[著]中村 恵里加 [絵]たけひと ある晴れた日、フェンスで囲われた屋上で布団を干している大田真章に向かって声が掛けられた。やたらと不機嫌そうなその声は、フェンスの向こうから聞こえてきて…捜査六課の面々の日常、片倉優樹の過去、そして『あれから』の話を収録した短編集。 |
「Dead or Alive」「Momentary Happiness」「汝の隣人は燃えているか」
それぞれ大田、安藤&虎司、夏純のなんてことない日常を描いた短編。
このまま本編の間にちょっと入ってても何の違和感のないだろう、ほんとうになんてことない「日常」を描いた3作…なのに、完結した後に読むとちょっと切なくなってしまうのは何故だろう。個人的に一番好きだったのは安藤さんと虎司が焼肉に行く話を描いた「Momentary Happiness」かな。メインである焼肉の話もなんかもうありありと情景が浮かんできて素敵なのですが、ちょっとだけ追加された『あの後』の話にぐっとなりました。安藤さんと虎司の初々しいカップル(?)ぶりが素敵。
「こどもらしくないこどものはなし」「こどもらしくないこどもにすくわれたはなし」「こどもらしくないこどもとぶこつなおにのはなし」
片倉優樹が小学生の時に起きたとある事件に関わった、2人の同級生の話と小学生時代の優樹が飯田と出かける話。
自分の気持ちを伝えられない事を後悔し続ける少年と、気持ちを伝えられた筈なのに上手く伝えられなくて今でも時々彼女に想いを馳せる少女の話は、この物語の結末を知っていると無性に切なくなる。優樹の気付かないところで彼女の優しさに触れた人々が確かに存在したのだと、感慨深い気持ちになりました。
…といいつつ、一番ツボだったのは誰がなんと言おうと「ぶこつなおにのはなし」です。飯田可愛いよ飯田。
さりげなく浦木に振り回されてたり、お嬢さんの反応に一喜一憂する飯田モエー。
「続いた世界のある顛末」
片倉優樹が物語の舞台から去った後、捜査六課に戻った山崎太一朗と未知、そして残された捜査六課の面々のお話。
警戒心バリバリの未知にどこか不器用な形で接する太一朗に思わずニヤニヤ。太一朗に触られる事を拒む未知に対し、太一朗が打ち出した妥協案には爆笑してしまいました。この二人、予想以上に良いコンビだ。
捜査六課に戻った後の展開は…特に何処がどう、というわけでもないのに無性に涙が出た。取り返しのつかないことをしたと、元の関係には戻れないのだと言外に強調する大田。かつてと変わらない虎司。様々な意味で変わってしまった太一朗。それでも、この3人が再びお互いに語り合う姿を見られたのが無性に嬉しかったのか。それとも、そこに片倉優樹の不在を感じてかなしくなってしまったのか。淡々と未知やアヤカシ達の怒りの言葉を受け、それでも「死にたいと願いながら死ぬまで生きる」と言う太一朗の姿には、どこかいなくなってしまったあの人の姿を感じさせて、余計に哀しくなった。何気にまともに喋るのは初めてな夏純と太一朗のやりとりがなんか好きだったなあ。
そして優樹の「全て任せる」という言葉を受けて彼女の意図を汲んで行動していく大田がかっこよすぎる。本編9巻以降、美味しいところは片っ端からこの傍観者が総取りしていった気がしてなりません。
「おじさんは、ゆうさんのこと、すきだったの?」
「ああ、好きだよ」
最後の未知と太一朗の会話がまた、胸をしめつけてくる。未知が過去形で問いかけた質問に対し、「現在形で」応える太一朗の想いが切ない。短い邂逅の中、最後の最後まで分かり合えない二人が片倉優樹を通して通じ合う言葉のやりとりに、また無性に泣けてきた。ほんとにもう、なにがなんだかわかんないくらいに泣いた。
最後までダブルブリッドらしい、最高の物語でした。
これで最後なのは哀しいけど、次の物語を楽しみに待ちたいと思います。
ダブルブリッド完結で4年待った私に怖いものなんかないぜ!たとえ続きが絶望視されても「ソウル・アンダーテイカー」の続編を夢見続けたいと思います!いや、ほら、こないだ久しぶりに続きが載ったし!!
…「ゲームネタ満載の笑えそうで笑えないパラレル番外編」が超気になります。それで1冊出しませんか。学園キノ的なノリで。