タイトルと口絵でなんとなく展開を察してたけどおおよそ最高(最悪)の展開で紫陽花が登場して思わず叫んだ。終盤ちょっと駆け足な印象はあったけど、最終決戦にふさわしい総力戦に最後の最後でオチまでついてとても良いクライマックスでした。
水無月と紫陽花、二人を巡る様々な想い
リタに連れられ、イエッセルを脱出したカノン。吸血鬼達が隠れ住むアルプスの山村に匿われた彼女は、吸血鬼王ローゼンベルクからひとつの提案を受ける。しかしそれは、彼女の立場を大きく変えてしまうものだった。一方その頃、消滅したはずの水無月はなぜか“生身の”身体で覚醒する。色々あって期せずして生身の身体になってしまった水無月の動揺がめちゃくちゃ面白い。いままでのオートマタとして過ごしてきた自分の人間の情緒を理解できぬ行動・発言に頭を抱えるのも面白いんですが、カノンが作った新たな《白檀式改》に対して必死に自分と同じ過ちを繰り返させまいとする姿に爆笑してしまった。以前の彼の、極端に恋愛感情の機微を理解できない設定にしっかりとオチがついて(こんなところに1巻最大の謎だった白檀博士の『不適合』発言をもってくるのかよ〜!!)、二度笑ってしまう。全体的にしんどい展開の多い巻だったのでこの辺本当に癒やしでしたね…。
“ゼクス”という名を名乗り、ひとりの吸血鬼としてカノンやリタと再会した水無月。彼の瞳に映るのは自分の喪失を受け止めきれないふたりの姿と──自分のお気に入りの服を着て瓜二つの姿でカノンの隣に並び立つオートマタ《白檀式改》紫陽花。もうこの展開、カラー口絵とサブタイの“紫陽花”というネーミングからしてある程度察してしまいましたけど、本当に一番しんどいタイミングで爆弾を落とされるので破壊力が高い。
以前のように戦えないもどかしさに加えて、自分ではない誰かに自分の居場所を取られたかのような喪失感を感じるゼクス(=水無月)。そして甲斐甲斐しく紫陽花の世話を焼くカノンに複雑な感情を抱くリタ。そんなリタだって水無月を忘れられているわけがなく……一見穏やかなようで、剣呑としているような、不穏なような、それでいて物悲しいような空気感に震えました。そして感情を創造する過程である紫陽花の無垢さが、彼の辿る運命が、余計に胸に痛かった。
失意の中で、少女は成長する
母親を喪い、実家からは冷遇され、水無月までをも奪われ、今また政治の道具として狙われ続けるカノンが自らの境遇に改めて向き合い、公女として強く成長していく姿が印象的でした。特に3巻までは割と情緒不安定なイメージが強かったので、ここまで強くなったのかと。いやもう途中で紫陽花が登場したときにはいろいろな意味でめちゃくちゃに心配したのですけども…。水無月に戦わせまいとする一方で、どうしても戦わなければいけないときのための『力』をも用意しておく用意周到さすらも手に入れた彼女の成長が、最終決戦の場には居なかったにもかかわらず、どうしようもなく心強かった。
少し駆け足にも感じたけど、良いクライマックスだった
“公女カノン”の決起に呼応して吸血鬼達とカノンや水無月達の連合軍が首都奪還のために立ち上がる。このへんの展開は無理やり3巻で終わらせるためでしょうか、ちょっと駆け足な印象を受けてしまいましたが、その後の宿敵・ハウエルズとの最終決戦(巨大ロボが来る予感がしてた!!)や1巻からの因縁の敵との決着、リタによって目醒めさせられた新たな能力とカノンによって再び水無月の元に戻された武力の覚醒、最高に良いシーンでのタイトル回収──と全部乗せマシマシなクライマックスが最高に楽しかったです。良い最終回だった……と言いたいところなんですけどあとがきを見ると続きとなるプロット自体はある模様で今回は第一部完的なアレだそうで…。いつかなにかの機会に続きが読めることを楽しみにしていたいです。(あとがきから全力で漂う打ち切り臭がとてもかなしい…一応終わったと思える形で終わってるのがありがたいけどかなしい……)