文庫版「空の境界(上)」+映画版1〜3章感想 | 今日もだらだら、読書日記。

文庫版「空の境界(上)」+映画版1〜3章感想

 

2年間の昏睡から目覚めた少女・両儀式(りょうぎしき)が記憶喪失と引き換えに手に入れた、あらゆるモノの死を視ることのできる“直死の魔眼”。浮遊する幽霊の群れ。人の死を蒐集する螺旋建築……。この世の存在のすべてを“殺す”、式のナイフに映る数々の怪異。非日常の世界は、日常の世界と溶け合って存在している。 あの伝説の同人小説の講談社ノベルス化が満を持して成就。“新伝綺”ムーブメントの到来を告げる傑作中の傑作がいま新生する!!

個人的お気に入り度数

映画と同時進行で1ヶ月1章ペースで再読を進めていた「空の境界」、漸く文庫版の上巻分まで読み終わったので映画版とあわせての感想を。どちらかというと映画版感想の比重が高いかも。

1/俯瞰風景
実は私、映画化決定直後に再読を決意して、1章読みきるのに1週間を要して力尽きたという素晴らしい体験をしました。映画のパンフレットに掲載された解説に「わざと難解な作りにした」との言がありますがぶっちゃけそれから判断すると私は一応最後まで読んだものの、確実に“奮い落とされた”側でしょう。空の境界という物語は元々判り辛い物語に7章の時間軸がバラバラに配置されていることで更に読みづらさを上げている作品ですが、この「俯瞰風景」という物語は物語の中ですら時間軸が錯綜します。そこに良い具合で橙子さんや幹也の薀蓄が入り込み……で、一言で言えばとにかく読み辛い。

…で、この時間軸の錯綜が映画版では発生しないのでかなりシンプルな物語として描かれます。映画版のビジュアルで補完しながら読むと、あれだけ解読に時間のかかった1章があっさり数十分で読めました。1章で投げてしまっている人は、とりあえず映画版を観てから本編を読むのもアリかと思います。この文章ならではの「読みづらさ」が解消されると物凄く面白いんですよね、実際のところ。

それで映画版の方ですが、個人的にはテーマソングもストーリーも、今までに見た3章の中では一番好きだったり。「銀幕で観る」事を意識した効果音にはとにかく惹きこまれるし、ビルの上を浮遊する少女達というどこか現実離れした風景は美しい。屋上で繰り広げられるバトルシーンもどこか現実離れしたかっこよさが…。そして田中理恵さん演じる巫条霧絵の最期の独白シーンには泣かされました。この回だけ2回見に行ってしまったのですが、とにかくあっという間の1時間でした。

あとハーゲンダッツの殺傷能力が高すぎます。式可愛いよ式。

2/殺人考察(前)
高校生時代の幹也が式と出会い、式が昏睡状態になるまでの話。最初に本編を読んだときも一番内容を覚えていた話なんだけど、やはり1章&3章と比較すると全然読みやすかった印象。実はというか予想通りというか、この話に登場する式のもう1つの人格“織”が凄い好きなので、織と幹也のデートシーンではニヤニヤが止まりませんでした。ちなみに映画版のデートシーンではもうひとつ、「月姫」シリーズ好きには思わずニヤリな仕掛けが。

映画版は幹也と式(織)の日常がメインになる分、他の2章よりも冗長な印象を少しだけ受けました。というか、内容を全く理解できてなかった1章・3章と比べて内容をそれなりに覚えていたのが逆に冗長さにつながってしまったのか…でもまだ初々しい二人のやりとりにニヤニヤ出来る、良い話です。式の笑顔が結構良い確率で見れるのも個人的には美味しい。後半殺伐だけど気にしたら負け。

余談ですが、織と幹也のカップリングはやはり腐カップリング扱いなのでしょうか。うーむ。1章・2章終わったあとに「コクトーはヒロイン!!コクトーはヒロイン!!と騒いでいたのは何を隠そう私です。

