「超絶テニス燃くん」の原画展のメッセージコーナーにこっそり貼られていたシェアハウス入居者募集のメッセージ。入居条件は「ちょテニ」の同人活動をしていて、なおかつ次のコミケでシェアハウスメンバーで出すアンソロジーに参加すること。集まったのは、個性も立場もぜんぜん違う4人で……。
同じ作品が好き同士の同居なんて上手く行かなくない!?と勝手に不安になりながら読んでいたのですが、同じ作品が好きでも楽しみ方が別な4人だからこそお互いの苦手な部分にはそれなりにスルーしたり配慮したりして相手の「好き」を尊重し、かといって遠慮しすぎることもない適度な距離感で付き合っていく。そのうちにお互いに作品を通してだけではない絆が生まれていって……という展開がとても良かったです。
シェアハウスの住民4人それぞれの視点から描かれていく群像劇なんだけど、大なり小なり同人活動やオタクをやっていれば感じたことがありそうな様々な葛藤やジレンマが印象的でした。普通の小説書きの腐女子である美影が同ジャンルの神作家であるヒデさんの正体を知って理由もなく尻込みする気持ちも、オタク活動に理解のない家族を持った直輝のジレンマも、夢女子OLの舞がオタク活動を楽しみながらも感じている将来への漠然とした不安も、そして商業作家を目指して一度は夢折れたヒデの作家としての葛藤も……完全に理解できるといえば嘘になるけど大なり小なり同じオタクとしては「わかる」部分がある。そして、根がありふれたものだからこそ、真正面からその悩みに直面して立ち向かおうとしている彼らを応援したくなる。そして、それぞれの悩みに対して、直接的に力になるというよりはそれとなく寄り添うことで力になっていく……という同居人達との距離感が心地よかった。(それはそれとして舞さんが騙されそうになった回、詐欺師との対峙に全員でついて行ってしまう彼らの仲の良さにはニヤリとしてしまったんですけど)
個人的に好きだったのは陽キャな初心者コスプレイヤー・直輝くんのエピソードで、尊敬している家族が自分の好きなコンテンツをバカにしてくるというジレンマに苦しみながらもコスプレすること/自らを着飾ることで好きな自分に近づいていくというマインドセットが印象的で。コスプレ周りの描写も良かったけど、父親から与えられたスーツに関する描写がすごく好きで、そこに自分を奮い立たせるためにこっそり同人グッズを忍ばせていくのにほっこりする。
あと、ラストのヒデさんのエピソードもめっちゃ良かったな……人間同士の心の機微がわからなくてそこが一次創作活動において欠点だといわれてしまった彼がシェアハウス生活を通して「絆」を感じたその瞬間に胸が熱くなってしまったし、商業作家時代の同期である現在は人気漫画家となった熊野とのやりとりが好き。
おたくの原稿どうですか? 池袋のでこぼこシェアハウス
著
泉 サリ絵
島 順太アニメ化もされた大人気少年マンガ「超絶テニス燃くん」の熱烈なオタクである女子大生・美影は、訪れた原画展のメッセージコーナーで奇妙な付箋を見つける。池袋のシェアハウス入居者を募るメッセージの条件は、『「ちょテニ」の同人活動をしている人』というものだった。集まったのは、嗜好も性別も年齢もバラバラの4人。BL好きの美影、夢女子のOL・舞、コスプレイヤーの大学生・直輝、神絵師・メシウマ太郎ことヒデは、冬コミで「ちょテニ」合同アンソロジーを出すべく奮闘することに。友達ともただの同居人とも言えない奇妙な関係を通じて、それぞれの人生は少しずつ変化していく。オタクライフに青春を捧げる男女4人の群像劇。