幼馴染であるひかりから頼まれたのは、彼女の推しである探偵系Vtuber「ほむるちゃん」がリスナーたちに出した「依頼」を解決することだった。エンジニアをしている啓は持ち前の技術力を活かして彼女からの依頼を解決していく。3回依頼を解決したリスナーにはチャンネルのコメント削除権限であるスパナが贈られるというのだが……。
数多の選択肢から「愛ある解」を模索する物語
技術ガチ勢である主人公がプログラミングやAI技術を駆使して「ほむるちゃん」から投げかけられた依頼を鮮やかに解決していく展開がとにかく楽しい物語でした。たった一つの真実を見抜くのではなく、数多ある解の中から依頼者にとって最良となる「愛ある解」を選び取り更にそれを主人公の持つ技術力で解決していく展開が面白い!依頼者本人の事情や心情を掘り下げてそれによりそうだけでなく、リスナーに依頼したほむるちゃん自身にとっての最良ということで動画の撮れ高まで意識した華やかなエンタメバトルになっていくのがまた面白かったです。そして、鮮やかな探偵劇の裏側で明かされていく主人公・啓とその相棒である幼馴染・ひかりの複雑な関係性。徹底的に依頼者の心情を重視する啓が胸のうちに秘めた過去の事件と後悔。探偵系Vtuberほむるちゃんの前世・宮本ミカンが引退した事件の真相。これは宮本ミカンの炎上に際して何も出来なかったひかりが転生した推しに今度こそ何かをしたいと思って力(スパナ)を求めてはじまった物語であり、ほむるちゃん自身が「宮本ミカン」というかつての自身の未練を振り払うための物語でもあったんですよね。2つめの依頼まで物語を進めるための書割みたいな存在でしかなかったほむるちゃんが「3つめの依頼」の掘り下げによって一気にリアルな人間として肉付けされていく姿が印象的だったし、ラストの啓とほむるちゃんとの対話がめちゃくちゃ良かった……。
もうひとつの「推し心の後始末」
ところで、いなくなったVtuberに対してファンがなにかしようとする物語と言うと同作者の「鈴波アミを待っています」をどうしても連想してしまいます。こちらもめちゃくちゃ好きだったな……。あちらの主人公がひとりよがりに迷走して自身も傷つきながら浮かび上がった推しを一瞬だけ再び舞台に上げてどちらも表舞台から消えていく物語であったのに対し、この物語は宮本ミカンを喪ったひかりが幼馴染である啓の助力を得て他のファンも巻き込みつつ新しい姿になった推しを今度こそ輝かせようと奮闘する物語となっていて、読み終わってみると対象的な展開になっていたなと。展開もジャンルも全然違うんだけど、もう一つの「推し心の後始末」の物語だったなと感じました。
どちらもめちゃくちゃ面白かったのでこちらが刺さった人はあちらも読んでほしい。
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