webに投稿されていたループもののファンタジー小説『妖精姫物語』をきっかけにして知り合った派遣社員の咲良と小説の作者である真砂。その出会いから十ヶ月後、真砂から彼女自身が『妖精姫物語』の主人公・ローズィアであったこと、投稿された小説は彼女自身の体験談であり、15回のループをもってしてもなお物語はバッドエンドのままであると知らされる。彼女の意志を引き継いで主人公のローズィアに成り代わり、物語世界を変えようと動き出す咲良。彼女には妖精姫ティティの他にもうひとり救いたい人がいて……。
絶望を前にしても歩みを止めない主人公がかっこよかった
2年でループを繰り返す『妖精姫物語』の世界に転生した主人公が、親友である妖精姫・ティティと隣国の王子ユール、そして物語世界を救うために奔走する物語。友人・真砂が描いたその物語が大好きでそれを読み込んで得た世界の知識、派遣社員として苦労しながら生きてきた現代の人間としての経験が自然に彼女の異世界での行動の助けとなっていくのが良かった。ペーペーの派遣社員では上司やら何やらに阻まれて上手く活かせなかった「人と人を繋ぐ」という才能が貴族令嬢として一定の地位を得たことで花開いて彼女の助けとなっていくのが感慨深いし、ティティだけでなくかつての「推し」だったユールも救いたいというエゴが事態打開の鍵となっていくのが印象的でした。ループを重ねる毎に状況が悪くなっていくというか物語の裏側が明かされる度にティティやユールを救うことがいかに無理ゲーか明らかになっていって、時に過去の選択を悔やみながら……それでも彼女達を救うことを絶対に諦めず、前を向いて歩み続ける主人公・ローズィアの姿が最高にかっこよかったです。そして、彼女の「推し」であり物語世界での唯一無二の相棒であるユールとの関係性が良かった……!2周目の世界でこれまでの知識を駆使して人脈と権力を手に入れて最強モードな主人公が隣国に出向いて「儀式王」としてループの途中で死ぬ運命にあったユールの死亡フラグをバッキバキにへし折りにいく所とかかっこよすぎて、これはユールにも好意が魂に刻まれてしまうわ……いや多分この後の三周目、特に言及されてないけどユールの魂に好意が刻まれてましたよね?そうじゃないと説明できない感じありましたよね?現実の人間として関わっていくうちに二次元のキャラクターとしてではなくリアルな人間として彼に好意を抱いていくけど、かつて「推し」であったが故にリアルの恋愛対象にしたくない咲良のジレンマ、3周目のユールが知らず知らずに2周目のユールに嫉妬していくさまにもニヤニヤしてしまった。推しとの恋、やり直しファンタジーでの恋愛の美味しいところきっちり拾ってくるのが実にニクい。
どうして儀式が失敗するのか、何故2年間しかループできないのか、「ローズィア」だけが記憶を保持しているのはなぜなのか、どうして「ローズィア」への成り代わりが何代にも渡って異世界の人間達に引き継がれていくのか、そもそも最初の「ローズィア」はどうなってしまったのか……すべての疑問に答えが与えられ、世界の本当の姿が少しずつ姿を見せていくのが気持ち良かったです。そして世界の謎を解く鍵として、「魔女」「聖女」「妖精姫」といった超常の存在達が綺麗にハマっていくのも良かった。
特に聖女まわりのアレコレは本当にズルいわ…………。