」
「当然だろ?俺たちのどっちも薬屋大助なんだから」
P316ページ 二人の薬屋大助の会話
ムシウタ 8 (8)岩井 恭平 (2007/02)角川書店 この商品の詳細を見
ムシウタ 08. 夢時めく刻印
ムシウタ 8 (8) 作者: 岩井恭平 出版社/メーカー: 角川書店 発売日: 2007/02 メディア: 文庫 「物語がいよいよ佳境になっていく感じだなあ。しかし、それにしても大助ズタボロだなあ」 と思った、続刊がもうでてしまっている8巻の感想です。 いやあ、積読しすぎだよ、おー