誰が勇者を殺したか | 今日もだらだら、読書日記。

誰が勇者を殺したか

駄犬
 
toi8

勇者は魔王を倒した。同時に――帰らぬ人となった。
 魔王が倒されてから四年。平穏を手にした王国は亡き勇者を称えるべく、数々の偉業を文献に編纂する事業を立ち上げる。  かつて仲間だった騎士・レオン、僧侶・マリア、賢者ソロンから勇者の過去と冒険話を聞き進めていく中で、全員が勇者の死の真相について言葉を濁す。 「何故、勇者は死んだのか?」  勇者を殺したのは魔王か、それとも仲間なのか。  王国、冒険者たちの業と情が入り混じる群像劇から目が離せないファンタジーミステリ。

魔王を倒し、その帰り道に命を落とした勇者アレス。それから4年後、落ち着きを取り戻した王国は勇者の偉業を遺すために文書の編纂事業を立ち上げる。かつての仲間たちが言葉を濁す中、少しずつ本当の真実が見えてきて……。

勇者の足跡と世界の真実を巡るファンタジー&ミステリー

かつての仲間や家族・隣人達からインタビューという形で聞き出した言葉と、アレス自身の体験を交互に語りながら勇者アレスの生き様とその深層に迫っていく物語。同じエピソードを何度も行きつ戻りつして語っていくというともすればテンポ悪くなりそうな形式でありながら、語り手の視点が変わることで全く別の物語となっていくのが印象的でした。

まず真っ先に彼と共に魔王を倒したパーティーメンバー3人(剣聖・聖女・賢者)の話を聞くわけですが、この3人がまず完全にアレス大好きでニヤニヤしてしまう。それぞれの分野での「天才」であり自分以外の人間を見下していて能力は高いが他人と協力することを是としない3人が、能力としては凡人で身分も低くそれでいて「勇者になる」という信念だけは人一倍あるアレスのひたむきな(といえば聞こえが良いが、実際に見てみれば“異常”な)努力を目の当たりにしてそれぞれの驕りを打ち砕かれてしまうという展開がたまらない。そして、言葉ではどんなに冷たいこと言っていてもそれぞれがアレスに対してクソデカ感情持ってるのがまるわかりなんだよなあ……色々な意味でハードな展開の物語でしたが、彼ら3人の存在は良い意味で物語を読んでいく上でたいへんな癒やしでしたし、心強い道標であったなと思います。(個人的には物語が終わった後のおまけ短編での彼らが微笑ましすぎて好きすぎる)

“勇者”という存在に異常なまでに固執する努力型の凡人・アレスの行動に天才達の意識が変えられていく姿が印象的な前半、そして勇者アレスにまつわる物語の真実と「世界」に纏わる様々な謎が紐解かれていく後半。4年後という時期で特に身近に居たわけではない隣人達の視点からではアレスというかつてそこにいた誰かに対する印象が「魔王を討伐した勇者」という強烈なイメージの上書きによって少しずつ歪に変化していて……しかしそんななかに埋没しかけていたひとつの違和感が形を取ったとき、ほんとうの物語が明らかになっていく。この辺はネタバレになってしまうのであまり詳しくは語れないのですが……あらゆる意味で「誰」も期待していなかった一人の少年が異常な努力と執念で全ての状況をひっくり返していった真実の物語は物悲しくもあり、その反面どこか痛快なものでもありました。

謎が謎を呼ぶ展開、魔王ですら太刀打ちできなかった勇者を「誰が殺したのか」──物語を追うにつれてこの言葉に二重・三重に意味を持たされていく展開がとても面白かったです。世界はどこまでもままならなくて、でも最後にはどこか暖かい気持ちになるエピローグがとても良かった。しかし続刊が決定したとのことですけどこの巻できれいにまとまりすぎてる感じだけど何やるの……??

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