電撃文庫MAGAZINEに掲載された短編にちーちゃんと真奥の出会いを描く中編書き下ろしを加えた短編集。
あらすじ出た時から物凄い期待してたんだけど、漆原が訪問販売に騙される「魔王、誠実な商売を改めて決意する」が色々な意味で期待以上だった。珍しく責任を感じてしおらしくしているのに、結局芦屋がいないと自宅すら警備できない自宅警備員・漆原さすがのニート駄天使すぎる。まだとても慣れているとは言えない人間達の社会に振り回される元魔王軍TOP3とは対象的に、横からやってきてキビキビと事態の解決を図る女子3人がとてもかっこよかった。そしてラストの漆原デレにニヤニヤせざるをえない。
真奥が拾ってきた捨て猫に情が移ってしまう面々を描く「魔王、捨て猫を拾う」と真奥と恵美がアラス・ラムス用のお布団を買いに行って各所で夫婦扱いされたり微妙な距離感にわたわたしたりする「魔王と勇者、お布団を買いに」も相変わらずの地についた生活感満載でとてもたのしかった!そしてどたばたと楽しい物語の中、異世界の魔王とは思えない真奥達の人間臭さに困惑する恵美と鈴乃や、現在の家族のような関係がいつまで続くのかと様々な意味で考えてしまう恵美の様子がとてもよかった。
「はたらく女子高生 ? a few days ago ?」は進路に悩む千穂が偶然放課後に立ち寄ったマグロナルドで起きたトラブルをきっかけにしてマグロナルドでのアルバイトに応募するお話なんだけど、千穂ちゃんと出会ったばかりの真奥の常識の抜けっぷりヤバイ。仕事に関しては気配りまで完璧なのに、それ以外の日常知識が抜け落ちすぎな真奥さすが過ぎる……色々な意味で、あれでも本編開始時の真奥は色々社会勉強した後だったんだなあと実感するお話でした。
勿論バイト先の選択も良かったんだろうけど、その一方でバイト先でこれだけ和やかな人間関係を築けたのは彼女自身の人柄と、たゆまぬ努力のお陰なんだなあ。仕事を少しずつ覚えながら、なんだかんだで少しずつ真奥に惹かれていく千穂ちゃんが始めての気持ちに翻弄される様子がもだもださせられて大変可愛い。まだ自分の気持ちを自覚しきっていない千穂ちゃんの姿が可愛すぎる。
その一方で木崎店長のかっこいい大人ぶりにひたすらシビれる話でした。物事の考え方も物凄く憧れるけど、彼女の人材を見抜く目ってわりと尋常じゃないよね。
「そんな先のことなんか考えなきゃいい。来年のことなんを言えば鬼が笑う。大人になったって一年先のことも分からないのに、君達のような子供にそんな大味な選択を迫る今の大人社会の尻の穴の小ささはまことに嘆かわしいな」
そして木崎は、はっきりと言い切った。
「進路というのは、明日のために今日、何をするかを考えることだよ。一年先のことは分からなくても、明日自分が何をしたいかくらいは分かるだろう?」