アイドル声優が大好きで、声優養成所の門を叩いた普通の女の子・藤井杏奈。両親の反対を押し切り、声優・柚日咲めくるとしてデビューした彼女だったが、「声優」が好きなあまりオーディションで本気を出せないという弱点を抱えていた。声優としての岐路に直面した彼女は、声優ファンとしての自分を封印しようと決意するが……。
限界オタクの推し語りは健康に良いので傑作(特大言語)
態度はキツいが頼れる先輩であり、限界声優オタクである柚日咲めくるが声優としての・オタクとしての自分に向き合うお話。柚日咲めくる……というか彼女の内に潜む「限界声優オタクの藤井杏奈さん」視点で語られる物語が楽しい。そしてそんな彼女の内心を知っててわざと距離の近い営業してくる夕陽&やすみの後輩コンビがまた、めちゃくちゃ破壊力高い。周囲に気取られないように隙あらばファンサをかかさない生粋のアイドル声優・歌種やすみとそんな彼女のアドバイスを受けて人のいない所で不器用に迫ってくる夕暮夕陽の多重攻撃、破壊力が高すぎる。今回はめくるの一人称という時点で限界オタクの早口語りな一人称文体がめちゃくちゃ健康になるんですけど、同時にファンの視点から描かれる夕陽&やすみの姿がめちゃくちゃ印象的でした。いやこんなの藤井杏奈ちゃんじゃなくても死ぬわ。
「推せる自分」になるために
夕陽ややすみの視点から見ると「頼れる先輩」である柚日咲めくるの、彼女らには決して見せない葛藤と焦りが印象的でした。声優が好きすぎるあまり、自分が他の「声優」を押しのけて役を穫ることに違和感を感じてしまう彼女が、苦手なオーディションから逃げて、声優ラジオを通して「他の声優を生かす」役割を演じようとする。でもそれをちゃんとやるためには自分自身が売れっ子声優にならないといけない、というジレンマ。だがそもそも自分だって他人を背負えるほど安定しているわけではなくて……回り回って自分の中の自分を殺す決意をしてしまう彼女の思いが、胸に痛い。でもそんなめくるに相方・夜祭花火や後輩達が示したのは、彼女自身を殺さない道。藤井杏奈こそが柚日咲めくるの一番のファンになれば良いという、考えてみたら当たり前の道で。彼女たちの後押しを受けて藤井杏奈ではなく「柚日咲めくる」として、声優として改めて一歩をふみだす姿が最高にアツかったです。
それにしてもこれ5巻(の作画崩壊限界アニメ現場の話)と同時進行で進んでいた6巻(アイドル声優ユニットのリーダーに抜擢され、問題児だらけの新人声優達と対決する話)のさらに裏に存在する物語ということになるわけですけどこの期間で事件起きすぎでは!?しかもこれ多分8巻は今回の話の後半の時間軸になりますよね。いやほんとに濃厚だな……。それにしても6巻の裏側、まさか相手が歌種やすみの限界オタクだとはつゆ知らずにやすみのこと愚痴ってくる飾利ものすごく趣深いな……。