オフィス仲介会社の初の女性営業として周囲の期待を受けながら入社した咲野花。ところが最初の案件で躓いて以来トラブルが続き、契約が一件も取れないまま早乙女さんという男性社員が一人所属しているだけの謎の部署・「特務室」に異動させられてしまう。到底やる気があるといえない早乙女、任された仕事はテンプレ文を返すだけのクレーム対応と先の見えないブッカク──下調べ作業で……!?
地道な調査と観察によって導き出される「最良の回答」が気持ち良い
予想外の形でクライアントの地雷を踏んだり、ヒアリングしきれなかった情報に足をすくわれたり……と才能はあるはずなのにうまく仕事に結びつけられていなかった主人公・花が会社で昼行灯の遊撃部隊みたいな立ち位置をしているやりての上司・早乙女の元に異動させられて彼の一見奇抜な行動に翻弄されながらも自分の力で才能を開花させていくお話。オフィス仲介会社を舞台にしたお仕事小説としても、主人公の成長物語としても面白かった!一つの案件をひとつずつ解決していくのではなく、主人公が一つの案件をこなしている裏で社内では別の案件が進行していたり、それとは全然関係ない所で身近な人のお悩みを聞いていたり……彼らの「お悩み」や「すれ違い」──作中のあらゆるところに散らばっているピースが予想外の形で噛み合い、主人公の知っている所や知らない所で解決に導かれていく。複雑なパズルを解きおわった後のような読後感がとにかく気持ちいい。
そんな心理パズルのような展開を下支えしていくのが主人公達の堅実な情報収集パート。「ひらめき」や「偶然」から解決案が導き出されるのではなく、1件1件の地道すぎる物件調査・クライアントに対する深い理解やリサーチ・自分の足を使った実地探索を経ているからこそ、その成果として導きだされるたったひとつの最良の回答があるんですよね。本当に意味があるのか?と疑うような地道な仕事が成功に結びついていく展開が爽快でした。
お仕事小説としても面白かったけど、登場するキャラクターたちや彼らが織りなす人間関係も魅力的で。序盤は花が何者かにSNSでなりすましアカウントを作られて嫌がらせを受ける……という事件があって一度は会社をやめようとしたり、社内の誰も信用できない状態になるんですが、その期を経たからこそこれまでは表面上しか見えていなかった社員同士の信頼関係が見えてくる第二章が本当に良かった。メインである早乙女さんと花ちゃんの凸凹上司部下関係も好きなんけど、最初いけすかないやつとして登場したのに、なにかと同期の花のことをほっとけない光村君の存在が個人的にはめっちゃ好き。
お仕事モノではあるんだけど社内だけでなくてクライアントやライバル会社の社員・商店街のおじさんや元バイト先でお世話になっていたママやランチの時によく利用する中華料理屋の店員さんまで、ちょっとしたキャラでも個性たっぷりに描かれているのもとても楽しい。個人的に中華料理屋の陳さんがめちゃくちゃ良い味出してて好きなんですよね。主人公とは本当に殆ど縁のないキャラクターのはずなのに、この絶妙な個性の強さはずるいわ。