生き残った妹の為に閻魔の使いとして蘇り、亡者でありながら亡者を狩るミソギ。死んだ姉の存在に心を囚われたまま、死んだように生きる亡者狩りの聖職者・アッシュ。亡者の街『東凶』を舞台に正反対のふたりが街を揺るがす陰謀を追う物語。
シスコン亡者×シスコン聖職者が繰り広げるバディアクション
初対面では普通に殺し合うし、協力することになってからも剣呑な会話ばかりのミソギとアッシュ。立場的にも性格的にも相容れないはずの彼らが利害の一致をもってひとときのバディになる……とかもう好きに決まってるんですけど!?何かと交わされる剣呑な掛け合いと、中二心をくすぐられるスタイリッシュな言語センスにニヤニヤしてしまうし、仲が悪いのに妙に息が合っている二人のやりとりに更にニヤニヤしてしまうし、正反対の二人が胸のうちには全く同じ「家族を守りたい(守りたかった)」という出発点を秘めているということにもニヤニヤしてしまう。そしてオタクは好きなことになると語彙力をうしなってしまう。
亡者の街を生き生きと駆け巡る、人間達が印象的
男同士のバディもの大好きオタクとしてはどうしてもミソギとアッシュの関係ばかり強調してしまうのですけど、彼らの周囲のキャラクターたちも最高に魅力的でした。特に、アッシュの仮初の姉として任務についた聖職者の少女・フィリスの葛藤と、そんな彼女がアッシュの姉ではなく「フィリス」としてアッシュに向き合っていく姿が印象的。姉の死を受け入れることが出来ず、仮初の『姉』の存在を与えられることで組織の尖兵として制御されていたアッシュが、ミソギをはじめとした東凶のひとたちやフィリスの姿に感化され、姉の死を受け入れて前に進もうとする姿がアツかったです。
自らが死ぬことも計算づくでとにかく『面白い』ことがしたい酔花、世界を滅ぼしてでも金儲けがしたい敵組織の頂点・真淵……と、いろいろな意味で頭のネジの外れた生者達の大暴れも楽しかった。というか、周囲の被害もお構いなしの手加減なしのエゴのぶつけ合いなんて、楽しくないわけがないよね。
怒涛の如く展開される戦闘シーンに圧倒される
作者さんの作品を読むのはこれが初めてだったのですが、文章を擬音を単語を弾丸のように矢継ぎ早に撃ち出していくクライマックスの戦闘シーンがとにかく印象的で、圧倒されました。文章でありながら、密度の高い大ゴマが連続する少年漫画を読んでいるような感覚。主人公二人が並び立つ挿絵も相まって、めちゃくちゃ迫力ありました!あとがきで「B級2時間映画みたいな火薬特盛バディアクション」と言われていたけどまさにそんな感じで真面目なことやりながらも最後はひたすら火薬と勢いで押していく感じが爽快で楽しかったです。
唯一、電子書籍で読んでいるとアッシュが救済兵装(ガトリングガン)を撃ち出すシーンが文字なのに挿絵扱いになっていて、フォントや背景色の設定を変えて読んでるせいでちょっと気分削がれてしまったのですが、こればかりは仕方ないのか。図表を使ってるページとか、特殊な文字配列するSFなんかは既存の電書システムだと文字データに出来ないみたいなのよく見るので仕方ないんですが…続編が出た時は紙で読もう……。