3/痛覚残留
式が目覚めて2ヵ月後に起こった、式が左腕を失うきっかけとなる話。出番が空気でお姫様状態な1章、なんとなく妙に悟った感じの高校生時代な2章と比べ、不思議と3章の幹也が凄く人間臭く感じてました。それまで解説担当というか薀蓄担当みたいな印象があった彼がアクティブに動く姿が見れるからかな。しかし、1度読んでる筈なのにカケラも内容を覚えていなかったのはなんでだ…orz

映画版を観た後に原作を読んだら、かなり様々な部分が削られてシェイプアップされてますね。藤乃と幹也のやりとりは相当短縮されてますし。ただ、だからこそ「映画を見た後に原作を読んだら、映画では判らなかった部分が理解できた」というのが結構多かったように感じます。かといって、映画がつまらなかったと言うことは全く無く、細かい描写を省いた分バトル面が引き立っていたような。バトルシーンは3章が一番気合はいってます。式と藤乃の超能力者対決は特に必見。

ちなみに映画版は始まった途端にいきなり「ギッコンバッタン」です。
擬音が何を示すかは推して知るべし。
てっきりグロ方面やファン層の関係でレイトショー公開だと思っていたのでこっちの方面で攻めてくるとは予想外でした。いや、確かに原作でもそういう類の表現あったけどよ!!!

映画版。ラストの式の笑顔は反則です。可愛すぎます。

総括
「空の境界」本編はとにかく難解で判り辛く、読みづらい小説です(少なくても私にとっては)。ただ、そのとんでもない読みづらさを無理に押してでも、ラストまで読んでしまうような魅力を持つ作品であると思います。解説の綾辻行人さんが評されているとおり、キャラクターにしろストーリーにしろとにかく「かっこいい」という言葉が似合う作品。

とりあえず映画を見て、ビジュアル面での補完を行ってから本編を読むと非常に読みやすくなるので、その辺で詰ってしまっている人にはとりあえず映画見るのを超オススメします。映画は本当にクォリティ高いので、原作を全く知らない人でも十分楽しめるかと。そして、該当する章を読んだ後で再度映画館行くと、文庫版で更に補完が出来ているので新しい発見があったりするかも。

とにかく、文庫版は単独で読もうとすると難解なんだよなあ……私の読解力が無いといわれればそこまでですが、特に「俯瞰風景」で投げてしまう人は凄い多そう。Web小説として掲載する際は確かにある程度読者の振り落としを必要としたのかもしれないけど、それが現在まで残ってしまっているのはなんだかもったいない。

あと、今回映画版を見てつくづく思ったのですが、やはり奈須氏の文章はビジュアル面での補強がそろって初めて真価を発揮するんじゃなかろうかと思うのですよ。「DDD」ではその読みづらさは多少なりを潜めた印象がありますが、やはりどこか読みづらい印象は拭えない。その読みづらさが、「月姫」や「Fate stay/night」では全く感じられないんですよね。別に文章力が無いとかそういうことを言いたいわけではなく、ただ「そういう」文章なんじゃないかと。だからこそ、やはり小説版で満足している人も映画版を一緒に見て欲しいなあと思う。「小説版」「映画版」の相互補完によって空の境界という作品は初めて完成するのではないかと、そういう印象を受けました。

そして映画版。とにかく効果音とかが映画の大迫力で観ることを前提に作られているというカンジなので、観れる環境があるなら是非映画館に見に行くべき!!と主張したい作品です。…とはいうものの、常時満員御礼&Web予約は日付変更後数分で完売という状態が3ヶ月続いているので相当の気合とか根性が必要となりますが…上映映画館少ないし、地方じゃやってないし。あと男性比重が極端に多いので、個人的に女性一人では入り辛い雰囲気が結構ありますね。女性一人で行って立見とかになると相当きついかも。でもそんな障害を乗り越えてでも、見に行く価値のある映画だと思います。

最後に、映画が始まる前のクレイアニメーションは型月厨的に超必見。猫アルクとかやさぐれ凛とかが何気なく出てきて、ファン心をくすぐりまくりやがります。
DVD化の際は当然映像特典として収録していただきたいところ。

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