ちょっと聖女に「意地悪」をしただけなのに、「なぜか」王太子から婚約破棄されて処刑されてしまった公爵令嬢セリーナ。なぜか少女時代に戻って人生をやり直す機会を得た彼女は、こんどこそ破滅の道を歩まないよう努力することを決意する。そう、処刑の際に力付くで取り押さえられて助けてくれる部下も居なかったから死の運命を回避できなかった……それならば、自らの肉体を鍛えて対抗できるようにして、更には自分の危機となれば命を差し出しても助けてくれる忠実な部下を育成すればいいのだ!!……と。
死に戻りではなく精神年齢で変化していく価値観の描写がリアル
処刑されて人生をやり直すことになったものの色々と懲りない主人公が今度はもっと狡猾にやりたい放題やろうとするお話。作者さんの作品で読んでいるものが「誰が勇者を殺したか」しかなかったのでこちらも結構シリアスな感じの物語かなと思っていたのですが、どちらかというと懲りないセリーナの無茶苦茶な行動や、悪意を持ってやったことが微妙に斜め上の方……本人の望まぬ方面に解釈されてしまって予定が少しずつずれてしまったり一周回って本人の意図しない形で思惑通りになってしまったり……が楽しいお話でした。最後まで読んで物語の全体像を振り返ると普通にシリアスで重たい話をやっているんですが、それを重くみせない軽妙な展開が楽しかったです!一度死んだくらいでは揺らがなかったセリーナの価値観が、精神の成熟・老成とともに変化していくのがなんというか生々しくて良かった。いや確かに、死んだくらいで倫理観変わらないよなと思うし(死んだことないからしらんけど)その一方で10代の頃の価値観と40代で持ってる価値観って明確に違うんですよね。良く言えば成熟するし、悪く言えば「枯れる」。転生物でよく言われる、精神は3〜40代を迎えているはずの人間が10代の価値観を持ったまま人生をやり直していく違和感みたいなのが全然なかった。
犬嫌いにとっての犬の描写がリアルすぎて共感しました!(犬苦手)
そんなこんなで彼女の未来の従者(=処刑されそうになったとき肉盾になってくれる心無きマシーン)にするため引き取られた孤児院の鼻つまみ者の子供たち6人が、セリーナが又聞き知識で作り上げたハート◯ン軍曹もビックリの地獄の特訓に晒される。最初は不満たらたらだったけど、実力をつけていくうちにいつのまにか「何者でもなかった自分をひとかどの人間にしてくれたセリーナ」へ恩義を感じ始めて心から忠実な従者になっていく……というちょっとしたすれ違い展開も楽しかったのですが、なによりセリーヌが子供たちに育てさせた犬(※絆が生まれたところで殺して子供たちの心を殺すつもりだったが色々目算違いが起きて殺せなくなった)への反応がリアルすぎて笑ってしまった。セリーナの犬嫌いの描写がリアルすぎる。なぜか犬を苦手としてる人間にジャレつく犬の描写わかる〜〜!!!し、すっかり犬好きになった子供たちがセリーナが本当は犬好きだと誤解してこっそり彼女に犬をけしかける展開が犬好きの傲慢〜〜!!!という感じでめっちゃ好き。そうなんだよ、犬嫌い(苦手)ってみんなこうだし犬好き・猫好きのやつらは全世界の人間が犬猫好きだと思ってるんだよな。そんなことないよ。あとがきで作者さんも犬が好きではないと仰られていてなるほどな……となってしまいました。……ただ、犬が嫌いというだけの話に留まらず、嫌いだと思っていた犬のことを長く触れ合っているうちに「嫌い」とまでは言い切れない複雑な絆が芽生えていったり、なんだかんだ別にお前らに死んでほしいわけではない、どちらかというと死なないでほしい、くらいに情が芽生えていく描写まで含めて本当にわかるすぎて……。
セリーナの視点だけでなく、6人の子供たちのまなざしを加えることで全体像が見えてくる物語がとてもおもしろかったですし、セリーナが「なぜか」少女時代に巻き戻ってしまった理由をはじめ、物語に散らされた些細な違和感・伏線が最後の最後で一気に明かされていくラストはとても気持ちよかった!……と思わせておいて最後の最後で明かされるアレさあ!!いや本当にそこまで読んで全てに納得がいったという感じだったけど!!!
しかしひとつだけネタバレをすると犬が死ぬ話なのでそういうのがダメな人は読まないほうが良いという注釈は入れておきます。なんかツイッターでそこは教えろって話をよく見るのでな……。